大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

警戒と生産

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「なるほど、状況はわかった」
そう言うと、小さな少女はどこかほっとしたように目じりを僅かに下げた。
「そう。なら──」
「が、腑に落ちねぇ」
そして、俺はその少女の言葉を遮った。
「なぜお前がロクに知らないはずの半魔族をそんなに気にかける。それも明らかにここの所長の意志とは真逆だな。そこまでのリスクを負って何故俺に情報を寄越した」
「………。」
ピタリと止まる女。その口はきゅっと閉められ、真一文字に閉ざされていた。
「そしてもうひとつ。カイル先生との関係だ。さっきの話しぶりだと、学校長と所長はほぼグルで間違いないな?学校の職員なら学校長側につかざるを得ないはずだが、あの先生はそれに反してる。つまり、あの先生にも何かがあるって訳だろ」
でなければメッセージで指示を出したりしない。
それに、カイルは確かルトの親戚。分家だかなんだかよく分からんが、龍人種ドラゴニアンの血統である以上、それなりの権力を持っているはずだ。
それが従っているのだ。異常とは言わないが、明らかに何かある。
「答えろ。じゃなきゃ俺だってお前を信用出来ねぇ」
一番警戒しているのは罠。
一度油断させておいて、掴ませた偽の情報で混乱させている間にもっと不味い事態になる事。
次に利用される事。
流石に与えられた情報が少なすぎるので上手いこと言い難いが、俺が上手いことシエルを救出したとして、そちらの方がこの女達にはメリットがある場合。
別にこちらは全否定する訳では無い。ただ、それによってシエルが更に苦境へと陥るのなら、全力で阻止しなくてはならない。
「──」
沈黙はそう長く続かず、やがてゆっくりと小さい口が開いた。
「………先にカイルの事から言うわね。彼はこの研究所のOB…と言って分かるのかしらね。つまり、この研究所の元研究員よ」
「へぇ。龍人種ドラゴニアンの分家ってなるとこんな所で働いたりもすんのか」
「それは彼の表側の経歴ね。あながち間違っても無いけれど。彼は…と言うか、研究所の人間は全員ここで生まれるわ。生まれるというより、作られると言った方が正しいのだけど」
「作られる?生まれるじゃなくて作られるって言い直したな?どういう事だ」
「そのままの意味よ。特殊な薬液と種と卵、あとはちゃんとした管理をして、三週間で三十年の命を作るのよ。肉欲も愛情も無い合理性の塊で出来た方法で」
心底つまらない、と言った顔で彼女はそう言う。
「ここにいる全員がか?」
「そ。研究員は全員がそうよ。あぁ、ついでにあの子もそうね。ルーシェとか言われてたかしら。あの子は所長のお気に入りね」
さらりとそう言うが…いやちょっと待て。
「ラピュセの目的はスキルの持った人造人間を作る事だろ?そうならルーシェで完成してるじゃないか。いや、つぅかピィもか」
「あれ、スキルじゃないわよ」
「…は?今なんて?」
「だからルーシェの剣でしょ?あれはスキルじゃなくて魔法よ。彼女が自力で作った彼女専用の魔法。あと、そこのピィがバラバラになるのはそう言う魔導具のせいよ。一度使うと身体に同化する未完成のヤバい奴のね」
「…なる、ほど?」
視線をピィの方に向けると、ちょうど白衣を脱ぎ捨て、胸元を豪快に引き下げて俺に見せつける所だった。おい、見えてんぞ。
が、ピィはお構い無し。
「これダ。欠片だらけの不具合ピースメーカーの試作品だナ」
確かに、大きな乳房に挟まれるようにして黒いガラス片のようなものが刺さっている。これがそうか。
「で、もう一つの理由は?」
「………。」
口を再び閉ざす女。
しかし少し何か考えた後、紙を数枚俺に手渡してから絞り出すように口を開いた。
「あの子のデータよ」
渡されたそれはメモのようなもの。様々なグラフが書かれ、その補足を隙間にねじ込むように書かれている。
細々とした数値や書き込まれた文字を追うまでもなく、俺の視線はたった一点に集中していた。
「羽化予測…?」
ヒトや魔族にはおよそ縁のない言葉がそこには書いてあった。
「知っているのかどうか分からないけれど、あの子の中には何かがいる。そしてこれは私の直感だけど…アレは絶対に不味い。絶対に…何があっても刺激しちゃダメ」
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