大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

婚約者と想定外

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ちょっと会って欲しいんだがと言われて訓練所から一歩出ると、見知らぬ男が立っていた。
「…ん?」
「えーっと、こちらが」
「あっ、その、はじめまして。僕、アゼロス・バレットと言います。今日と明日だけ聖学にお邪魔しています。よろしくお願いします」
「ん、あぁ」
ユーリアの言葉を遮り、顔を赤くしてそう言うアゼロス。
薄く白みがかる青の髪と同じ色の瞳。俺とほぼ同身長である男子というのはかなり珍しいだろう。
かなり若く…というか正直幼くすら見えるが、肩口で切りそろえられた短い髪と本人の背の低さ、そして少しおどおどした雰囲気がそう思わせるのだろう。
…にしても。
「…えっと、ユーリアさん、僕に会わせたい人って」
「あぁ、彼だ。名前はレィア。レィア・シィルこんな見た目だが男でな、結構良い奴なんだ」
「え!?あっ、すみません!」
「……普段なら許さんがお前なら許す。初めましてだアゼロス。確かユーリアの婚約者がどうのって聞いたんだが」
「あっ、えっ!?」
途端に顔をさらに真っ赤にし、視線を逸らして周りをキョロキョロし始めるアゼロス。
こういう反応からしてやはりまだ幼いのだろうか。
「えっと…はい。その、そういう事になってます」
真っ赤な顔のまま、やや俯きつつ肯定する彼を見て少しこそばゆく感じていると、申し訳なさそうにユーリアが頬をかきながらこう切り出した。
「あー、悪いんだがアゼロス君?」
「?、はい。何でしょうか」
「その婚約だがな、ウチの父が私の了承も得ずに勝手にやった事でな。私自身に君と婚約する意思は全く無いんだ」
「はい?」
「だからな?悪いけど…その、この話は無かったことにしてくれると助かるんだが…」
「えっ…?」
赤い顔が事態を把握して白い顔に。ころころと変わっていた表情も、ピタリと動きを止めてゆっくりと消えていく。
「ユーリアさん、それ、本当ですか?」
「えっ、あぁ、うん、まぁ。どこからどこまで本当かと言われたら、正直一から十は本当だな」
「………。」
俯いたまま黙り、握りしめた拳を戦慄かせた彼は、しばらくしてそのままの状態で口を開いた。
「わかり、ました」
「そ、そうか。大丈夫か?」
「大丈夫です。……泣いてません」
と言いつつ、鼻をすする音が聞こえる。
あーあ、泣かせた。
ユーリアお前どうすんのよこれ。
「………。」
いや、どうすればいいの?って顔で見てこられても困るんだよ。
流石にユーリアもこの反応は予想外だったらしい。
というかそもそも、送られてくる婚約者がこんなにも若いとは思っていなかったのだろう。俺の存在要らないレベルだし。
「…あー、アゼロス、今すぐ帰るのもアレだし、とりあえず俺の部屋来いよ。こんな嫌な奴ほっといてさ」
「ちょっ、レィア!?」
うるさいお前は黙っていろと睨み、頷いたアゼロスと一緒に部屋へ向かう。あ、そうだ。
「おいアーネ!部屋戻るぞ!色々と問題が起きた!」
「はい?何が起きたんですの?」
ひょっこりと顔を出すアーネに後で話すと視線で伝え、アーネが了解したのでそそくさと退散する。
予定が大幅に狂った訳だが、さてさてどうしたものか。
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