大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
1,101 / 2,022
本編

治療と後悔

しおりを挟む
「悪いユーリア。微妙にトドメ刺しきれなかった」
「何、構わんさ。と言うか、これでも充分すぎる。助かったよレィア」
折れた大木の前に棒立ちの彼女。紫の髪を風に靡かせ、二人とも揃って疲労の濃いため息をつく。
「すぐにサポートしてくれて助かった。お前がいなかったらどうなって事やら」
多分、シャルが道中で気づいた相手ってのがユーリアだろう。森の中では俺の探索能力よりユーリアの潜伏能力の方が上という事か。
そして隙を見計らって、スキルで自身を海魔に認識されないようにして、サポートとトドメをしてくれた訳だ。
「全く、とんでもない相手だったな。レィアは魔獣とよく戦っていると聞いたが、それでもここまで手こずるものだったか?この海魔は」
「特長もなにも知らん相手にはこんなモンだよ。それより、動けるようになったらシエルとデューラを治療してやってくれ」
「自分はしなくていいのか?」
穴の空いた手足からは未だに血は止まっていない。いや、カサブタになったり、一度傷口が凍って止まったのだが、身体が解凍された時に一緒に溶けた。激しく動いたり血を巡らせた結果、カサブタはとうに割れ、前より気持ち強い勢いで血が流れている。
「俺は後回しでいい。余力があればな」
ユーリアならどうせ大して回復しない。せいぜいが腕一本分の穴がカサブタになる程度だ。
……別に悪く言っている訳ではなく、純粋にどこぞのバ火力娘の方が頭おかしいって話な。俺に魔法で影響を与えられるヒトってアーネと聖女サマぐらいのモンだ。
「デューラの方がヤバいからそっちから頼む。シエルは──」
生命力を見てみるが、大して減った感じはしないな。大丈夫そうだ。
「──後から診てやってくれ」
「そうか、なら先にデューラからだな。彼とシエルには感謝してもしたりない」
ユーリアはスキルの反動がようやく解けたのか、ふらふらとやや不安になる歩みでデューラへと向かう。
『今代の、お前は大丈夫か?』
いや全く?一応血管とか皮膚をシメて、これ以上の流血は抑えてるが…あーダメだ、勝手に瞼が落ちてくる。眠い。意識飛びそう。今、白目剥いてるかもしんねぇ。
景色がボヤける。あ、違う。これは正しいんだ。海魔より手強い睡魔に襲われつつ、どうにか思考を纏める。
幻術が解け始めてるのか。余程強力なものだったらしい。死んだ後も暫く残る程とは。
焼け落ちた森は消え、代わりに現れるのは燃えた残骸のような何か。
大きさと形からして……家か。
「……いくら現実に近い嘘とは言え、実際にあった炎を無かったことまでには出来ないか」
『当たり前だ馬鹿。言っただろうが』
中に人はいなかっただろうか。大切な物は無かっただろうか。こんな事をして良かったのだろうか。今更後悔がじわじわと胸の底から染み出してくる。
もっと上手い方法はあっただろう。そもそも最初の奇襲の時点でヘマをしなければ。
『後悔もあやまちも、どっちも過ぎてから気づくモンだ。たとえその時最良に思えても、後からそう思える。だからこう言うのはタチが悪い何より、いつまでも残る癖に解決策は無いことだ。胸糞悪い』
顔が見えていれば思いっきり顔を顰めていたような苦々しい声が聞こえる。シャルにも思い当たる節があるのだろうか。
────あぁ糞、今一瞬意識飛んでた。ダメだこれ。限界だわ。
ユーリアがシエルの方へ向かったのを見届けてから、まだ何か後悔について言っているシャルを無視して寝た。
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...