大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

選択と決断

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午後の訓練が終わり、夕食を食べ終え、その他諸々を終えて夜が来た。
すっかり言い忘れていたが、朝起きるとシステナは部屋から忽然と消えていた。寝る前は確かにソファで寝ていたんだが。
その辺は神様だからなのか、それとも本当にどっかに行って居ないからなのかは分からない。
それはさておき、少し長めに訓練所に篭った後、確実にアーネが寝た頃合を見計らって部屋に戻る。
「来たか、《勇者》よ」
するとシステナが昨日と同じ場所、同じ座り方で俺を待っていた。
「…昼間はいなかったようだが、誰かに見られたりとかは…」
「あぁ安心せい。誰にも見られておらぬよ。して、答えは決まったか?」
やはり笑いながらそう言ってくるシステナ。
「俺は聖女を殺さない。悪いな」
「そうか……そうかそうか、貴様はそう言う選択をしたか。分かったぞ。あぁ分かったぞ。いや、分かっていたぞ」
提案を断られていると言うのに、何故かその顔には貼り付けたような、しかし満面の笑み。
そしてシステナは立ち上がって歩き出した。向かう先は俺の方──を、通り越し、扉の方へ。
「どこへ行く気だ?」
「別に余がどこへ行こうと貴様に関係あるまい?」
「ヴァルクスの爺さんの所か?」
そう言うと、システナはようやく足を止め、こちらの方をくるりと向いた。
「当たりか」
「何故分かったのだ?」
「大したことじゃない。単純に、いまさっき聞いたんだよ」
そう言ってコツコツ、と軽くマキナを叩く。
「そうか、貴様は聖女と直に繋がる連絡手段があったな。聖女の説得を試みたか?」
「ま、そんな感じ。お前との話をほぼ全部聖女本人に言って聞いてみた結果、なんか同じ話をヴァルクスの爺さんや他の英雄もされてた、ってフライナが言ってたぜ。その上で聖女の暗殺も持ちかけられたとか」
英雄達は当然首を即座に横に振ったらしいが、《神剣》ことヴァルクス・レムナントだけは罠に嵌めようとどちらとも取れる答えを返し、逆にフィール・ハウナはその話を聞いた瞬間ブチ切れ、荒野までシステナを追いかけ回しているそうだ。
「ふむ、そうか。つくづく上手くいかぬ事よな」
ふぅむ、と言って顎に手をやり、少し俯いて考え始めるシステナ。
しかし自分が言えた義理ではないがこの神、少しばかり浅慮が過ぎないだろうか。前に会った時はもう少し…いや、なんでもない。
「おい貴様、貴様に余の祝福を与えるから、余に仕えぬか?」
「あ?祝福?」
なんだそれ。
「うむ、神の力のごく一端を貸し与える契約だ。神との契約形式の最も弱いものだな」
「いや要らねぇ。つぅかお前はなんでそこまでして力を回収したいんだ?」
確かに元いた場所へ戻りたいということもあるだろうが、それ以上に、システナからは何か焦りのようなものをうっすらと感じた。
「む?早く余が戻らねば、」
その瞬間だった。
人の形をした化物がそこにのは。
「──!?」
「見つけたぞ、聖女の敵よ」
いや違う、ヒトだ。と言うよりもこいつは──
「フィール・ハウナ!?」
視界が歪む程の殺意の衝動に身を焦がした英雄が、扉を開けることも無くいつの間にかシステナの後ろに立っていた。
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