大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

拒否と話

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呆れた。何言ってんだお前って思った。ってか口からそのまま飛び出た。
「何言ってんだお前」
「そのままの意味だ。シェパードに入って、私達の力になってくれ」
居住まいを正して正座になった《雷光》の表情は真面目そのもの。嘘や冗談が言えるような奴じゃないと分かっていたが、それでも思わず鼻で笑い飛ばした。俺の事を分かってねぇな。
「断る。俺がそう言うの嫌いだって知ってるだろ?」
じゃなきゃ二つ名を取りたての頃にあんな騒動を起こしてない。仮に入るにしても、多分《猫》の方に入って適当に悠々と過ごしていただろう。
『じゃあ《キャット・シー》の方に入っときゃよかっただろ』
学校側と《犬》の方に目を付けられるのも嫌だしな。だから無理にでも中立を選んだ。
……まぁ、その結果として後々もっと面倒なことが起きたが、それはさておき。
「話はそれだけか?ならさっさと糞して寝ろ」
そう言ってやると、驚くことに《雷光》が頭を下げた。
「………頼む」
「断る」
「……どうしてもか?」
『おい今代の。いいのか?』
「あぁ。絶対に嫌だね」
「……そうか。貴様は自分の意見を無理にでも押し通すからな。これ以上はどう言っても仕方ないだろう」
面倒なしがらみなんていらない。何だったらこの二つ名だって返してもいい。元々求めて手に入れたものじゃないし。
「では私は今度こそ寝よう。明け方に代わるから、それまで頼んだぞ」
だけど。
「まぁ待て」
「……?」
人との繋がりってのはどうしても必要なもので、この二つ名ってのもなってみれば案外心地いいものだ。
「お前が頭を下げるぐらいには切羽詰まった状況なんだろう?話ぐらいは聞いてやる。確か待て、丁度アレがあったか?」
「何の話だ?」
ちょい待ってろ、と言って手を髪の中に突っ込む。えーっと、感触的に…これ、じゃないし…あった。
「ほい」
「ほい、って貴様…」
《雷光》の顔が僅かに渋くなる。それもそのはず。俺が取り出したのはコルクで封をされた小さめのボトル。ちょうどワインボトルより一回り小さいぐらいの大きさの奴だ。ちなみにラベルとかはない。それでも《雷光》はそれが何かすぐにわかったようだ。
「もしかして酒か?」
「もしかしなくても酒だ」
コルク抜きは無いが仕方ない、上手いこと髪を使って…よっと。
抜けた瞬間、その場に広がる葡萄と僅かなアルコールの香り。
『なんでこんなの持ってんだよ』
「いや何、モーリスさん…って言っても分からんか。アーネん家の執事さんが『行きの馬車の中でお楽しみください』って渡してくれたんだが、どうしようもなくってな」
誰かにそう言える様なことでもないので、そっと髪の中に入れていたのだ。
だって行きの馬車ん中じゃアーネも寝てたし。俺一人で空けるのもなんかなぁ…そもそも俺はあまり酒が好きじゃないんだよ。耐性は人並みにはあるが。
「…話を聞く限り、それは下の彼女と飲むべきではないのか?」
「知るか。寝てる方が悪い。つか、今はアンタの気持ちを軽くする方が優先だ」
ガラス製のグラスのような小洒落た物は無いが、粗雑な作りの木製コップ程度ならある。こちらも髪から取り出し、そこになみなみと酒をついで《雷光》に渡す。
「飲んで吐け。話はそれからだ」
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