大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

侵入と激突

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衝撃、そして轟音。
スレイプニルが突っ込んだのだと俺が気づき、同時に声を張り上げる。
「走れ!」
みんなも意図を察してくれたらしい。即座に馬車から飛び出し、屋敷の中へと潜入…いや、ここまで派手にやらかしたんだ。侵入か。
屋敷に入ると、誰もいないだだっ広い広間。正面には無駄に広い階段…しかも、途中で左右に分かれている。天井にはシャンデリア。床はアホみたいに高そうな絨毯が敷いてある。
まさに馬鹿貴族が作った屋敷、みたいな印象を受ける。
そして見た感じ、階段を上ったところの左右に二部屋ずつ、広間から通じる部屋が二つに、階段の裏には長い廊下があるらしい。
ザッと周りを見渡し、俺は銀剣を仕舞い、代わりに金剣を取り出して左手に持ちながら走る。
「俺は上へいくから、みんなは先に下の部屋を調べてってくれ」
返事は聞かずに階段を駆け上がり、右の階段へ。部屋を開けると、そこは空き部屋。
引き返して隣の部屋を開けると、そこは埃の被った寝室。
階段を駆け下り、左の階段へ。
そのまま音をたてて扉を開けるが、やはりこちらもハズレ。
その隣も開けるが…ハズレ。
階段の上の部屋には何も無し、か。
急いで階段を駆け下り、下の部屋…はみんなに任せて、階段の裏にある廊下を駆ける。
無駄に広いこの屋敷、どこかにアーネがいると信じたいが…この屋敷、生活臭がまるで無い。
魔族が飯を食わないなんて話は聞いたことがないので、当然ながら何か食べたり、あとは排泄したりするはずだし、魔法にかかりきりになるのなら、それらをどうにかする必要が…。
待て。
それなら、魔族が一人である可能性は低い…というか、皆無じゃないか?
誰だって腹が減るし出すモンは出す。
それを解決するとしたら…二人以上で魔法を執り行い、一人が休み、もう一人が魔法を行う。
こうするのが…普通じゃないか?
思い出せ。ナーガは何と言っていた?

『タシカにトオッタ!カズはフタリ!』

…確かに通った。数は二人。
この二人、っての、もしかして。
「あぁん?誰かと思えば」
最悪の答えに行き着いた瞬間、廊下の向こうから誰かが…いや、この場合、誰かじゃないな。
魔族だ。
しかも、知らない顔じゃない。
いや、厳密には顔は見えない。
フードを目深に被り、外套を着込み、俺が見えるのはせいぜいが魔族の浅黒い手だけ。
しかし、たった一言ですぐにどいつかわかった。
あの時の…。
「テメェ…………………ッ!」
「なんだ、ついこの前森で殴りあった銀の嬢ちゃんじゃねぇか」
森を襲った魔族ッ!
「アーネをどこへやった!」
「あーね?誰だそれ?…あぁ、もしかして赤毛のデケェ嬢ちゃんか?もしかして、銀の嬢ちゃんとお友達か?」
間違いない。アーネはここにいる。
「そいつなら…この向こうにいるぜ?まぁ、助けに来たってんなら、俺は絶対にどかねぇし、借りも返してぇから…後はどうするかわかるだろう?」
答えは言わない。行動で返す。
左手に構えた銀剣をゆっくりと目線のあたりまで持ち上げ、切っ先は目の前の魔族へ。
今度こそお前を…!
ぶっ殺すかかって来い
そっくり返す上等だ、お嬢ちゃん
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