大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

説明と血溜まり

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ニケがすぐに行くと言い、恐らく一分も経たずにこちらへ来た。
「大丈夫ですか!?」
「よぉニケ。これが大丈夫に見えるか?」
塔の上からそう声をかけたニケに、壁に寄りかかりながらそう返した。
「っ…!これは…」
塔から垂直の壁を駆け下り、衝撃をほぼ殺しきって着地。彼女ならではの着地方法に軽く驚いた。
ニケが目にしたものは、首と手を切り落とされて無惨に転がるコルドーの死体、最早元が何の生き物だったか分からない肉の塊、遠くで四分割されて息絶えたワイバーンと、血塗れで全身ズタボロになった俺。
「悪いが、綺麗なタオルと水、あと包帯を頼む。魔法は効かないからな…」
「すぐに手配します!」
ニケが来るまでの間に、穴が空いた身体を走らせてでも俺がやらなくてはいけないことは二つあった。
一つはコルドーが持っていた銃と切り飛ばした腕の抹消。
そしてもう一つは俺自身に黒剣で傷を付けることだ。
即座に痛む腹を無視して猛ダッシュ。そして腕を探し、なけなしの血を振り絞って第五血界《血腕》を発動。
物が消滅するまで握りつぶし、この世からコルドーの銃と女の腕を消した。
これは単純に話の辻褄合わせの為。
そして傷をつけた理由は、俺がこれ以外につけられる傷が無かったからだ。
「……すぐに持ってきてくれるそうです。喋れるなら話を聞きたいんですが…」
メッセージを飛ばしたニケが、不安げに俺を見る。
「安心しろ、血が出てるだけだ。傷そのものは比較的浅い」
「かなり深いように見えますが…?」
「要は失血以外で死にゃしない傷って事だ。それも結構抑えてる。こんだけ喋れてるのがその証拠だろ」
自分で切ったのだから、どのぐらい不味いかは分かる。普通に垂れ流していたら五分で気絶だが、俺のスキルなら三十分は余裕で持つ。
「一体何があったんですか?」
「端的に言うと魔族に襲われた。俺とコルドーはタッグを組んで立ち向かって、コルドーが死んで辛うじて俺が生き残った。言っちまえばそんだけの話だ」
少しだけ身を起こす。ニケが動かない様に言うが、少しだけだと言って喋りやすい体勢を整える。
「俺はコルドーが少し変わった魔族に狙われてるって話を聞いてな。それを伝えに行ったんだが…ダメだった。結果はこのザマだよ」
「少し変わった魔族…?どんなですか」
「俺も良くは分からなかったが、戦ってみて理解した。ほれ、コルドーの死体見てみろ」
「死体…ですか。うげ」
死体ぐらい見慣れているだろうと思ったのだが、どうもそうでは無いらしい。良く考えれば、ヒトの死体はそう見ないか。
「はい、見ましたが…」
「綺麗な切り口だろう。刃物を出す魔族でな。それですっぱりやられた」
「なるほど、はい」
やはり慣れないのだろう。すぐに視線を外し、比較的見慣れた方へ視線を向け直す。
「で、えーっと、この…その…血肉溜まりは…?」
「それが魔族だ」
「…は?」
「だから、それが例の魔族。俺の切り札をぶち込んだらそうなっちまった。信じられないだろうがな」
さて、話はこれぐらいで終わりにしておくか。
「じゃあニケ、悪いが事後処理は頼む」
「えっ、ちょっと、待ってください!話が無茶苦茶過ぎますって!どうやって大隊長に説明するんですか僕!?」
「知らん。その辺は任せた」
どうせ俺、もうこの都市出るし。
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