大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

捕縛と冷静さ

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俺が床を蹴った瞬間、護衛の片側が魔法を使い、土の壁を出した。
「あ?」
なるほど、確かに魔法は俺に効かないが、こういう土壁的なものは普通にぶつかる。どういう理屈なのかよく分からんが、土の槍だと消える。
が、この程度の物には思考さえいらない。
勢いそのまま、半ば無意識に蹴りを繰り出し、厚さ十センチちょっとの土壁を一瞬の時間もかけずに突破する。もちろん普通は出来ない。マキナの加重があってこその芸当だ。
ちなみに、空だったマキナの魔力はシエルを救出する時に補給しておいた。
土壁を抜けた先、既に角を曲がって走り去った黄色と黒の頭をした小柄な人影と、焦りの表情をありありと浮かべる護衛の女が。
──数が足りん。
後ろか。
空中でバッ!と後ろを向くと、天井と土壁に手足を突っかけるようにして張り付いていたもう一人の護衛と目が合った。
「なん──」
「刃」
『了解・起動します』
狭い通路内では金剣などは振り回せない。血界なんて論外だ。俺は頭に来ているが、だからといって正気を失った訳でも冷静さを欠いている訳でも無い。
寧ろ逆。
心は驚く程に凪いでいて、心は氷で冷やした鉄より冷たい。
だから。
『起動・完了・しました』
こいつは殺したらダメだと、ただ淡々と考えていた。
マキナの左右の手甲から伸びる一対の短い短剣、それが今俺の求めた「刃」だ。
元々鎧であるため殺傷能力は刃のない剣と同じ。
しかし、この場で振り回すには丁度よく。
マキナが変化したものであるので、通常ならばありえない事をするのだが。
さて、俺が空中で身をひねり、天井の護衛と目が合った瞬間、護衛の方は天井を蹴って俺に蹴りを放って来た。
恐らく俺が土壁を作った護衛をやっている隙に後ろから蹴るつもりだったのだろうが…
気づいた上、見えている物をバカ正直に受ける奴などいる訳がない。
繰り出された蹴りを空中で掴み、そのまま勢いを利用して一回転。地面に叩きつけた頃にマキナが刃の生成に完了して、それを今蹴りの護衛の首に当て、さらにもう片方の刃も土壁の奴にも向ける。
「動くなよ。非殺傷だが死ぬほど痛いぞ」
「……万物を支え──」
「詠唱すんな。届くからな」
ガンッ!と雑な音ともに片腕の刃が飛ぶ。土壁の護衛の頬を掠めて壁に突き刺さった刃を見て、護衛の女は口を閉じた。
さて。
「二つ聞く。聞かれたことにだけ答えろ」
反応を聞くまでもなく話を続ける。
「まず一つ目。ラピュセはどこに逃げた?」
「……ッ」
「時間が無いんだ。こーたーえーろ」
刃をぐりぐりと蹴りの女の腹に押し当てていく。
が、答えない。
…あまりこう言うのは得意ではないのだが…
ぱかん、と刃の先端が細かく割れた。その数四つ。
「は?何それ…」
「ルールは簡単。今からこれをお前の顔の穴に一本ずつ入れていってやる。どうなるかは俺もよく知らんが、まぁ多分死ぬんじゃないか?耳か鼻しかないし、行き着く先は頭ん中か肺…あぁいや、胃に入ったら延長戦か。運がよけりゃケツからなんの傷もつかずにこれが出てくる訳だ。まぁ──」
そう言った途端、刃の先端が形も不揃いなノコギリの刃のようになり、くるくると高速回転し始める。それも不安定にガタガタ揺れながらだ。
「そんなことないだろうけど」
「え、ちょ、本気なの?さっき殺さないって…」
「あ?殺さないとは言ってないぞ?俺が言ったのは死ねとはいわんが死ぬほど苦しめ、だ」
「同じじゃないの!なんでこんなっ」
「阿呆、誰が誰一人殺さないなんて言ったよ。大体、俺が話してたのなラピュセだ。護衛の事なんざカウントしてねぇよ。安心しろ、口は入れないでおいてやる。喋れなくなるからな。じゃあ行くぞー」
「い、嫌っ、ちょっ、やめて!離して!」
「話すのはお前だ。まぁ、もし死んでも、そこのもう一人の同僚に聞くから別に話さなくてもいいぞ」
暴れたせいで蹴りの護衛の耳の縁にドリルがかすり、血が耳の中へと入っていく。
「どうすっかな。速攻で廃人なんのは不味いし鼻から行ってみるか」
「嫌あああ!わかった!話す!話すから!」
最初からそうしてりゃ良かったんだ。
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