大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

捕捉と狙撃

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正直に言うと、よく分からないものに対しての対策なんぞそう易々と立つもんじゃない。
ましてや相手はヤツキの感覚を抜いて一撃を入れた相手だ。ヤツキが想定外の事で油断していたからと言って、侮って良いものでは無い。
だが、ここまで何も分からないと流石にどうしようも無い。
ので。
「とりあえず射程ギリギリまで近づいて、私の感覚で少し探る。殺れそうなら殺るし、まだ何か必要なら少し様子を見る。いいか」
となる。正直これしかない。
「セラ、義肢の具合はどうだ?」
「多分…大丈夫です。少しぎこちないかもしれないですけど、慣れると思います」
「そうか。もし少しでも不具合が起きたらレィアに言え。悪いが私にはその義肢に関しての知識はほとんど無いからな」
セラには秘密兵器を渡した。遠距離から撃てる手としてはおそらく俺達の打てる手の中で最大威力のものだ。
まずはこれで狙撃を狙う。当たるかどうかはさておき、手段は豊富な方がいい。
家を出てしばらく。日が落ちる前に魔獣と決着をつけたいので、セラが出てきてからすぐにもう一度同じ場所へ向かうことに。ヤツキの感覚では、まだ動いていないらしい。
「はい。ところでヤツキさん、怪我は…?」
「大丈夫だ、とは言えんな。表面上は塞いだが、戦闘なんぞしたら血が吹き出る。ので…悪いがレィア、頼んだ」
「任せろ。頼まれた」
マキナを纏い、銀剣を双刃へと形態変化させ、既に回転をかなり溜め込んで鎧の外で力を循環させている。やろうと思えば、今すぐ大銀剣にして戦技アーツの二つや三つ程度なら放てる。
『かなり気合い入ってんな』
「ま、流石に気を抜いてはいられんだろうしな」
相手の武器は恐らく重いハンマーのようなものの先端に、小さな針か何かが付いたものだろう。そう考えるとヤツキの腹の傷もよく分かる。
そんなもの、マキナを装備していても一体どれだけ軽減できるか。普通にぶち抜かれて死にそうだと思うのは俺だけではないだろう。
だからこそ、どんな状況にも応じれるようにしておきたいのだ。
「よし」
着いた。丁度ヤツキがふっ飛ばされた辺りに本人が立ち、しゃがんで地面に右手をつけて、左手を耳に添える。
およそ一分。その間、俺達はただただ静かな緊張の中で黙っていた。
「…見つけた。距離ざっと…百メートル?隠れるの上手いな。サイズは四メートルぐらい。じっとして動かないようだが…これが何か、少しわからんな分かるか?レィア」
「そうさな…どこにある」
「上。高さ的に多分木の上だ」
「なら…巣か?」
自動迎撃を必要とする木の高さの何かと言われると、それぐらいしか出ない。
そして木の上に巣を作ってじっと動かないなら……鳥が卵を孵化させようとしているとしか思えない。
「まぁいいか。直線は通るか?」
「通る。セラ、一歩下がって右に十センチ。そこでしゃがめ」
「一歩下がって右に……こう、ですか」
「あぁ。そこだ。そこで構えろ」
「わかりました」
セラが左肘を強く叩くと、左腕が変形する。
出てきたものは細長い弓。使われた素材は少ないが、それはこの素材に合うものが無かったからだ。
武装のギミックも使用方法も非常に簡単で──故に尋常の方法では誰も扱えない。
使い方は単純。矢を番えて引いて離すだけ。ただの弓だ。
ただし、あまりに弓が強靭すぎるが故に、ただ引くだけではビクともしない。
矢を義手にセットし、腕にある小さなレバーを回し始める。
すると、矢はギリギリギリギリとゆっくりと引かれ、少しずつ力を溜め込んでいく。
「元々、ナナキがほんの数回だけ使った義肢だ。遠距離から強烈な一撃を叩き込みたいからといって作ったんだが…手間がかかりすぎるとか言ってすぐ使うのやめたんだよな」
『当たり前だ阿呆。誰がこんな面倒な弓を使うか。もっと手軽な奴作れ』
俺もあの時は偶然倉庫で見つけた亜龍の素材を使いたくって仕方がなかったからな…などと思い返す。
「まぁ骨董品で珍品だが、威力は間違いない。行け、セラ」
「っ、はい!」
矢を番え終え、セラが真っ直ぐとヤツキの指さす方を見、そして放った。
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