大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

連戦と決着 終

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相手が見せる、堂々とした隙…要はまばたきの瞬間に地を蹴り、相手が次に目を開いた瞬間。
その時既に、俺はライナの目の前にいた。
「!?」
「よう、やっと驚いたか?」
しかしライナは、咄嗟に持っている黒剣を俺へと投擲、その一瞬の隙を突いて距離を取った。
「《ラピッド・ツー》!」
今の回避行動を上回る速度で地面を蹴り、すぐさま攻勢へと転じるライナ。
さっきの《ラピッド・ワン》とか言う戦技アーツよりも速い。速いが…。
「俺はその戦技アーツ、お前が撃つ前からわかってたよ」
例えば、視線の向き。
例えば、地を踏みしめる音。
例えば、空気を焦がす殺気の匂い。
それらをだけに留まらない、文字通りのを読み、勇者の膨大な戦闘記録が出した答えは。
「超スピードによる接近、さらにその加速とスキルを併用した爆発的威力の踵落とし、か…けど、だからこそ」
音すら引き裂く、音速の蹴り。
不可視と言っても過言ではないほどの速度をもって繰り出された一撃は……俺の金剣でもって完璧に封じ込まれた。
「だからこそ、途中での進路変更は不可。最初に決めた所へと一直線に飛ぶ」
「なんでえ……」
勇者の記憶に感謝、だな。
「仕返しの時間だ。先輩なんだから、全部受け止めきってくれよ?」
これだけの一撃だ。
金剣が反応しないわけがない。
衝突と共に、若干地面が陥没する。
その衝撃が腕を伝い、地面へと流れていく。その時、下半身がひしゃげそうな音を立てたが、歯を食いしばって堪える。
尋常ではない威力の一撃が金剣の腹に当たった事により、金剣が開く。
しかし、今回は少し違った。
ライナの一撃が金剣に衝突した途端、ぞわりと背筋が震え、この時を待っていたと、頭ではなく身体が叫んでいた。
来た。そして、待っていた。この時を。
新しい戦技アーツの芽生えだ。
戦技アーツ…」
名前はどうしようか…いや、既に決まっているな。何ら悩む事は無い。
「《征断せいだん》!」
高らかにその戦技アーツを叫ぶと、金剣の腹、その表面に青い半透明の盾を幻視する。
瞬間、地面に押し込まれそうになっていた俺の身体が半自動的に、苦もなく黒剣を押し返し、はじき飛ばす。
「なっ…にい!?」
ライナは思いっきり仰け反り、大きな隙を堂々と晒す。
しかし、それでは終わらない。
金剣の中から白剣が飛び出し、ライナへ目掛けて飛んでいく。
「なめるなあ!!」
仰け反り、回避不能のタイミングで射出された白剣を、ライナは伸ばした腕で地面を掴み、身体を地面に引き寄せることで回避、即座にスキルも使用してそのままバク転、四肢を地につけ、獣のような低姿勢を取る。
この時点で残り時間十五秒。
「《ラピッド・」
「超加速からのインファイト」
「……っ!!スリー》!」
愚直なまでに真っ直ぐに。俺の懐へ入ろうと急接近するライナ。
なら俺は、迎撃するしかないだろう。
白剣がまだ戻ってこない以上、俺が撃てる戦技アーツは大剣技のみ。
「《破ァ、断》ッ!」
振り下ろした金剣をライナは、無理矢理軌道変更した戦技アーツで迎え撃った。
ギリギリガリガリと、耳障りな音をたてて金と黒の光が尾を引いてぶつかり合う。
が、それも僅かな時間。
バキッ、と何かが致命的な音をたてて壊れる音がなり、ライナの黒い拳がヒビ割れ、そこから剥がれていき、最初に見た真っ白な手のひらが見える。
「嘘お…」
ライナが惚けた瞬間、さらに一歩、強く踏み込み。
「アアアアアアアアアアアアアアア!!」
剣を思いっきり振り抜いた。
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