大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

確認と再突入

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「残りはあと何匹捕まえれば良いのじゃ?」
「んー、ちょい待てよ…」
えーっと、と思い出しながら指を折る。行きで六体送って、外じゃ捕獲する余裕なんて無かったから零体。そんでついさっきまでの奴らも結構捕まえてたけど、《臨界点》の炎刃の雨で結構やられたから…
「残りノルマが魔法耐性持ちを三体と、雑魚ノルマが残り五体だな」
「ほう、存外やっているではないか。物理耐性の方はもうよいのか?」
「あぁ。どこぞの誰かさんが空から絨毯爆撃カマしてきたからな。あれを辛うじて生き残った個体を選別して檻貼って先生がまとめて運びに行ったぞ」
そう、運びに行ったのだ。アーネと《雷光》を置いて。
やっぱり大丈夫じゃなかったじゃねぇか。離れる事分かってたのに、なんであの人は自分がやるって言って来たのかね。
思わず出たため息に、手綱を握る《臨界点》が屋根の上で長距離を見渡していた俺の方へくるりと振り返って「どうした?」と聞いてきた。
「中の連れが気になるか?」
「んー…あー…まぁ、そうだな」
「なんじゃその答え」
フードで顔はほとんど見えないが、それでも僅かに見えた口元や口調などで《臨界点》が呆れているのがよく分かる。
「ともかく、中の二人は安心せい。どうせ今は何も出来ん状態じゃ。薬が効いてくるまで寝るしかないしの」
「あ?薬?」
ンなモンいつの間に飲ませてたんだ。気づかんかったぞ。
「余分な魔力を体外に排出させ、その魔力で身体の治癒力を底上げする秘薬じゃの。ちなみに我輩が作った」
その言葉に思わず《臨界点》の方を見る。
「お前が?」
「なんじゃ?我輩が薬を作るのが不思議か?」
「お前が薬を作れるのが不思議ってーか、二つ名持ちになれるぐらいの戦闘力を持っときながら薬を作れるってのが意外だっただけだ」
「はっ、元々我輩は薬師じゃよ。ただ」
「ただ?」
そこでふいと視線を前に戻す《臨界点》
「ただ、少しばかり過激なだけじゃ」
「………。」
薬を作るのに過激もクソもないと思うんだがな。
「その過激なアンタが作った薬は信用していいのか?」
「安心せい、ネズミで試した」
「ヒトは?」
「大丈夫じゃろ。そもそも魔力の過補給などまず起きぬ事象じゃし、実験する相手もおらん。どうしてもデータが不足するんじゃよ」
「万が一、アーネ達に何かあったら──」
出したままだった銀剣の切っ先を、静かに《臨界点》の後頭部に向ける。
「おぉ怖い怖い。一体何故貴様がそこまであの二人を気にかけるのやら。いや違うか。《雷光》はあくまでついでじゃな。アーネ、あの女じゃな?何故そこまであの女に固執する」
振り返りもせず、もう目前の結界を見上げたままの《臨界点》がそう言った。
「あ?何の話だ」
俺に背を向けたまま、それでもよく分かるほど大きなため息を、今度は《臨界点》がついた。
「無自覚。あるいはわかっておらんのかもしれんな。いずれにせよ未熟。死んでおる訳ではなく、まだ育っておらんようじゃな」
「何の話だ。俺に分かるよう──」
「話は終いじゃ。安心せい、万が一があっても我輩で対処出来る。じゃからあの女はこの場から飛んで行ったのじゃ。──ほれ、言っておったら来たぞ」
バサリ、と大きな羽が風を打つ。その音に気づいて見上げると、真っ黒な鳥が一羽飛んでいた。
「お待たせしました!行きましょう!」
結界の通行札の関係上、先生が来るのを待つ予定だったが、丁度いいタイミングで来たな。
「?、どうしたんですか?時間無いですよ?」
「……わかってるよ」
「札を寄越せ、《緋眼騎士》」
無言で《臨界点》に通行用の札を渡し、先生が中に入っていくのを屋根の上から見送る。
「安心せい。トゥーラと言ったか?薬師である以上、我輩もあの女以上の事は出来る自負がある。万が一が起きた時でもなんとかして見せよう。貴様から嫌われるのは堪えるからのう」
「……なら安心だ、って信じれたら良かったんだがな。お前はなんと言うか…信用出来ないって言うより…胡散臭いってのがしっくりくるな」
「なんとも手厳しい。我輩はこんなにも貴様に親愛を持って接しておると言うのに」
「冗談は寝て言え」
顔も見せずにか、と言いかけたがやめた。
「言い合いはこれまでだな」
「気を引き締めろよ《緋眼騎士》」
「お前もな、《臨界点》」
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