大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

鍵決闘と鎧 終

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「行くぞッ!」
次に装填したのは土の魔法。
剣に吸い込まれるように落ち、柄に触れた途端、暗い色の地の剣が、ズッ…と伸びる。
それを下段に構え、下から這うように振り上げて逆袈裟に剣閃を放つ。
放たれた土の魔法は、触れてもいない床を砕きながら宙を走り、ユーリアへと向かって飛ぶ。
それに対してユーリアは不敵に笑い、剣を構える。
「いやはや、そんな手段があるとは油断した。全く、おかげで私のフィールドも全部やられてしまったし…だがレィア、私が何者か忘れたかな?」
土の剣閃に対して×の字になるように剣を構え、こう言い放つ。
「剣の一族──魔法すら斬り裂く耳長種エルフだぞ?」
次の瞬間、目にも止まらぬ早さでユーリアが動いた。
風切り音すら斬り裂いてふり抜かれた剣は俺が放った土の魔法と交差する。
──そう、銀の剣と黒の刃が互いに拮抗した時間は無かった。
銀の剣は一瞬で、抵抗もなく黒の刃をすり抜けた。
「なんっ…!?」
最も驚いたのはユーリア。
そしてすり抜けた土の魔法が剣を振った直後の無防備なユーリアに到達した。
メキメギメキメギッッッ!!
音にするならこんな音が響いた。
ユーリアの顔が苦悶に歪み、身体が壁まで吹き飛ばされる。
『目を離すなよ?』
わかってる。もしまたスキルを使われたら不味い。
緋眼で睨むと、派手にスッ飛ばされたユーリアの姿が辛うじて目視出来る。
吹き飛ばされたユーリアの身体は半ば壁に埋まるような形になっていたが、それでも無理矢理引き剥がして立ち上がる。
自分が言えることではないが、よくもまぁ立ち上がるものだ。
「レィア、それは一体なんだ?」
よろよろと立ち上がり、剣を杖にして辛うじて体勢を保つユーリアが口にしたのは、そんな疑問の言葉だった。
「………奥の手のタネを自分から言う馬鹿がどこにいると思う?言うかよ」
「なるほど、さては?」
安い挑発。首を竦めて誤魔化す。
「まぁいい、魔法なら私の方が詳しいしな。それがどういう代物かも薄々わかってる。だからこそ私は敢えて──」
パチン、と指を鳴らすユーリア。
次の瞬間、緋眼が熱くなるほどの膨大な魔力を感知した。
全く、一体どうやって隠していたのだろうか。ざっと見ただけで三十は下らない魔方陣が急に現れ、さらにナイト・オーダーが三体も現れた。
「魔法の全力を見せよう」
「だったら俺も全力だな」
俺はそう言うと、宙に浮いたままだった風と火の魔法二つを同時に呼び寄せた。
「これが俺の本当の奥の手だ」
二つの魔法は俺の手元で混ざり合い、絡み合い、一つの魔刃となる。
火は風に煽られ炎に。
風は火に煽られ旋風に。
互いが互いを強化し、際限なく強大になる魔法の剣。
刃は片手剣の大きさから大剣の大きさへと変化し、実体がないにもかかわらず手に重さを感じ始める。
二種類の魔法による複合魔刃。それが俺の真の切り札だ。
「行けっ……!!」
「喰らえッ!!」
ユーリアが剣を指揮棒のように振り全魔法を突撃させ、俺が応じるように魔法の刃を飛ばす。
互いの魔法がフィールド内に甚大な被害を撒き散らしながら飛び、丁度中間地点で俺の刃とユーリアの魔法が衝突した。
拮抗は無く、一瞬で俺の刃がユーリアの魔法を斬り伏せ、紙切れでも斬ったかのように一切減衰せず突き進む。
「やっぱりか!くそっ!」
珍しくユーリアの口からそんな言葉が聞こえた。
ナイト・オーダーが動き、刃を止めようと身体を張って防ぐ。
流石に刃もナイト・オーダーは即両断とは行かず、ギリギリと拮抗。
しかし刃はナイト・オーダーを斬り伏せ、二体目も斬り伏せる。
三体目もなんとか押さえ込もうとするが耐えきれない。辛うじて刃の着弾点を逸らすだけしか出来なかった。
着弾と共に火をまとった爆風が吹き荒れる。
そして──
「これはちょっと予想外…だがっ!」
ユーリアが飛んだ。
俺の爆風をも利用して飛んで加速、距離を詰め、剣を一振りだけ握って突っ込んでくる。
「ッチィ!!」
俺の手元には柄だけの金剣、銀剣は床に落ちたまま拾えていない。そして、拾い直すには時間がない。
だから賭けるなら──
「頼むぞ、マキナ!!」
柄を即座に捨て、右の拳を握り締める。腰を深く深く下げて──カウンター。
「はぁッ!!」
「オォッ!!」
跳ぶと同時に右拳を突き上げる。
その瞬間、千変が動いた。
俺の左半身の装甲を全て剥ぎ取り右腕へと集中。一つの大きな杭を形成する。
文字通り瞬間。瞬きひとつの間に起きた出来事は、ユーリアの剣をすり抜け、彼女の肩へ突き刺さる。
そしてユーリアの剣は俺の目先三センチほどの所で止まる。これ以上進もうとすれば、彼女の
肩が壊れる。
「っぐ…!」
カラン、とユーリアが剣を落とした。
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