大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

群れと殲滅 終

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ひとまず警備兵の一人らしき女性と会うことが出来たが、女性は俺が味方と聞いた途端ガクリと膝をついた。
「は!?」
「ちょ、ゴメン、退路は作ったから、アンタだけでも逃げて──」
「はぁ!?」
どうやらこの女性、捨て身の一撃で今の魔法を放ったらしい。魔力が明らかに底を尽きそうだと言うのに今気づいた。
やっと誰かと共闘出来そうだと思ったのに、その相手が力尽きる寸前とは。
それも死ぬ覚悟が出来切っているというのは何とも──腹が立つ。
「馬鹿お前、ンな胸糞悪い事できるか!」
彼女を置いていけば間違いなく殺される。
死体は無残にも食い散らかされ、バラバラとなり、骨一片すら残らないだろう。いや、なまじ残っていたとしても、それが元はヒトの亡骸だったと誰が気付けようか。
ヒトがヒトであったという事すら認識されない、まさにゴミのように死んでいく。そういう時代があったのかもしれないが、俺の目の前にあるのは、いるのは、明確にヒトだ。
女性との距離はざっと十メートル。髪とマキナを伸ばしてもまだ届かない。
けれど。
「俺は救う為に強くなったんだから!!」
第二血界《血呪》──発動。
四肢に絞って発動したそれは、即座に効果を現した。
地面を踏み締める脚に黒の紋様が刻まれ、血を割らんばかりに蹴って加速する。
「くっ!!」
十メートルの距離を一種で詰め、右手を地面に突き刺して強引にブレーキをかける。
巻きあがった砂埃が晴れるより早く体勢を建て直し、何も言わずとも既に双剣から双刃へと形態変化した銀剣を手に、辺りの魔獣を一薙する。
血が吹き、さらにその血を利用して血海を発動。
長さおよそ十メートルの長大な鎖を形成する。
「食らいやがれ、第一血界──《血鎖》!」
物理系血界の中で最も範囲が広いものを豪快に振り回し、辺り一面の魔獣を肉塊へと変えて、ようやく余裕が生まれる。
「起きろ女ァ!」
「痛ァい!?何事!?」
顔をひっぱたこうかと思ったが、今の俺がそんなことをすれば顔がもげる。デコピンをぶち込んで、胸ぐらを掴んで引き寄せる。
「ちょっ、何すんの!?」
「いいかよく聞け!テメェの任務は都市を守ることかもしれねぇが、自分の命さえ守れねぇような奴がそれより大層なモン守れると思うなよ!!命賭けていいのは次に託す時だけだ!分かったな!?」
返事は聞かない。と言うより、聞く余裕が無い。
あれだけ魔獣を屠ったというのに、まだ次の魔獣が追加で押し寄せてきているのだ。
ここもまた、じきに濁流に呑まれる。
かと言ってこんな奴をここに置いておく訳には行かない。
だから。
「っ、ぜああああああああぁぁぁ!!」
高壁へむかって全力で彼女を投げた。
「きゃあああああああああぁぁぁ!?」
凄まじい叫び声が辺りに響き渡るが、そんなことはどうでもいい。
『上手いこと壁越えたな。着地大丈夫か?』
「マキナも投げた。何とかすんだろ」
そう言って生身の右腕で双刃を回す。
真夏の太陽に照らされた白い素肌には、黒々とした判読不能の紋様が蠢いている。
『それはそうと、後で説教な』
「あぁ、後でな」
白の肌と黒の紋様に赤の雫が加わり、やがてそれも雫とわからない程塗り潰された。
それから俺は、迫り来る魔獣をただひたすらに斬って、蹴って、潰して、砕いて、殺して、狩った。
築き上げた屍で山が出来る程、流した血で地面かぬかるみになる程、忘れていた臓物の臭いが気にならなくなる程、俺は戦い続けた。
途中、遭遇した警備兵達は全員、何とか守り通し、どうにかして壁の方へ送ったのは覚えている。逆に言うと、それぐらいしか覚えていないのだが。
ふと、双刃を地面に突き刺し、辺りを見渡すと、魔獣がどこにも居なくなっていた。
やけに涼しいと思っていたら、どうやらとっくの昔に日は沈んでおり、月が空に輝いていた。
マキナがしきりに呼んでいたらしいが、それにすら気づくことがなく、よっぽど集中していたらしい。
どうやら敵が撤退したにも関わらず、魔獣をひたすらに狩り続けていたようだ。
「……帰るか」
『賛成・します』
双刃を片付け、ふらふらとした足取りで壁の方へと向かう。随分と遠くまで来ていたらしく、壁がやや小さく見える。
それを見ると、思い出したかのように疲労感がどっと襲いかかって来た。
「…流石にやり過ぎたな…」
そう思って月を見上げた時、ふと。
「?」
『どうしましたか?』
「…いや、何でもない」
何か懐かしいような気配がしたのだが。はて。
しかし懐かしいような気配とは何だろうか。自分で言っていて説明がつかない。
「まぁいいか」
とりあえずプクナイムに戻ろう。
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