大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

スキルと発見

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ひとまず、ニケが走って行った方向へニケを探しに行くか。
『けど、どうやって探すんだよ。アイツはたしか《超加速》のスキル持ちだろ?なら、お前が探し始めたところでニケはとっくの昔にどっか行ってるだろ?』
んー?いや、アテが無いわけじゃない。
黒ずくめを髪でがっちりホールドして走り始める。
『なんだ、ニケに巻き付けたお前の髪を逆探知するとかって言う芸当が出来んのか?』
いや、そんなことは出来ないけど。多分そろそろ聞こえてくると思う。
『何が』
ニケの戦技アーツとか、金属と金属がカチ合う音とか。
『あぁ、そういうのか』
さすがに、そろそろ聞こえてもおかしくはないんだが。…おっかしーなー。
『…今代の』
なんだ?
『走りながら探すより、一旦立ち止まって探してから行けば良くねぇ?』
…それもそうか。
言われて一度、走るのを止めて耳を澄ませる。
さらに、耳を拡張するイメージをして、目を閉じ、目から入る余計な情報をカット。
ほんの僅かな風の音、さわさわと麦同士が擦れ合う音、さっきの騒ぎを不審に思った誰かが話し合う音。そして。
それらの音の奥の奥から、何か硬い物がぶつかり合う、甲高い音が聞こえた。
『お、聞こえたか。しっかし、便利なスキルだよなー、お前さんのは。応用性が広いっつーかなんつーか』
…まぁ、元々そう言うスキルだしな。
自分の身体を思った通りに、自由に動かすことが出来るスキル。
言い方を少し変えるのなら、理論上、出来ようが出来まいが強引に可能にするスキルとかに近い…か?
実際、今回みたいに集中しきったりすると揺り戻しか反動か知らんが、頭痛とかするし。
だが、突出した使い方はどうしたって出来ねぇがな。
例えば、アーネの《圧縮》での超超高火力だとか、ニケの《超加速》からの空前絶後の一撃みたいな事は出来ねぇし。
そういう点じゃ、ある意味器用貧乏だ。
『なるほど、んじゃ何か?今代のはどんな敵でも一撃で屠るような高火力な一撃を捻り出せるようなスキルの方が良かったのか?』
んー…どうだろうか。
『たとえるなら、伝説のドラゴンスレイヤーの剣みたいな、そんなスキルか』
あれか、一振りで亜竜が墜ち、二振りで竜の頸を断ち、三振りで龍の身体を引き裂くって言うヤツか。
…いや、そんなスキルは要らないな。
そう思ったところで目を開き、音のした方向へと再び走り始める。
俺が走り始めた方向からは、徐々に音が大きくなり、声も聞こえてくるようになった。
場所は…やはり牧場?
若干抵抗があったものの、銀剣を取り出したと同時に、空の雲の隙間から月が顔を出した。
俺は走った勢いのまま、ニケと誰かが戦っているど真ん中に飛び込みながら呟いた。
「そんな剣じゃなくて良かった。ただ、無銘でよかったから、誰かを護れる盾が欲しかったんだ」
その呟きは誰にも聞かれることは無く、激しい剣戟に塗りつぶされた。
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