大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

女と戦闘3

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…あん?
膨大な魔力が渦巻いたが、何か起きたようには見えないな。依然として、凄まじい剣戟はあるものの、何か変わったようには思えない。
しかし、変化は突然やってきた。
先程から一つも精彩をかいていない鋭い突きが、俺の喉を抉らんとはし
「がっ!」
腹部に衝撃。一気に何かこみ上げてくるが、無理矢理押し込む。
何だ、今のは。
女の剣は喉元を狙った突きだったはずだ。
なのに、まるで腹に一撃、重いのを貰ったような衝撃が。
フィールドの効果がなければ、結構な重傷だったかもしれない。
眼を見開き、周りを見渡しても、全く変化はない。
なのに。
「ぐっ!」
まただ。次は額。
なのに、女の剣戟は腕を狙っていた。
ピリリとした痛みが額からじんわりと広がる。
多分、今の一撃で切れたな。
思い当たる事といえば、さっきの魔法…。
ナイト・オーダーだったか。
女が攻撃するのとは別に攻撃する魔法か?
…魔法なのに魔力が見えないとか、非常に面倒だ。
見えなきゃ避けられないし。
「…っ!」 
また一撃。次はまた腹に。
「ははっ!どうしたどうした!攻撃はしないのか?」
うるせェな。
なら、お望み通りにこっちのターンだ。
「『この身にあるは不屈の信念』」
煌覇こうは》で蹴散らせば問題ないだろう。
「『この手にあるはその証』」
見えない攻撃だろうと、実体はある。じゃなきゃダメージが俺に入る理由がないからな。
「『望むは証の姿なり』」
「おっ?魔法か?私が撃たせてもらったんだ。そちらも撃たせよう。それでイーブンだろう?」
黙れクソアマ…そのニヤニヤ笑い、消し飛ばしてやるよ…!
「『その姿は彼の者のつるぎ、盾である』」
魔法じゃねえけど食らいやがれ…!
右の剣を投げ、それと同時にバックステップ。
ちょうどいい距離を取りつつ、構える。
「…ッ《煌覇こうは》!」
ゴバゥッ!という凄まじい音が手元で爆ぜる。
俺がさっきの戦闘を含めても初めて使った戦技アーツは、真っ赤な極大の光の線となって相手にぶつかり…。
訂正。ぶつからねぇ。
そして、やっと見えた。
女に《煌覇こうは》が当たる直前、鎧を着たナニカが急に現れ、俺の《煌覇こうは》を受け止めた。
そして、競り合った後、あろう事か《煌覇こうは》を上から殴りつけた。
上から余程の力で殴られたのだろう。《煌覇こうは》は地面に叩きつけられ、相手に届くことなく潰えた。
「どうだ?これが私の《陰ながら主を支える者ナイト・オーダー》だ」
と自慢げに喋る女。
その頃には既に鎧は再び透明になり、完全に見えなくなる。
俺の武器は、黒い双剣が一対。
他の武器…鞘は相手の足元に半ば埋まった形で突き刺さっているし、白剣は少し離れたところに刺したままだ。金剣は相手に投げたために、弾かれ、白剣のすぐ近くにあるものの、どちらにせよ遠い。
何度もあの鎧に殴られたせいで、身体は悪い意味で熱をもっている。
けど。
だけど。
だからどうした?
進まなきゃ。勝たなきゃ。
「という訳だ。どうか了承してもらえないだろうか?」
「ああ?何がだ?」
喉が掠れて、我ながらひどい声だ。
「どうか、これ以上あなたを攻撃したくないのだ。女性をいたぶる趣味はないのでね」
あぁそうか。
そう言えば、絶対に負けられないんだよな。
「寝言は寝てから、勝者の言葉は勝ってから言えよ」
二本一対の剣、そのうちの片方を相手に向ける。
「まだ終わってないだろう?今の一撃が最高の一撃だって誰が言った?今ので俺が負けたと誰が言った?」
まだ膝をついてはいない。
まだ武器を棄てていない。
まだ諦めてなんかいない!
俺は約束したんだ。
絶対ぜってぇ負けねぇからな?」
そう言うと、今度はこっちから駆け出した。
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