大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

双剣と駆け引き 終

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落ちてくる剣は早くもなく、さりとて遅くもない。思考に割ける時間は数瞬。取れる行動も多くない。行動は即座に決まる。
大丈夫か?という疑問が浮かぶが、大丈夫云々ではない。やらねば負ける。
一瞬の脱力。そして腹に力を入れ、歯を食いしばってユーリアの身体を押し返し、強引に立ち上がろうとする。
こんな状況で力が抜ければ、ユーリアとの力の均衡が崩れるのは必然。目を閉じ集中しているユーリアがそれを察することは出来ず、ガクンとつんのめる。
その隙をついて押し返すと、互いの剣から今にも折れそうな音が漏れ始める。
この刃にどれだけの力がかかっているのか。ユーリアが倒れ込みながら斬りかかった時に折れなかっただけでほぼ奇跡のような強度だが、それも限界近いか。
それでも。
「ふんッ!!」
それでも剣は辛うじて耐えきった。歪み、折れかかってはいるが、互いの剣は折れることなく、剣としての形を保ってはいる。
しかし、俺の勢いが足りなかったのか、それとも咄嗟にユーリアがこちらへ体重をかけ直したのか、跳ね起きるまでは行かない。上半身を起こしたまでが限界。さらに鍔迫り合いであるのには変わりはない。
いや、それで十分か。
上から落ちてきた剣を、ユーリアが掴もうと左手を伸ばした瞬間、俺は渾身の力をもって鍔迫り合いをしている方の剣を弾き飛ばす。
この衝撃で、辛うじて剣の形を保っていた俺の剣は折れ、根元と僅かな刃だけが残る。
剣を弾き飛ばしている間にユーリアは落ちてきた方の剣を掴み、さらに振り下ろす。このままでは脳天直撃コース。しかも俺の手にあるのは折れて根元だけとなった剣のみ。防ぐことも出来ず、俺の上にユーリアが跨ったままなので回避も出来ない。
俺の無事な方の剣は拾われるのを嫌って遠くに投げた。手元にあるのはこの折れた剣のみ。
あぁ、あとあるのは。
くるくると回転しながら宙を舞う、折れた刃ぐらいか。
持ち手なんて関係ない。打ち勝つのでは無く、一秒だけでも耐えることが出来ればいい。最悪軌道が逸れるだけでも充分。
横にすっ飛んで逃げようとする刃を左手で掴み、そのまま引き戻す勢いで縦振りのユーリアの剣とかち合わせて十字の交差を起こす。
「なんっ!?」
流石のユーリアも声を上げる。
しかしそれもほんの僅かな時間。持ち手のないただの刃を側面から掴んだ程度で、しっかりと握りこまれた剣の一撃を防ぐことは到底できない。
だから。
この僅かな隙の間に、弾き飛ばし、振り抜いた折れた剣を引き戻し、ユーリアの剣の側面に叩き込む。
「オォッ!!」
叩き込んだ剣は、遂に僅かに残っていた刃さえも削り捨て、代わりにユーリアの剣の軌道を大きく変えて斜めに切り払うような軌道にする。当然その軌道は俺から外れ、真っ直ぐに床へと向かう。
ユーリアも即座に剣を引き戻そうとするが、こちらの方が早い。
「俺の勝ちだ」
折れた刃の方をユーリアの喉元に突きつけ、そう言い放つ。
「…負けだな、私の」
剣から手を離し、ユーリアが両手を上げてそう言う。
……次にやったら、俺はどこまで追い詰められるんだろうか。
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