大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
198 / 2,022
本編

馬車と理由

しおりを挟む
がたがたと音を鳴らせながら、スレイプニルが引く馬車が荒野を駆ける。
馬と馬車をかっぱらってから、既に二時間ほど経っており、追っ手の心配は無さそうだ。
多分、どこかのカッコイイ先生が頑張ったんだろう。
俺は御者台に座り、前方をぼんやりと眺めつつ、変わったことがないか見張り続けている。
「なぁレィア、お前は何故南下をしたんだ?」
いつの間にか俺の後ろにユーリアがいたようだ。
「言ってなかったか?捜索隊が探してないのは南だけ。ならそっちへ」
「あぁうん、それはラウクムだったか?あの男に聞いたよ。で?それだけならまだ南には絞れないだろう?なら、南と決めた理由は?」
チッ、勘のいい耳長種エルフだ。
「……多分、アーネは自分の意思で出ていった訳じゃない」
「それはおかしくないか?争った形跡は無かったのだろう?ならば自身の意思で出ていったとしか思えない。特に、彼女もこの学校の一員だ。抵抗もできずに攫われることも、殺されることも無いだろう」
「それよりもっとおかしい事がある。コレだ」
俺がユーリアに渡したのは、アーネが肌身離さずにつけていた、あの妙に業物のダガー。
「…?これは」
「よくしらんが、アーネが常に持ってたもんだ。自分の意思で出てったってんなら、そいつも持っていくのが当然だろう。だが、俺が部屋に戻ってみると、机の上にそいつがポイと置いてあった」
「レィア、このダガー、アーネが持っていたのだな?」
「あぁ、そうだが?」
「…ん?これは…」
「あん?」
不審に思い、振り返ってユーリアを見ると、熱心にそのダガーの柄と刃の間、その僅かな隙間を覗き込むようにしてじっと見つめていた。
「どうしたんだ?いきなり」
「このダガーに何か書いてある。おまけに、かなりの量の魔力が込められているな…使用方法と目的は…?だめだ、わからん」
少し補足すると、物質に正規の手順で魔力を込めると、魔導具になる。具体的に、俺達の部屋にあったフリーズボックスとかだな。
「ふーん。骨董品なのか?親の形見とかなら有り得そうだな」
「大方、そんな所だろうな。で、アーネが攫われた事を前提にしよう。それで、南下する理由は?」
「単純だ。攫われたのなら、どこか人目につかない場所に隠すだろう?なら、まず学校の中に犯人はいない。俺だけじゃなく、クードラル先生の使い魔も校内を探したんだ。たとえ、仮死状態にして地面に穴掘って埋めてもバレる。てことは、学校の外。でもここは半径数キロは草木すら殆ど絶えた荒野。捜索隊が探してもいなかったのなら、どこかにポイって事も無い。なら、犯人は捜索隊の目が緩かった南に下る。そして、人ひとりを連れても充分に南下出来る存在だ。流石にもうわかるだろう?」
「………魔族」
「正解。多分実行犯は一人か、多くて二人って所だろう。それ以上だと、学校の誰かに勘づかれるリスクが高まるし、結界をそうなると結界をすり抜けられる程度の魔族なら流石に切り抜けるのは難しい」
さて、無駄話もこれぐらいか。
「ほら、団体様がお越しだ。みんなは疲れてるだろうから俺がやる。ユーリアは…俺のサポートだ。魔法は使えるだろう?」
「もちろんだ。召喚魔法だけしか使えない訳じゃない。耳長種エルフを舐めるなよ?…しかし、本当に大丈夫か?」
「あぁ、頭が痛いし右腕が使えない。目の前はボヤけるし、足元はフラフラ。最ッ高のコンディションだよ」
適当に切り返して、真っ正面から突っ込んでくる牛型の魔獣の群れに対し、剣を向けた。
しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

種族統合 ~宝玉編~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:481

まほカン

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:32

【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:94

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:120pt お気に入り:666

処理中です...