大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
1,229 / 2,022
本編

処理と塵

しおりを挟む
ヤギの身体を真上から力押しでぶった斬っただけでは残念ながら解決しない。
シャルやレイヴァー達曰く、この化物は俺達《勇者》の血がないと殺せないらしい。
その例外だった銀剣も、今や不死殺しの特性を失った。
俺の血だけが、こいつを殺せるのだ。
「っ、解除だ」
『《大銀牙》解除・同時に《千変》を・通常状態へ移行します』
キンッ、と弾かれるように大銀剣が二本の銀剣へ戻る。
だがそれはそこまで重要ではない。
今から使うのは緋色の眼であり、《勇者》としての力だ。
ヤギが一時戦闘不能となった時から、緋眼の効果がしっかりはっきりとしてきていた。やはりあいつがジャミングなりなんなりをしていたのだろう。
『アーネ様からの・メッセージを確認しました』
「今はほっとけ。どうせ出られん」
緋眼を意識して強化し、肉塊の散らばる辺り一面を見渡す。こいつの心臓は魔力と生命力の塊だから、一目見ればわかる。
だが、大銀剣の一撃の威力が高過ぎたせいで、破片が広範囲に飛び散ってしまった。
『急げ。一分もあれば奴は蘇生するぞ』
「…了解」
本当に厄介な性質だ。シャル、お前も手伝ってくれていいんだぜ?
『あ?それぐらいお前の力でやれ』
結構手厳しく突っぱねられた。…と?
「見つけた」
五十メートル程先の所で、魔力と生命力がごちゃ混ぜになって脈動する肉の塊が見えた。
『二十秒ってところか。余裕はないぞ』
「わあってるっての!」
とは言え、単純に考えて差し引き四十秒もあればあの肉片にトドメをさすのは容易だ。
三秒で到着、あらかじめ起動させておいた血刃で十分割し、血刃をあえて真上で解除。俺の血を切り口から染み込ませていく。
「これでよし、か」
『まぁそんなもんだろ。及第点はやる』
「こりゃまた随分と手厳しい──ん?」
何か塵のようなものが空中に舞っている。なんだ?
ひょいと掴んでみると、何やらやや湿った灰のようなものだった。なんだこれ。
『狭間の子は、死ぬと死体を残さずに塵になる。その灰みたいなのなそれだな』
「んえっ」
思わず手を払うようにしてそれを捨てた。
気づけば、確かに周りの肉片も塵になり、消えていっている。
だが、血だけは消えないのか、真っ赤な跡を残しているが。
『元々、あいつらはこっちの世界に居ちゃいけねぇんだ。それをあの心臓で強引にこちら側に出てきていた。それを消せば、世界側が勝手に存在を抹消する…つまりこうなる訳だな』
なるほど、わからん。
『………お前なぁ』
なぁシャル、お前達ってちょくちょく世界がどうのとか言ってるけど、俺ってその説明ほとんど受けてないんだよな。
いい加減教えてくれねぇ?
『…ま、頃合といえば頃合か。いいぞ。話してやる。話してやるが──先にそっちを全部終わらせてからだ。ちゃんと話してやるから安心して済ませろ』
うん?
『マスター・アーネ様からの・メッセージが・未だ途絶えないのですが。如何致しましょうか』
俺は初めて、マキナの困惑した声を聞いた。
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...