大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
1,124 / 2,022
本編

魔獣と檻

しおりを挟む
戦闘シーンはカット。理由は大して手こずりもしなかったし、面白い事もなかっ…いや、なくも無かったか。でもまぁ、やっぱり大したことなかったしカットだな。
戦闘時間十五分弱。うん、多分試験にゃちょうどいいだろ。
『可哀想な扱いだな。で、どうすんだコイツ』
全部峰でぶん殴ったため、獅子…もとい四肢欠損などはないが、ボロッボロになって哀れみすら感じる見た目になった獅子型魔獣は、今腹を上に向けて服従の格好になってそこに転がっている。飼い猫とかこんな感じなのかね?
「さてなぁ、本当なら先生から檻を借りるつもりだったんだが、どうも寝てるらしいし」
 昨日渡された檻は一旦アーネに渡してそのままだし、そのアーネも寝てる。いい加減、他の奴らも起こすか。
「ひ、《緋眼騎士》、そこにいるのか…?」
「ん?」
のそっ、と馬車の中から出てきたのは長い長い黒髪が特徴的な幽霊の魔獣。
に、見えるが…多分アレって
『《雷光》だろ』
「………。」
だよなぁ…
でもよ、たしかにアイツも黒髪で長いけど…あんなのになるか?
『寝起き二日酔いならあんな感じじゃないか?しかもお前のこと呼んでたし』
「………ま、消去法で《雷光》しかいないか」
アーネは鮮烈な赤の髪だし、先生だとしたら身体の起伏が少なすぎる。
ひとまず獅子型魔獣のことは放置だ。逃げたり隙を突いて攻撃されたりしないよう、口と手足等を抜いた髪でくるりと縛り、馬車の方へと歩いていく。
「よぉ《雷光》。いい夢見れたか?」
「《緋眼騎士》か、すまない。寝過ごしていたようだ…今何時だ?」
「構わねぇよ、大した問題じゃないし。体調が悪そうだが大丈夫か?朝に弱い系か?風邪か?それとも女の子の日か?」
「冗談でも最後のは言わない方かいいぞ。特に親しい女性の知り合いを失いたくないならな」
「そりゃ構わねぇさ。別にアンタと親しいつもりは微塵もねぇからよ」
《雷光》との付き合いは無くもない、ぐらいだし。そもそもこの学校で知り合ったヤツらだって一年程度の付き合いまでだし。そもそも隔離されたようなところでこれまでの生涯の大半を過ごしてた訳だし。
「声に出ているぞ。そもそも親しさは時間の問題ではなく密度の問題だろう……ところで、昨晩私は何をした?貴様に会いに行ったところまでは記憶がしっかりあるのだが、それ以降があやふやでな。しかも頭痛も酷いし吐き気もある。熱は無いらしいがどうも体調は悪い」
『アウトだ。おい今代の。二度とこいつに飲ませようと思うな』
了解了解。
「あぁ気にするな。世の中思い出さない方がいい事も割とある。今日一日は寝てろ。前に出てこられても邪魔だからな」
「しかし…」
「寝てろ」
と、そうだ。
「中の二人は起きたか?この魔獣をぶち込む檻が欲しいんだが…」
「檻?それなら私が二つほど持っている」
前髪をかきあげ、いつにも増して深いシワを刻む眉間をあらわにした《雷光》が二枚の札を俺に渡す。
見た目は長方形の短冊のような形。真っ黒に塗りつぶされているため、なにか書いてあるようにも見えないこれが通称《檻》。
これを対象に張り付ければ効果が発動するスグレモノだ。
「さんきゅ。中の二人を起こしておいてくれ」
一応二枚とも貰っておいて、さっさとさっきの獅子型魔獣のところに戻る。
ペタリと札を魔獣の額に貼り、同時に髪を解く。
次の瞬間、魔獣が起き上がり、俺から逃げようと一目散に走り出すが──不自然な勢いでブレーキをかけ、半ば転ぶように止まる。
よく見れば獅子型魔獣に細い黒の筋が身体の至る所に、まるで蜘蛛の網のように張り巡らされている。
『悪趣味な』
「仕組みは詳しく知らんが、あれが殻みたいにガッチリと身体を固定するんだと。しかもこっちの意思であの檻を動かせるから、強引に魔獣を連れてこさせることも出来るんだとか」
元気な時の《雷光》曰く「外付けの骨と筋肉みたいなもの」だそうだ。中の魔獣がどれだけもがこうと、札の力の方が強いから絶対に逆らえない。
「ほれ、行くぞ」
『グ、ゴ、ガァァ…』
抵抗しているらしいが…うん。ビクともしてねぇや。先生がちゃんと起きるまで馬車の後ろをついてこさせるか。
しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

種族統合 ~宝玉編~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:481

まほカン

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:32

【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:94

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:120pt お気に入り:666

処理中です...