大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
1,405 / 2,022
本編

人馬と緋眼7

しおりを挟む
古い方の金剣銀剣の時の話になるが。
金剣は剣の中から剣が出、双剣のような形になる一方で、銀剣は銀の大剣が盾となり、中の黒剣を武器として扱う武器と言うように、銀剣は黒剣と別に銀剣の方にも変化が起きていた。
同じように今の銀剣もこちらの方で変化が起きているのでは。そう思ったのだ。
もちろん今の金剣は鞘…というか金剣の刃が根こそぎ消えるので、銀剣も仕様が変わっていたらと思うと、正直これも少しばかり賭けだった。
「くっ!」
が、見た感じはいつもの銀剣とほとんど変わらない。よく見ると文字がゆっくりと波打っている点と、柄の部分が存在せず、そこにぽっかりと穴があいているぐらいしか変化はない。
咄嗟に掴みあげると、重いが持ち上げられない程ではない。あの超重量の能力は一時的に消えているようだ。
『来るぞ回避!』
シャルの言葉に咄嗟に横っ飛びすると、直後に氷の竜巻が俺のいた場所を床ごと削り取っていった。
人馬の方を向くと、それぞれの腕に巻き着くようにして白銀の風が渦巻いている。まさかあれら全てが──
『Vriiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii!!』
腕を振り回すだけで、先程の竜巻が無遠慮に撒き散らされる。風の塊なので見た目では判断しにくく、回避しにくい。
「クソっ!」
刃こぼれだらけの黒剣で相手の腕の動きに合わせて風を切るが、刃が欠けた黒剣では完璧に切断するのは難しい。
結果、さらに刃こぼれが進み──折れた。
「っあ」
金剣は聖弾を解放して三発も弾を使った直後。刃はまだ回復中だ。使えない。 
銀剣は…というか黒剣はたった今両方折れた。当然使えない。
「クッソ!」
今折れた黒剣も刃が虚空に消えてゆく。完全に消える前に、風の流れを読んで相手に投擲する。
読みは幸運にも当たっていたらしく、奴の胸に深々とつきたてる事に成功。しかし人馬はまだ止まらない。
胸の傷は深いため、しばらくは動けないようだが、俺の手元には武器が無くなってしまったため僅かな拮抗状態が生まれる。俺に残されたカードはこの身体と勇者としての能力。
使うか?使うのか?
使うしかないのか?
「第二、第三血界──」
『待てレィア!』
「あぁ!?」
血界発動直前でシャルがストップをかけた。
『右に持ってる柄が…』
「…?」
右?右は最初に折れただろう。そう思って見てみると、いつの間にか抜いたはずの銀剣が刺さっている。いつもの超重量が無かったので気づかなかった。
ゆっくりと脈動するように文字が光りながら波打ち、そして。
文字がいっそう強く輝くと、銀剣はまたひとりでにするりと落ちた。
中から現れ出たのは──黒剣。
しかし今度のリーチは丁度銀剣とほぼ同じ。厚さも気持ち厚くなっている気がする。
「……そういう事か」
黒剣状態のこの剣は銀剣を完全に鞘として使い、自身の好きな形状の刃を形成すると言ったところか。
金剣──《理》が魔法、魔術、いや、《魔》としての何かを司るとするなら。
銀剣──《連》は俺が心血注いだ《剣》としての事象を司るのか。
あぁ──だから最初にあの薄い大剣だったのか。
薄く、軽く、絶対的な斬れ味を持つあの剣は、確かに俺の切り札である戦技アーツを扱うのにこの上ない剣だった。
『Vraaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!』
カラン、と何かが床を転がる音。それが合図だった。
再び人馬が腕を振り回し始めた。竜巻が巻き起こり、さらに周りに浮遊する氷の槍。そして高速機動する人馬。
流石に決着をつける気か。
「いいぜ。俺もそろそろ終わらせたいんだ」
しおりを挟む

処理中です...