大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

集合地点と迎え

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そんで翌日。朝五時ぐらい。
起こしてくれと言っていたアーネを起こし、昨日のうちに用意していた荷物を馬車に積んでゼランバを出る。
「………んぅ……んゃ…」
『寝てやがるよアーネ』
寝かしといてやれ。こいつ朝に弱いんだから。
『確かにいつまでも寝ていたくなる気持ちは分からんでもないが』
俺は起きようと思えばすぐ起きられるからな。惰眠を貪るのは時間の無駄に思えてどうも好かん。
『一度完徹してからベッドに潜ってみろ。二度と出たくなくなるぞ』
完徹自体はよくやったよ。森の頃にな。
同居人がいつまで経っても起きて来ねぇから、俺一人で早起きして人形と一緒に魔獣を倒してたけどな。
『………悪かった』
今更だ。気にもしないさ。
欠伸をひとつして、まだ変化がある外の景色に目をやる。
アーネの家から出してもらっているこの馬車だが、今回は王都まで送ってもらう手筈になっている。
と言うのも、そこまで来れば聖学側が何やら乗り物を用意してくれているらしく、それに乗ってくれば今日の夕方には聖学に着くらしい。どんな速度で移動することになるのやら。
「もうしばらくで王都に着きますが……」
御者の人にそう言われたのは馬車に乗って大体一時間半ぐらいか。かなり飛ばしてくれたらしい。朝早くで道が空いていたこともあったのだろうが。
「わかった、アーネ起こしとく」
ちょっとここでは言えないような、少々強引な起こし方でアーネを起こし、寝ぼける彼女の代わりに荷物を全部持つ。髪で。
「おら、いい加減シャキシャキ歩け。みっともねぇぞ」
「わかりむしたのぉ…」
ダメだ、昨日よっぽど眠れなかったのか?いつもより反応と言うか寝起きと言うかが酷い。
『いっそこいつも髪で縛って運んだらどうだ?』
流石にその絵面は不味い。見てる目もあるしな。
それに指定された場所にはもうすぐ着くんだが……
『指定された場所って何処だ?』
前に西学の奴らと戦った広場。なんだが……
『これか。封鎖されてるな』
看板には「開園時刻、九時から二十四時まで」と書いてある。
で、ここから見える広場の時計の針は七時十五分を指し示している。
『来るの早すぎたか?』
いやぁ?でも指定された時間は八時頃だったはず。どの道おかしくないか?
『そうだっけ?と言うか、どっちにしろ早すぎたじゃねぇか』
思った以上に道が空いてたからな。逆よりかはいいだろ。
『どの道待ちだ、しばらくその辺で時間潰してこいよ。飯とかもまだだろ?』
そうだな、手持ちはまぁまぁあるし、どっかそこら辺で朝飯でも──
「ん?」
今なにか音が。
「……あのぅ…もしかして聖学の生徒さんですか?お手伝いの…」
バッ!と振り返ってみても声の主はいない。
「あ、あの、こっちですぅ!」
即座に声がした上の方へ向くと、そこには腰のあたりから蝙蝠のような翼を生やした女性が羽ばたきもせず、そこに浮いていた。
「………おたく誰よ」
真っ黒で長い髪に真っ黒な眼鏡。大きく盛り上がった胸部と臀部を更に強調しているようなピッタリとした衣服で首からつま先まで覆っている。
んー、こんな奴聖学にいたっけ?覚えがないな…
「あ、初めまして。私、今年から聖学で働くことになりましたトゥーラ・ラドゥです。あなたは…」
「あん?今年から?そうか。俺はレィア・シィル。これはアーネ・ケイナズだ」
「…えっと、《緋眼騎士》さんですか?」
「そう言う名前もあるにはあるな。証拠…ってーと…あぁ、ほれ学生証」
懐から髪で取り出したそれをトゥーラと名乗った彼女に渡す。
「…本当ですね。それでは少し早いですけど、レィアさんを送り………もしかしてアーネさんも一緒に?」
「出来たらお願いしたいな。と言うか、無理なら俺も断る」
ふにゃん、と目尻が下がり、どうしたものかと思案するトゥーラ。え、出来ないの?
「わかりました、それじゃあ頑張ってみます」
と、言うやいなや、彼女の顔に鱗のような模様が広がり、身体が肥大化を始める。
「お、おおっ?こいつってもしかして」
『ラドゥとか言ってたな。ふん?しかし……もしかして龍人種ドラゴニアンか?』
変異が終わったらしい。空にいたのは蛇のような何か。
いや違う、訂正だ。おいおいおいおい、嘘だろ?
竜種ドラゴンじゃなくて…」
龍種ドラゴンか…とんでもねぇ』
『早く乗ってくださーい』
どこか気の抜けたそんな声に急かされ、俺達は恐る恐る背に乗る。
『乗りましたかー?ちょっと待ってください、いま座席を──』
にゅっ、と鱗が一つ起き上がり、座椅子のような形になる。
『うーん、うーん!』
もうひとつ起き上がろうとピクピクしているが、どうしても起き上がらないらしい。
「いいよ先生、そこらにしがみつくから」
『ふぇ?』
アーネを座席に軽く縛り付け、ほかの髪で鱗の隙間に髪を忍ばせる。
『あっちょっ、くすぐったいです、あはははっははっ、はははははははっ!』
「騒ぐな。あんた今デカいんだから煩いんだよ」
『う、申し訳ないです…』
しゅんとした彼女が静かになる。
「行けるようになったらすぐ行っていいぞ。俺は準備いいからなぁ──っ!?」
轟ッ!!ととんでもない初速で飛び出した龍。
視界は次々と切り替わり、音は風の騒音だけ。
『すーぐ着きますからねー』
頼む、すぐに着いてくれ。
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