大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

傷と薬

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いやぁ死ぬかと思った。
狂化バーサクウィルとの戦闘に、崩落する穴からの決死の大脱出。挙句に自室に帰ってからアーネにうっかり傷を見られてしこたま絞られた。
夜も遅いし、疲れきってるだろうから、アーネが明日起きたら治してもらおうと思い、適当に縫った傷口をちゃんと縫い直そうとしたら起きてきやがった。いつもなら絶対起きないのに、こういう時は妙に鋭いんだよな、こいつ。まぁ、治療してくれるのは非常に助かるので文句も言えないのだが。
「はい、これで終わりですわ。傷は少し残ってしまいましたけれど」
「いや助かった。充分だ。本当はお前が明日起きるまで我慢しようと思ってたんだが」
「…その傷を?普通なら致命傷なの分かってますわよね?」
「わかってるわかってる。半年にいっぺんぐらいは食らうあれな」
冗談めかしてそう言うと、ため息と共に「その傷は我慢とかするレベルじゃありませんわよ」とまた怒られた。
ちなみに、アーネが起きるまでは首を縫い直した後、濡れたタオルで喉を保護して首を回さないようにして寝て待つつもりだった。言ったらまた怒られるだろうから言わねぇけど。
「しっかし傷も増えたな。ここに来たばっかの時はほとんど無かったのに」
思い返せば、森の頃は常に危険だったから神経を研ぎ澄ませていた。
「その時の怪我はどうしてたんですの?」
「あー…」
当然ながら、俺もナナキも回復魔法や治癒魔法のような魔法を使えなかった。そして村の人だと思っていたのは全てナナキの人形だった。当然魔法を使えるわけも無い。
そんな訳で即座に傷を癒す手段も無いので、一度怪我をしたら数日から数週間は安静が必須だった。
が。
「変な白っぽいどろどろした…なんだあれ。ちょっと粘っこい気持ち悪いクソマズい液体飲んでた。効果は確かだった気がするけど」
折れた腕を真っ直ぐに固定して飲んだら次の日の夕暮れには怪我をする前の健康状態と何ら変わらない状態になっていた。
と、そこまで言うと、アーネがやや引いたような顔でこちらを見ていた、
「粘っ…白い?貴方それって…えっと、その薬の名前は聞いてますの?」
「えーっと…なんだっけな…名前」
シャルに言うつもりで口に出すが、シャルの返事はない。もうすっこんだか。何年も前に一度だけ聞いた薬の名前なんて覚えてないんだが…
「えーっと、なんだっけな…エリ…いやエル…エルクサー…いや、エリクシル?エルクシル?そんな感じの名前だったはず。なんか木のマタに瓶置いといたら朝方には半分ぐらい溜まってたような」
「エリクシル?エリクサーなら耳長種エルフの秘薬でありますけれど…」
「いんや、アレじゃない」
「まるで見た事あるみたいに言いますわね」
見たことあるしな。去年のお前の救出作戦で。
「まぁ、アレ飲んで大人しくしてりゃ大体の怪我は治った。酷くやられた時は逆に飲まない方がいいとかナナキは言ってたけど」
今思えば、身体の治癒能力的な何かを前借りしていたのかもしれない。安静にしていた時も身体が酷くだるかったのを覚えている。
だから去年、魔族が森に来てナナキがやられた時にあの薬は使えなかったし、パレードの時も使えなかった。
「その薬のお陰で傷がなかったと…」
「あぁそうそう。傷が全然残らなかったんだよあれ」
ちなみに、なぜそんな便利なものを聖学に持ってこなかったのかというと、単純に日持ちしないからだ。一日陽の当たる所に置いておくだけでもダメになる。
「エリクシル…いえ、エルクシル?そんな薬聞いた事が…」
何やらアーネがブツブツ言ってるが俺にはよくわからん。
話が変わるが…さて。
崩落した地面の説明、学校長にどうしようかね。
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