大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

群れと殲滅

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ふむ、やはりと言うかなんというか。
「弱いな」
数が多い。しかしそれだけだ。
たとえ兎の牙が喉元に食いつこうと、マキナの防御を破ることは出来ない。
百回食らいつこうと、マキナの装甲は劣化した部位から先に補修する。
一方で俺の剣は適当に振るだけでも必ず何かに当たる。魔獣も回避しようとするのだが、この数が一度におしよせているのだから、回避しようにも周りが邪魔でロクに出来ない。
ましてや相手は産まれる魔獣ではなく成る魔獣。
外の魔獣とは比べるまでもなく脆く、容易く首が飛び、顔が割れ、物も言わぬ血と肉の塊となっていく。
鎧袖一触とはまさにこの事か、と自分で思いながら剣を振る。
今朝方、金剣を既に使ってしまったので武器は銀剣のみ。しかもこの数相手に黒剣を使うのは流石に無理がある。
適当に振れば即座に折れるあの剣は、こんな雑な戦いで使えばこちらの精神が摩耗してしまう。
もっと使いこなせればあるいは…まぁ、それも今はどうでもいいか。
「ふっ!」
無数の牙、爪、尾。
生身で受ければ死となるであろう攻撃全ては、マキナが弾き、受け止め、殺すべき衝撃は一部転用してそのまま銀剣の動きに繋がる。
毎度思っていたのだが、マキナの万能っぷりはちょいと反則だと思う。
『ん、レィア、その蟷螂の方向に戦闘音だ。近いぞ』
「了解!」
『刃翼の・広域展開を・提案します』
「距離は!?」
『ざっと十メートルだな』
「射程八メートル!全部かっ散らせ!」
『了解・しました』
直後、俺の纏っていたマキナのほぼ全てが消え去る。
代わりに現れたのは全長約八メートルの巨大な銀の翼。マキナが作り上げた刃だ。
それが超速で一回転。ぐるりと周囲の魔獣を両断し、辺り一面に血の池の地獄を作り出す。
すると、周りと比べて若干魔獣の包囲が薄くなった箇所が現れる。
方向的にシャルの指示通り。あそこか。
救助に向かいたいが、しかし空いた空間を再び魔獣が押し潰し始める。
濁流の如きその様を見て、なるほどニケがアーネはいないと聞いて落胆した理由を知った。
こりゃ広域殲滅をした方が楽だわ。
『ん?詠唱?』
「は!?詠唱!?どこから!?」
『いや、戦闘音の方から…』
言われて少し集中してみれば、確かに聞こえるのは韻律を踏んだ魔法の詠唱らしきもの。
戦ってる奴はまさか近接も魔法も出来るハイブリッド型か?
それとも数人で固まっている?人手が足りなさ過ぎてパーティを組む余裕は無いと聞いていたが…
なんにせよ、この数ではそう長くは持たんだろう。急いで駆けるが──やはり魔獣の方が早いか。
『再度・刃翼の・使用をしますか』
「いや、この距離と感覚なら──」
直後、凛とした声が響いた。
「《ボルテクス・フレイム》!!」
押し寄せる濁流をまるでものともしない、稲妻の如き業火が、魔獣の軍を飲み干した。
俺も巻き添えだが、これぐらいならマキナと魔法返しでギリ耐えられる。
「っちぃな!クソ!」
ただまぁ、熱いもんは熱い。
そして穿たれた群れの奥には、長い茶髪を三つ編みにした、大きな眼鏡をかけた女性が。
着ている服は警備兵の制服。よほど疲弊しているようだが、こちらの姿を見るとギョッとして、さらにこちらに手を向ける。
「あ、あんたは!?」
「落ち着け救援だ!部外者だが手を貸す!」
さて、とりあえず即席のタッグは組めたが…どうするか。
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