大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

痣と祭り

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『起きてください、マスター』
「…時間か」
軽く欠伸をしながら身を起こす。
身体には未だやんわりとした疲労が、しなだれかかるようにまとわりついている。
なんと言うか、常時面倒臭い状態という感じが当てはまるか。
あんなことがあったし、とりあえず寝て疲れを取るつもりだったのだが、頭痛が無くなった程度か。まぁ、二時間程度の睡眠、しかも浅いものだったし、こんなもんと言えばこんなもんか。
アーネが指定した時間的に、夜はまた出店で食うつもりなのだろう。
「どれ、そろそろ行きますか」
立ち上がり、そう言えば右手のこれはどうしてやろうと思い出す。
現状、左腕は使えないので、金を払うにも物を受け取るにも右手しか使えない。こんな物があれば何も知らないヒトは驚くだろう。
少し考え、マキナを呼ぶ。
「腕輪」
『了解しました』
それだけで俺の思考を理解したマキナは、黒い痣の所に銀剣と同じような文字を刻んだ腕をつける。これならパッと見分かるまい。
「魔力を吸われたりしてる感覚はあるか?」
『ありません』
「他、異常は?」
『……確認できません』
ふむ、マキナでも痣は何かよくわからんか。後で爆発とかしないよな?
現状は何言っても仕方ないのでそのまま放置しかないのだが。二、三日しても残るようだったら、アーネに相談か。
そんな事を思いつつアーネと合流。再び街へと向かう。シエルは月が出ているので外に出られないのが残念そうだった。
まぁ、あんなものを生まれた時から抱えているのだとしたら、トラウマになるのも当たり前なのかもしれないが。
「しかしこの喧騒も懐かしいな…あれが一年前か」
「えぇ、まだ一年前ですわ。あの時はアリスもいましたけれど」
見渡す限りのヒト、ヒト、ヒト。
あちこちで楽しそうな声や、同時にトラブルらしき声も聞こえる。
「懐かしい。一年前を懐かしいって言っていいのかどうか知らんが」
「普通は言いませんわよ。けれど、色んなことがありましたものねぇ…」
思い返せば、そうそう経験できる一年ではない。そして何度俺は生死の狭間をさまよったか。アーネがいなけりゃとっくの昔に死んでいた。
「そういや、地下でアレと会ったのも丁度一年前か」
「アレ?」
アーネがそう言い、思い出して眉根を寄せる。
「…ありましたわね。そんなこと」
「昼間に行ってみたんだが、あの教会消えてたんだよ。なんか知らねぇ?」
「場所を移設したんですわ。もっと街の中心の方に。ただ、資金が少なかったのかかなり小さなものですけれど」
「んじゃあの教会は?」
「安全面を考慮して、既に取り壊し済みですわ。壊すだけなら簡単ですし、手間もかからないですもの」
まぁ、スキルや魔法使えば簡単か。俺やナナキからすると中々骨な作業だが、その辺はどうとでもなるのだろう。
残念ながら跡地となったようだが、明日辺りまた調べに行くか。
「とりあえず色々見て回るか」
昼間にも来たが、その時とは出店がガラリと変わっている。珍しい物もあるだろう。
「えぇ、シエルへのお土産も探したいですわね」
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