大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

腐屍者と勇者2

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切る。
「おおおおっ!」
斬る。
「ああああっ!」
キル!
「ぜあああっ!!」
右の金剣、左の銀剣、両方を縦横無尽に振り回し、屍者ゾンビ飢餓者グールも一緒くたにして斬っていく。
どちらも俗に言う死者アンデッドなので、腐ったその身体には刃のない銀剣すら易々と身体に突き刺さり、そのまま骨と一緒に断ち切ることが出来る。
──しかし。
数が多い。多すぎる。
四方八方を囲まれ、前後左右上下、ありとあらゆる方向から死者が押し寄せ、囲いを狭めながら襲ってくる。
さらに。
屍者ゾンビ飢餓者グールを倒す際、気をつけなければならない事がある。
どちらも歯や爪で攻撃してくるのだが、その攻撃に晒されると、そこから猛毒が身体に入り込み、その部位が腐り落ちたりする。
つまり、攻撃を一切受けてはいけない。この夢の中で、その毒がどれほどの効果を発揮するのは正直未知数だが、最悪の場合を考慮しなければならない。
が、ちまちまと戦っていてはアーネ達の魔力が切れてしまう。
そうなればやはりリーザの体質は以前のまま。
そんな事ッ!
「させるかよ…!」
「──む?」
「《散華》!」
両手の大剣を握りしめ、ネジのように回転しながら周りの死者アンデッド共を蹴散らし、僅かながらも空白を作り出す。
「──が、足りぬな」
即座にその隙間を埋めようと蠢く腐屍者の配下。それでも少しだけ時間が生まれる。
「《我断》!」
金剣を全力で上に放り投げ、銀剣を両手で握り締め、足に集めていた血呪も一事的に両腕に回し、絶大な威力を込めたその一撃は、眼前の飢餓者グールを叩き潰し、そのまま床まで何の抵抗もなく引き裂き、銀剣が床と激しくぶつかる。その衝撃が周りの死者アンデッドも枯葉のように吹き飛ばす。
「──おぉ、それでこそ《勇者》だ」
吹き飛ばした先、わずかに腐屍者が見える。
フードの下のその顔は見えないが、間違いなく喜悦に歪んでいるのだろう。そう直感させた。
「ッ!!」
戦技アーツ直後の硬直を無視し、無理矢理銀剣をさらに持ち上げる。
「《煌覇》!!」
轟!と音を鳴らせながら銀剣が真っ直ぐ、腐屍者へ目掛けて紅い尾を引きながら炸裂、しかしそれは再び現れた腐肉の壁に阻まれる。
肉が千切れ、骨が砕ける音をたてながらもその壁は煌覇を受け止める。
「──今のは中々良かった。が、手詰まり」
「──《烙葉》!」
そこを。
煌覇を受け、脆くなったそこを、全体重を乗せて振り下ろした黒剣が断ち切る。
「よう」
「──ほう」
彼我の距離、わずか一メートル。
黒剣を振り上げる。
「これで」
「──しかし」
振り上げた黒剣を振り下ろすより前。
「後ろ!!」
「──甘い」
背後から迫る、あまりに巨大な肉の手が、蝿でも叩くかのようにして俺を押さえ込んだ。
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