シークレットベイビー~エルフとダークエルフの狭間の子~【完結】

白滝春菊

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反抗期編

悪い夢

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 最後に夕食をご馳走になると、楽しく会話をしながら食事を終えた。
 そして礼を言ってから自宅まで馬車で送ってもらい、無事に帰宅することができた。なんだかここまで世話になって申し訳ない気持ちになる。今度入浴剤とは違った何かしらのお返しをしようと心に決めた。

「おじさん、元気にしてた?」

 寝る準備をしながらステラが尋ねると、アステルは優しく微笑んだ。

「うん、ステラによろしくって」
「そうなの」

 シリウスを避けているとはいえ、数日も姿を見かけなくなると流石のステラも心配をしてくれたようだ。少しずつ仲良くなれたらいいと思う。入浴を済ませると二人はベッドに入り、眠りについた。

 ◆

『お父さん、どこに行くの?』
『……ごめん、新しい家族が待っているんだ』
『待ってお父さん!お母さん泣いているよ!お父さん!お父さん!』

「……!」

 アステルが目覚めるとそこは見慣れた天井だった。夢を見ていたということに気が付き、胸が締め付けられるような感覚に襲われる。
 大きな荷物を持った父が家を出ていく光景をぼんやりと思い出していた。どうしてあんな悲しい夢を見たのかわからない。けれど心の中で苦しい感情だけが渦巻いている。

 冷や汗を拭い、深呼吸をして心を落ち着かせると隣で眠るステラの頭を撫でた。
 彼女はまだ眠っている。その様子にほっと安堵の息を漏らすと、起こさないようにそっとベッドから抜け出して部屋を後にした。


 静かな廊下を歩き、リビングに入るとそこには誰もいなかった。外ではフクロウのヴァンの鳴き声が聞こえてくる。
 窓辺に立ち、カーテンを開けると月明かりに照らされた庭が見える。今日も満天の星空が広がっているのだろう。きっと星祭りの日には綺麗に光り輝くに違いない。

 アステルは椅子に腰掛けると、真っ白な便箋にペンを走らせて手紙を書いた。そして封をすると、宛名を書いてから蝋燭で印を押す。送り先は書いていない。
 これはエルフの集落で帰ることのないアステルを待つ父に送る手紙だ。年に一度の頻度で噓の状況報告の手紙を彼に出している。今回は寒い地方で母を探していると書いた。100年後ぐらいにはこの噓に気がつくかもしれない。

 それから暫くの間、一人でぼんやりと蠟燭の火を見つめて考え事をしていると玄関の扉を開く音が響き、アステルが期待をしながら玄関に向かうと、そこにはシリウスが立っていた。
 しばらくは帰って来れないと聞いていたので、驚いていると彼は照れくさそうにしている。

「シリウス……急にどうしたの?」
「……少しだけ時間ができたから帰ってきた。昼に会ったらアステルが恋しくなって……ステラは?」
「もう寝ちゃった」
「そうか」

 帰ってきてくれたことが嬉しくて、アステルはシリウスに抱きついた。すると彼もそれに応え抱きしめてくれる。しばらくそうしていると、どちらからともなく唇を重ねた。昼間にもしたのにその口付けは温かく心地が良い。

「お茶でも飲む?」
「ああ」

 キッチンに向かい、二人分の紅茶を入れるとテーブルに置いて向かい合う形で座る。シリウスはカップを手に取り、一口飲んでからアステルを見つめて何かを考えているようだった。

「もうすぐステラの誕生日だな」
「そうね」
「プレゼントは何をあげればいいのかわからないんだ」

 シリウスは日頃からステラに色んな物を買ってあげているが、与えすぎたせいで今度は誕生日に何を贈れば喜んでくれるのか悩んでいた。今までの人生を考えると贅沢な悩みである。

「シリウスが選んだものなら何でも喜ぶわ」
「……ステラの一番欲しいものを渡したい」
「うふふ、頑張っているね。お父さん」

 彼は父親になろうと一生懸命なのだ。そんな姿を見ると無性に愛おしくなる。それからステラの誕生日や星祭りについて二人で話し合っていると、あっという間に時間が過ぎていった。

「そろそろ寝る?」
「そうだな、こんな遅くまで話に付き合わせて悪かった」
「ううん、私も話したかったし、楽しかったから」

 アステルはそう言うと、立ち上がってステラの部屋へと戻っていった。

 久しぶりにシリウスが家に帰ってきてくれるとやはり安心する。明日の朝食は何を作ろうかと考えながらステラの部屋の扉を開けようとすると手が止まった。
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