大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

例えと世界

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『まず一冊、本かノートを用意してみろ。無いなら想像するだけでいい』
シャルの第一声がそれだった。
『次に、ページを一枚ずつ真ん中で山折りにして、ページの端を本の中央に差し込むみたいにしてページで穴を作る。これを一冊分、全ページやる』
「おう、何となく分かる。で?これがどういう意味なんだ?」
『それが俺達のいる世界の一番わかりやすい例になる』
「はぁ」
そう言われてもいまいちピンと来ない。
あ、そうだ。今更だが、ここは自室って訳じゃない。
いつもの訓練所で、今日は剣を振ることも無く一人座ってシャルと対話中。一応アーネに聞かれたりすると良くないと思って部屋は出てきた。
『本の表側のページに書いてある事が、俺達がいる表側。内側のページに書いてある事が、お前も何回か戦った狭間のいる裏側だ』
なるほど、だから狭間なのな。まぁその辺はいいけど。
「結局、この狭間の子とかって何なんだ?」
『んん…なんと言うか…ここからかなり荒唐無稽な話になるんだが…いいか?』
「何を今さら。俺が木のマタから生まれたって話を聞いた時よりかは現実的な話だろ」
鼻で笑うと、シャルも『今更だったな』と呟いた。
『実はこのオルド世界は何回かリセットされてるらしくてな。あの狭間の子達はリセットされる前の世界で負けたものの成れの果てらしい』
「…負けたっていうのは?」
『今俺達も魔族と戦っているだろう?つまり、過去に何度もそういう事があったって事だ』
「なら、お前が滅ぼした機人も?負けたら全部あんな化物になるのか?そもそも負けの定義は?」
『それは…いや、多分機人はああなっていない。勝ち負けは、俺の時は機人をひたすら倒してたら光が降って来て……』
急にシャルの言葉があやふやになった。
『機人は狭間に落ちてないし、負けの定義は神が降参したらだぜ』
急に会話に割り込んできたのは久しぶりに聞く男の声。
「レイヴァー…」
『やぁ、我らが末の弟くん。久しぶりだね。彼女はちょっとその辺が当事者だったからややこしくなってるのかもしんないから、代わってこっちのお兄さんが教えてあげるよ。何が聞きたい?』
「とりあえず、負けの定義が先か」
『さっきも言っただろう?神が負けを認めたらだ。ヒトの神なら例の三神、彼ら全員が敵対勢力に対して対抗手段が無くなった時、あるいは自ら降伏するとその時点で負けだ。仮に君にいくら戦闘の意思があろうと関係ない』
「んじゃ、機人はどこに行った」
『別に?どこにも行ってない。機人は元々大きく分けて六種類の種族に別れていたから、それが姿を変えてこの世界にまだいるよ。一番わかりやすいのは貴族、大貴族かな』
「でも、負けたら狭間の方に落ちるんだろう?」
『うん、落ちるね。でも彼ら、
「『は?』」
俺だけでなく、シャルも驚きの反応をした。
『多分、そこがシャルレーゼもわかんなかった所なんだろうけどね、彼らは別に敗北した訳じゃない。完全にこちら側、ヒトに降っただけだよ。負けて狭間に落ちるより、あらゆる条件を呑んで合併した方がいいって機人の神は判断したんだろうね』
『いや待てレイヴァー。それだと三神が四神になるだろ。足し算ぐらい俺でも出来る』
 『そこなんだけどね、ウチの神の中でもグルーマルってのは特に性悪だろう?騙して向こうの神の力をぶんどったみたい。その結果が今いる貴族や大貴族さ』
「………?」
意味がイマイチよくわからん。
『あー、そうか、レィア君にはまだ言ってなかったっけ。本来、半耳長種ハーフエルフみたいな種族は絶対に出来ないんだ』
「ん?」
でもユーリアとか貴族とかって、必ず半分は耳長種エルフの血が流れるハーフ系の種族だって。
『そうなんだけど、普通に考えてみなよ。姿形はある程度似通っていても、作った神が別で、身体の仕組みが違っている生き物と子を作ろうとして出来ると思う?根本的に生物として違うんだ。機人とヒトと魔族ではね。
あぁ、君も同じだよレィア君。君もヒトじゃなくて《勇者》と言う、枠組みから外れた存在だから、同一の性質を持つ者がいない限り子供は出来ない…まぁ、あんまり関係ないけど』
「じゃあ、なんでハーフがいるんだ?」
『単純だよ。グルーマルが機人の神の力を手に入れたから、機人の方に手を加えて
アイツ性根腐ってるからなぁ、多分、わざと一回全部の機人を集めて事情を説明して、どうするかを自身に委ねさせたと思うぜ。だから誇り高かった龍人種ドラゴニアン耳長種エルフは数が少ないんだな。…ん?でも他の獣人種ビーストマンとかもあんま居ないらしいし間引いたのか?まぁそんな感じだろ』
「よくそこまで想像がつくな」
『長い付き合いだよ、あのクソ神とはな。分かりたくなくても分かっちまう』
珍しく吐き捨てるように言った後、レイヴァーが話を元に戻した。
『で、残った奴らは記憶を改竄して、記録も改竄して、だな。
シャルレーゼが本かノートにこの世界を例えてたな。書かれた事が俺達なら、書く側、読む側が神だ。そうやってこの世界は成り立ってる』
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