大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

魔法と知識

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あの炎とかが一体何なのか、と言われても、魔法だと思っていた俺からしたら「じゃあ魔法じゃなけりゃなんなんだアレ」と言う話で。
そもそも俺達《勇者》にとって、魔法や魔術は相手が使うものであって、間違っても俺達が使うものでは無い。
それも、《勇者》は歴代血に魔力を宿す為、そもそも魔法が使えない。魔法のことを知る暇があるのなら少しでも己を鍛え、一人でも多く魔族を狩る。そういう生き方を続けてきたのだから、何もない所から炎や風が起これば「魔法か」と判断するのもある種当然とも言える。
そして、俺を育てたナナキも元がつくとは言え勇者。もちろん魔法の魔の字も知らず、使えず、故に教えなかった。
そんな訳で、魔法という存在は知っていた──裏を返せば魔法は存在しか知らなかった俺が、魔力を消費して発生する現象を目の当たりにすれば、魔法だと思い込むのは当然。
と、言う話を、勇者の部分だけぼやかしてユーリアに伝えると、額に手をやって深い深い溜息をついた。
「なぁレィア…君は今年で幾つだ?十三歳にもなれば誰しも当たり前のように知ってる事だぞ?」
「多分十……えぇっと、あれからさらに一年経ったし、十七ぐらいじゃないか?」
「ん?もしかして自分の歳が分からないのか?」
「こっちの生まれは曜日日付の概念すら無い森の奥でね。いちいちそんな事を気にもしないし、ロクに覚えちゃいないよ」
「ふぅん。大変だったんだな」
俺はこれが当たり前だったから何も思わないけどな。
いや、そんなことはどうでもいいんだ。話がズレた。
「で?魔法ってのはなんなんだ?」
「その質問は正直抽象的すぎてなんとも言えないんだがなぁ…火でお湯を沸かす例は知ってるか?」
「あぁ、前にアーネから聞いたな」
魔力と言う薪を使って火をおこし、それで水を熱してお湯という結果を得るという話。
「じゃあ、何がどうなったら魔法だっていう定義の方を知らないのか」
「発動プロセスとかもよく分かってねぇな。そもそも魔力って何だ?」
「あー、そこからか。話すと長くなるんだがなぁ…まぁ、これを機に叩き込んだ方が楽か」
そう言ってユーリアは、どこからともなく小さな黒板とチョークを取り出した。
「とりあえずどこから手をつけるかな…あー、まず、魔法と言うのは魔法陣が必須なんだ。理由として、魔力というものは入れ物に入れておかないと不安定で霧散してしまうからでな」
そう言いながらユーリアの手元ではわかりやすい図が書かれ始める。
「それを防ぐために、まず体内にある魔力を杖や魔本を使って体外で圧縮し、霧散しないようにする。続いてこの圧縮された魔力に呪文で形を与える。たとえば…光よ」
ユーリアがそう言って指をパチンと鳴らすと、光の玉がポンと生まれた。
が。
「ほら、すぐに消えただろう?」
生まれたのはわずか一瞬。視認した次の瞬間には消えていた。
…そう言えば、杖とか魔本を使っている様子はないが…耳長種エルフってのはそういうのもいらんのかね?
「魔力に呪文で形を与えても、一瞬しかもたない。なぜなら、さっきも言ったように魔力には元々散るような性質があるから。だから魔法陣を使う」
こんな風に。そうユーリアが言って、もう一度「光よ」と言う。
「ほら、今度は消えない。なぜなら、この光の中には魔法陣が組み込まれていて、それが呪文と同じ効力を持って固定化させ続けてるから」
口で一言言うだけでは効果は一瞬しかない。
ならば、その本体に同じ効果を刻み込めばいいというという事なのだろう。
「で、この魔法陣は魔法なら必ずどこかにある。耳長種エルフは魔力との親和性が高く、なんとなくだけど魔法陣の位置が分かるんだが…レィアのあの炎や氷にはそれが全くなかった」
「ん?じゃああの炎とかって…」
魔法陣が無いのならさっきの光のように出てきてすぐに消えるはず。
しかし、実際は俺の周りを飛び回り、刃となって飛ぶという芸当までしてみせた。
「魔力で燃えてるのは間違いない。だからこそ不可解なんだ。あぁいや、不可解と言うのは少し語弊があってな。別に私はこの現象を全く知らない訳じゃない」
「じゃあそれじゃね?」
今度魔法についても調べなきゃならないな、なんて思いながら適当に返したら、ユーリアがまたため息をついた。
「レィア、それってつまりは魔族の使う魔法の事だぞ」
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