大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

月と屋根

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と言うわけで、アーネにも言ってもらって、なんとか信じてもらえた。
とは言え。
「流石に半覚醒状態の休息だけではなく、ちゃんとした休息も必要だろう。大した時間は無いだろうが、明け方に私が起きたら代わるからな」
有無を言わせない《雷光》の言葉に、思わず「あ、はい」と答えてしまった。
さて、そんな訳で夜九時頃。少しばかり早いが、夜の道先を照らしていたアーネが「夜更かしと疲労とストレスは美容の敵ですの」とかなんとか言って寝てしまったため、今日の進行はここまで。
まぁ、緋眼があるから俺は大丈夫だし、魔獣であるスレイプニルもかなり夜目が効くようだが、他の二人も寝てしまっている以上、安眠を邪魔するのは良くないだろ。
自分で言うのもなんだが、素人の運転はかなり揺れる。乗ってるだけでどっと疲れる程度には。
馬の留め具を外し、夜の荒野にスレイプニルを放つ。大丈夫かって?馬だってずっと繋ぎっぱなしだと不味いだろ。きっと戻ってくると、あいつらを(恐らく)調教したであろうクードラル先生を信じよう。
「……くぁ。さて、そろそろ俺も寝ようかね」
馬車の屋根の上、一人あぐらをかいて欠伸を一つ。
特別やることもないし、慣れない馬車の運転で精神もそれなりに疲弊してる。みんなが寝静まってから少し剣を振って身体を慣らしもした。身体が火照っているが、見張りもしたがら寝るにはまぁ丁度いいか。シャルと話しておく事もないし…さて、寝るか。
銀剣を抜き、何気なくそのままゴロリと寝転がると、空には無数の星々と半月より少し膨らんだ月が一つ。
「………なるほど?確かに目に見えなくもないな」
ぼんやりと眺めるその月は、まるでトカゲのような細めた眼球に見えなくもない。
『シエルの話か?』
よく覚えてたな。去年の夏、ゼランバでの一件でシエルがやたらと怖がっていた話だ。
結局、あの話は未だによく分かっていない。とりあえず夜の外出は出来るだけ控えてもらっているが、彼女はあまり喋らない上、聞こうとしても口を噤んで話そうとしない。話を本人から聞けない以上それ以外どうしようもない。近いうちにどうにかしてやりたいんだがなぁ……
『それをシエルが望んでいるのかどうかだなぁ……』
そりゃ望んでるだろ。あの怯えようは異常だったし。
『さぁどうやら。お前は何も知らないし、俺も何も知らない。知ってるのはシエルだが、喋ろうとしないから本当にお前の助けを望んでいるのか望んでいないのかも分からん』
なんじゃそりゃ。訳が分からん。じゃあ黙ってろよ。
とりあえず、また今度話してみるか。つってもあの子が学校に来るのは一週間ぐらい後になるか。
「んんーっ、ん」
背伸びで背中からゴキゴキと音が鳴る。ずっと同じ体勢でいたから身体のあちこちがそんな感じだ。
もう一度欠伸をしてから目を閉じる。
大したことの無いヤツなら身体が勝手に反応して倒すし、不味いヤツはその殺気で身体が起きる。
だから。
「寝てる俺にこっそり近づこうなんてのが一番危ないんだぜ」
目は閉じたまま。ただし銀剣は絶対に手放さない。
タイミングが良かったのか狙っていたのか、はたまたその他の要因か。
俺が背中を鳴らしたタイミングで馬車の戸が開いた。
普通なら自分の音で聞こえなかっただろうが、生憎様。俺は耳がいいんだ。
「………。」
「隠れてないで出てこいよ。俺もなんだかんだ疲れてんだ」
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