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本編
存在と証
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いやぁ、なんだかんだ言って結構楽しんだな。祭りという雰囲気も相まって尚のことそう感じた。
ただ、楽しい時間というのは割とすぐ過ぎるものだ。特にその後、面倒事があるのなら。
「…はぁ」
『まだ迷ってんのか』
「迷ってはない。ここまで来たらな。ただ、決心というか踏ん切りがつかん。確実に零点を取る答案を出しに行く気分だ」
『なんだそりゃ』
「やらにゃならんが、限りなく最悪って事だ」
既に場所はアーネの家に移っており、執事のモーリスさんが用意してくれた俺の部屋に今居る訳だ。
はぁ、ともう一度ため息をつくと、足音が聞こえる。と言っても、微かなものだが。
程なくしてノック。
入っていいぞ、と言うと、聖女サマが静かに入ってくる。
「マキナ」
「ふぇっ!?」
直後、俺の放り投げたマキナが千近くの粒に分裂。聖女サマを取り囲んでグルグルと動き回る。
「動くな。安心しろ、チェックだ」
「先に一言言ってください!」
十秒程で終えると、マキナがヒトガタになって俺の側で静かに佇む。
「悪かったな。だが今回の話は細心の注意を払いたいんでな。まぁ座ってくれ」
聖女サマと、小さな備え付けのテーブルを挟んで座り、真剣な表情でそう言う。
「《巫女》はどうなりましたか」
「まず最初にそこの訂正からだ。あれは《巫女》とかいうモンじゃない。もっとずっと前からあったモンだ」
「………?」
「アンタ、《聖女》だよな」
「えぇ。その通りです」
「《王》は知ってるな」
「えぇ。もちろん知っていますが…それがどうかしましたか?」
俺は少し考えた。この女はどれだけ知っているのだろうか。
「《魔王》は?《連》は?《理》は?システナ、グルーマル、ヴェナムは知ってるな?」
「当然知っていますが…倒すべき大悪と、剣の一族、盾の一族の宝剣の名前ですね。あの、話がまるで」
「《勇者》は?」
「………。」
聖女サマが答えにつまる。
「もう一度言う。《巫女》じゃない。もっとずっと前からある。奴は《巫女》じゃなくて《勇者》だ」
「………。」
聖女サマの目には動揺。明らかな程の。
そりゃそうだ。最後の一言だけで、今までの単語の意味が一気に重くなるのだから。
「何故、貴方がそこまで知っているのですか」
「何故だと思う?」
「ふざけないでください!」
バン!と力強くテーブルを叩く。壊れやしないが、キシキシと鳴く程度にはテーブルが揺れた。
「貴方は本当にその言葉の意味を理解しているのですか!?それはこの世界の根幹に関わる──」
「知ってるさ。多分アンタよりもずっとな」
ため息をひとつつく。思った以上に取り乱したか。守るべきヒトを思うが故の反応、か。
「狭間の子、世界神、血界、機創人、混血…どれも俺に馴染みがある言葉だよ」
「貴方はどこまでっ」
そこで俺は立ち上がり、上の服を脱ぎ捨てた。
「なっ、何をするのです!?」
「ンな顔赤くしてんじゃねぇよ。真面目な話だ」
そう言ってマキナに服を渡し、くるりと振り返って聖女サマに背中を向ける。
三メートル以上ある髪をうなじの辺りで右手で引っ張ると、カーテンのように下がっていた髪が退かされ、背中の傷があらわになる。
「…えっ」
「これが俺の答えだ」
背中が脈打ち、そこを中心に黒い紋様が身体の隅まで一瞬だけ波紋のように広がる。すぐさま掻き消えるが、その黒の紋様が呪いのように広がる様はしっかりと見えたはずだ。
「第二血界…」
「改めて名前を名乗ろう」
くるりと振り返り、聖女サマの方を見る。
「レィア・シィル。だが、《勇者》として名乗るなら、レィア・フィーネだ」
ただ、楽しい時間というのは割とすぐ過ぎるものだ。特にその後、面倒事があるのなら。
「…はぁ」
『まだ迷ってんのか』
「迷ってはない。ここまで来たらな。ただ、決心というか踏ん切りがつかん。確実に零点を取る答案を出しに行く気分だ」
『なんだそりゃ』
「やらにゃならんが、限りなく最悪って事だ」
既に場所はアーネの家に移っており、執事のモーリスさんが用意してくれた俺の部屋に今居る訳だ。
はぁ、ともう一度ため息をつくと、足音が聞こえる。と言っても、微かなものだが。
程なくしてノック。
入っていいぞ、と言うと、聖女サマが静かに入ってくる。
「マキナ」
「ふぇっ!?」
直後、俺の放り投げたマキナが千近くの粒に分裂。聖女サマを取り囲んでグルグルと動き回る。
「動くな。安心しろ、チェックだ」
「先に一言言ってください!」
十秒程で終えると、マキナがヒトガタになって俺の側で静かに佇む。
「悪かったな。だが今回の話は細心の注意を払いたいんでな。まぁ座ってくれ」
聖女サマと、小さな備え付けのテーブルを挟んで座り、真剣な表情でそう言う。
「《巫女》はどうなりましたか」
「まず最初にそこの訂正からだ。あれは《巫女》とかいうモンじゃない。もっとずっと前からあったモンだ」
「………?」
「アンタ、《聖女》だよな」
「えぇ。その通りです」
「《王》は知ってるな」
「えぇ。もちろん知っていますが…それがどうかしましたか?」
俺は少し考えた。この女はどれだけ知っているのだろうか。
「《魔王》は?《連》は?《理》は?システナ、グルーマル、ヴェナムは知ってるな?」
「当然知っていますが…倒すべき大悪と、剣の一族、盾の一族の宝剣の名前ですね。あの、話がまるで」
「《勇者》は?」
「………。」
聖女サマが答えにつまる。
「もう一度言う。《巫女》じゃない。もっとずっと前からある。奴は《巫女》じゃなくて《勇者》だ」
「………。」
聖女サマの目には動揺。明らかな程の。
そりゃそうだ。最後の一言だけで、今までの単語の意味が一気に重くなるのだから。
「何故、貴方がそこまで知っているのですか」
「何故だと思う?」
「ふざけないでください!」
バン!と力強くテーブルを叩く。壊れやしないが、キシキシと鳴く程度にはテーブルが揺れた。
「貴方は本当にその言葉の意味を理解しているのですか!?それはこの世界の根幹に関わる──」
「知ってるさ。多分アンタよりもずっとな」
ため息をひとつつく。思った以上に取り乱したか。守るべきヒトを思うが故の反応、か。
「狭間の子、世界神、血界、機創人、混血…どれも俺に馴染みがある言葉だよ」
「貴方はどこまでっ」
そこで俺は立ち上がり、上の服を脱ぎ捨てた。
「なっ、何をするのです!?」
「ンな顔赤くしてんじゃねぇよ。真面目な話だ」
そう言ってマキナに服を渡し、くるりと振り返って聖女サマに背中を向ける。
三メートル以上ある髪をうなじの辺りで右手で引っ張ると、カーテンのように下がっていた髪が退かされ、背中の傷があらわになる。
「…えっ」
「これが俺の答えだ」
背中が脈打ち、そこを中心に黒い紋様が身体の隅まで一瞬だけ波紋のように広がる。すぐさま掻き消えるが、その黒の紋様が呪いのように広がる様はしっかりと見えたはずだ。
「第二血界…」
「改めて名前を名乗ろう」
くるりと振り返り、聖女サマの方を見る。
「レィア・シィル。だが、《勇者》として名乗るなら、レィア・フィーネだ」
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