大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

雷光と決闘…?

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決闘が始まってから。あるいは。
あるいは、それより前。こいつらの事情確認をしていた時からだっただろうか。
ぐらぐらと煮えていた怒りが、妙に冷えていっていたのは。
いや、ずっと頭にキてたのは間違いない。
絶えず怒りが頭の中…というか体の中に居座っていたが、それが何かに押さえ込まれるような感覚。
………『怒りは必要だ。しかし、感情はいらん…自分の為の怒りというのが情けないが』
………『燃える氷を連想しなさい。何より苛烈に、そして冷静に有るのです』
誰かの声が聞こえた。
誰か、じゃねぇな。
間違いなく、歴代勇者達の声だ。
戦闘しながら勇者の記憶を使い、膨大な戦闘経験から、次の手を予測する。
その結果、過去の勇者の人格を再現したようだ。いや、これは勇者の亡霊と言った方が正確か。
決闘が始まって、《雷光》が即座に距離を詰めた時も、俺が焦らずにいられたのはそのためだろう。
絶えず、過去の亡霊勇者が語りかける。
ほら、今も……。
「アァっ!」
………『この女、大声出してやがるぞ。死角からの急襲のイミねーじゃん』
ギィン!!
「てぇい!」
………『ハッハッハ!また来たぞ!次は小僧の脇腹から胸へかけての刺突じゃ!銀盾で防げェ!!』
ガァン!!
…あぁ。
なんて…。
こんなにも二つ名持ちってのはチャチなモンだったのか。
勇者から言えわせてもらえば、この一太刀のなんと無様なことか。
この踏み込みの、なんと遅いことか。
あぁ、あの頃が懐かしい。
剣を右手に、左手には敵の首。
そう、魔族の首を持ちながら、その足元には無数の骸が………。
…?待て、これは誰の記憶だ?
少なくとも、俺のではない。
ズルっ、と。
入ってはいけない、堕ちてはいけない所へと堕ちてしまった気がした。
そうだ、いや違う。いや、そうだ。いやいや違う。
気づけば、周りには誰もおらず、俺だけで真っ暗な闇に放り込まれていた。
待て、待て待て待て待て待て待て!
俺は誰だ?
勇者は…■ィ■は?
誰だ?
ジッ…。
記憶にノイズが走る。
『落ち着けー今はそれどころじゃないぞー』何故だ?何故それどころじゃないといえる?『そんなの、『敵』が来てるからでしょ』そうか、『敵』は倒さないとな。『ほら来たわよ!』これはコロしていいのか?『当たり前だろォ『敵』なんだから』でも魔族じゃない。『んなのいくらでもあったさ』
ジジッ…。
いくらでもあった…いつ?『ほら、あの時だよ、母親を失った子供が魔族に騙されてナイフ持って僕に突っ込んできた時でしょー?『とある王様が毒盛ってた事もあったわね『儂は仲間が急に背中を斬りにかかってきた事が『俺は『私は『アタイは………。
ジジジッ…。
『あぁそうか、君は違うね』俺は違う…そうか、俺は違うのか。『あぁ、オメェは確かに違ったな』なら、俺は?
ジジッ!ジジッ!
『お前は『テメェは『君は『ヌシは…。
自分の最も愛しい人■■■を殺したんだろ?
ジジ!ジジジジ!ザ、ザザザ、ザッ!
『…大丈夫』
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