大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

勇者と世界と

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「まず、《勇者》とは何か。定期的に世界が産むヒト用特殊ユニットだ。姿形にこれといった共通点はない。だがな、《勇者》ってのは産まれたその瞬間から戦えるように、死なない程度の知識と、その時代に必要な年恰好で産まれる。足りない知識は大体四六時中ずっと一緒にいる《亡霊》から無理矢理詰め込まれる。だがそれがない」
「それが何かおかしい…んだよな?」
「魚にエラが無いのに、鳥に羽が無いのに、蛇に鱗が無いのにお前は疑問を持たないのか?《勇者》としての機能が停止するってのはそれぐらいおかしい。それが今まで放置されてたのは、考えてもどうしようもない事だったという事と、原因を突き止めたところでどうなるってことがなかったからだろう」
『まぁ…合ってる』
「だが、《魔王》の登場でお前の中から《亡霊》が消えた。この話を聞いて、導き出される答えは一つ。《勇者》が現れた」
「…なるほど」
『いや、それはおかしい。《勇者》出現の間隔は早くて百年。それより早まると世界側の魔力が枯渇する。五十年そこらでレィアが産まれたのもおかしいが、二人目が出るのは尚更おかしいだろ』
「あー、シャルが五十年ぐらいで新しい《勇者》が出るのはおかしいって」
「それでも世界側が出さざるを得ないと判断したんだろう。本来《魔王》の復活は魔族側にとっても想定外。まだ早すぎるはずだ。だが、偶然が重なったのか、狙った必然なのかはわからないが、《魔王》の目覚めに必要な条件が揃ったんだろう。その結果、《魔王》の出現に呼応して《勇者》が強制的に産み出された。《亡霊》達は《勇者》に憑くから、準勇者とでも言うようなレィアからは剥がされ、本来の《勇者》に貼り付けられたんだろう」
「待て、じゃあ俺はなんで産まれた。どうして血界を使える…?」
「…これはあくまで推測だが、《勇者》がヒトをベースに作られたように、レィアは古いユニットである《勇者》をベースに作られた何かなのかもしれない」
『グルーマルにはもう駒も無ければ力も無いだろう?どこから新しいユニットを作る力を出した』
「…グルーマルは何を使って俺を作った?」
「機人だ。五十年前にグルーマルは機人に勝ち、その神の力を手中に収めた。その力を利用して特殊ユニットを作ったのなら辻褄は合う。いや、何かした後、長年使われ続けてすり減った《勇者》の力に機人の力の残りを足して作った、こっちの方がしっくり来る。だからレィアは血界を使えるが、血界を使って《勇者》として目覚めるまではほとんどヒトのように過ごしていた理由もつく」
「…《魔王》の正体ってのは何だ」
「膨大な魔力と複数に分けられた魔法、そして特殊な才能によって作られる意思ある魔法。それが《魔王》の正体だ」
ここまでを文字通り、息を継ぐ間もなく話し合う。
「《勇者》は産まれ、《聖女》は憑かれ、《王》は継がれる。そして、《魔王》は編まれ、そしてこの世に現れる」
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