大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

模索と行き先

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手首を掴んできたのは耳長種エルフのユーリア。顔は明らかに不健康ですと言った顔なのに、俺の手首を掴む力は力強く、揺るぎない。
「……どうしたユーリア」
周りのことを考え、小声でそう聞くと、ユーリアは強引に俺の身体を引っ張った。
抵抗することも出来たが、害意がないのは分かっていたのでそのまま彼女に身を寄せる。
「何が…起きてる…?」
俺の声よりずっと小さい、羽虫の鳴くような小さな声で俺にそう耳打ちし、ユーリアは手を離した。
力尽きた…というより、元々かなり振り絞っていたのだろう。起きているのもやっとな程だったのかもしれない。なんにせよ、ユーリアは再びベッドに倒れ込み、そのまま動かなくなった。
「俺が知りてえよ…」
生きていることを緋眼で確認し、先生にユーリアが一度目を覚まし、また寝た事を報告しておく。
さて。
保健室を出、一度足を止めてマキナでシエルにもう一度メッセージを飛ばそうと思って…やめた。何を話せばいいかわからん。
分からないまま、歩き始めた。
保健室にいた生徒達は全員魔力がほとんど無くなっていた。いまさっき手首を掴んできたユーリアもそうだ。
最初に思い浮かんだ原因は、ヴィクターと同じ魔法陣の効果。もしかしたらどこかに魔法陣が刻まれているのかもしれない。
だが、ヴィクターの時とは違い、全員かなり根こそぎ持ってかれたというか、結構ギリギリまで魔力が減っていた。魔法陣は同じはずなので、魔法を動かしている使い手が手加減をしなくなったのだろうか。
それにそもそも、こんな大規模に魔法陣は刻めるのか。しかもヴィクターの時は魔法陣を分割してあった。服と肌の二箇所が触れ合うことで魔法陣が完成し、効果が発動するもの。
理論上は出来なくないし、魔法陣は簡易のもので効果はやや弱くなるが、それでも驚きの技術だとアーネは言っていた。
そんな手練が広範囲に魔法陣を貼り付けた?どうやって。しかもその目的が分からないのが一番怖い。これだけの生徒に魔法陣を貼り付けて集めた魔力はさぞ大きな力だろう。それをどうするのか。どうしてシエルに集めたのか。
「───。」
そうだ。
そう言えば、なぜ犯人はアーネに魔法陣を施さない?恐らくアーネは魔力の貯蔵量なら学校の中でも一、二を争うレベルの貯蔵庫タンクだ。施さない理由がない。
何人かクラスメイトがいたが、魔力が少ない者も関係なく刻まれていた。それではあまりに効率が悪いだろう。
なら、単純に考えて魔法陣はアーネに施さなかったのではなく、施せなかったのではないか。
だとしたら、共通点は?魔法陣を施された彼らにはあって、アーネには無いもの。あるいはその逆。
思い出せ。あの空間には誰がいて、どんな奴が多かったか。
ベッドはの数は五十。空いていたのは三つ。差し引き四十七のベッドが使われていた。大体顔は見たことある奴ばかりで、剣を交えた先輩や背中を預けたクラスメイトもいた。でもそこに共通点があるかと言われれば──ない。 
男がいた。女がいた。のっぽがいた。ちびがいた。坊主がいた。長髪がいた。前衛職がいた。後衛職がいた。班長がいた。班員がいた。二つ名持ちがいた。持っていない者もいた。
…分からない。アーネだけが除外される理由も分からない。
ランダム、という言葉が可能性として浮上してきた。確かにそれだと、今やっている事はどうしようもない無駄だ。
でも、分からないことは多くとも、やってみる価値のあることは分かる。
扉を三回、軽く手の甲で叩く。
「よう、遊びに来たぜ。シエル」
だからまず、出来る手からはじめよう。
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