大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

勢いと重圧

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コップに注がれた酒をじっと見つめ、何故か気まずそうにした《雷光》だったが、意を決したようにぐいっ!と一息に飲み干した。
『…大丈夫か?』
大丈夫、こいつだって加減は分かってるだろ…多分。
「……おかわりだ」
ぐいと突きつけるように出されたコップに無言で注ぎ、それをまた一息で飲み干す《雷光》。…酒飲みが周りにいないからよく分からないが、ペースが早いと不味いんじゃないか?
『匂いからほとんどジュースみたいなもんだと思うが…』
「私だけ飲んでいるのも不公平だ。貴様も飲め」
薄い月明かりに照らされる《雷光》の顔を緋眼で覗くと、既にもう顔が薄らと…いや大分赤い。
…ほとんどジュース、なんだよな?
『酔う奴は酔うだろ。酔っ払いには逆らうなよ』
…へーへー。
そんな訳で《雷光》に飲ませつつ、たまに飲みつつ、魔獣が襲ってくることもない、ついでに目的の会話さえもない静かな時間が流れた。
「元から不安はあったんだ。私に務まるのか、と」
飲み始めてかなり経ってから《雷光》が下を向いてポツリと口を開いた。
無言で先を促すと、下を向いたまま《雷光》が唐突に話し始めた。
「つい先日、卒業したウィル様から私に《シェパード》という派閥のリーダーを任されて、まだひと月も経っていない。学校は始まってもいない。でもな、《緋眼騎士》。私は怖いんだ」
「何がだ」
何となく分かってはいた。だが、酔っているためかあまりにも言葉が足りないため、そう聞き返した。
そのことを余程言いたくなかったのか、迷った《雷光》はさらに一度酒を煽った。
「押しつぶされそうなんだ。周りの期待に。あの人の二つ名の後継者である事に。シェパードという名の重さに」
そして何より、彼女は続ける。
「あの人に託されたリーダーだ。私はその期待に応えられるのだろうか。ウィル様の存在はあまりにも…あまりにも大き過ぎた」
「………。」
気にすんなよ。そう言うのは簡単だった。
でも、それは何か違う気がした。
「《緋眼騎士》、知っているか?」
「あん?何をだ」
なんと言うべきか迷っていると、《雷光》がこう言ってきた。
「先代の《勇者》、ウィル様が《シェパード》に所属するとなった時、派閥間の支持勢力が大きく傾いたのだそうだ。もちろん、《シェパード》側にな」
つまり、多くの生徒がシェパード側になったと。ウィルがそっちについただけで、彼に率いられるようにして付いてきた生徒が少なからずいたというのは驚きだが…その話がまた《雷光》にプレッシャーをかけているのかもしれない。
「《緋眼騎士》、私は……私はどうしたらいい。先達が、先代の《勇者》が積み重ねてきたこの《シェパード》を、私は一人で支えられる気がしない。誰かがそばにいて支えてくれなければ、私は耐えられる気がしない……」
「《シェパード》にはお前以外にも《臨界点》がいるだろ?」
「あんな者が頼りになるものか!!」
唐突に激昴した《雷光》は思い切り屋根を叩く。ダァン!!と大きな音があたりに響く。
「…もうちょい静かにな?」
「うるさい!あの者にはもううんざりだ!《シェパード》としての義務を果たす気も無ければ二つ名としての自覚もない!!知っているか《緋眼騎士》、《臨界点》は毎年わざと進級試験を落としているんだぞ」
「毎年?ちょっと待て、それなら退学になっているだろ」
「さてな。どういう訳かあいつはずっといる。だが、確実に言えるのは私が一年だった頃からあいつは《シェパード》にいて、ずっと三年をやっている」
真面目で堅物と言える《雷光》には《臨界点》が我慢ならない存在なのだろう。
「頼む、助けてくれ。私一人では……この派閥を」
潰してしまいそうだ。
そう《雷光》の喉の奥から絞り出した声は悲壮に溢れていた。
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