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34.変な気遣い
しおりを挟むある街娘が両親をなくした。弟と自分の生活を守るために必死に働く少女。
その姿を伯爵家の奥様に認められ伯爵家でメイドをすることを許された。そこで出会ったのは自分よりも3つ年下の伯爵令息。
歳の近い少女たちは令息の遊び相手として任命され、合間にはできるだけの護身術を学び、同時にそばにいておかしくないほどのマナーを身に付けた。
幼い頃から共に学び、共に育った令息とメイドが惹かれ合うのは仕方のないことだった。
しかしそれを知った伯爵令息へ想いを寄せる伯爵令嬢は、見えないところで少女をいじめた。
自分が伯爵家の嫁になるときに少女の存在が邪魔だから出て行くようにと命令された。出ていくならば弟の面倒は見てやるが、出て行かなければ弟が学校に行けないように手を回すと言われ少女は家を出ることにした。
家をでた少女だったが、急に姿を消した少女を伯爵令息は必死に探した。
そして少女が身を売ろうとしているところをようやく見つけたのだ。
令息は少女を連れ帰り、少女との結婚を親へ報告した。
怒り狂った伯爵令嬢が何度も何度も2人の邪魔をしてきたが、令息は決して少女の手を離さなかった。
葛藤を重ね、何度も令息の結婚の申し込みに首を横に振った少女だったが、ようやく。ようやく首を縦に振った時には思わず泣いてしまった。
隣ではなぜか舞台ではなく、涙を流す私の姿を見ている男の姿が見える。
きっと劇場を出ると馬鹿にされるに決まっている。
あんな絵空事で泣くなんてと。
それでも涙を止められなかった。
拍手喝采の中、演者たちがはけていき、観客たちも退場する。
私たちも外にでようと立ち上がると、当たり前のように手をつながれ、進み始める。
そして着いた先はここも最近話題のカフェだった。
この国ではコーヒーが主流の中、紅茶に重きを置いたカフェ。
紅茶も自分の好みで味が選べると言うことで最近話題なのだ。
私も楽しみにしていた場所だから嬉しい。
二人ともそれぞれに頼んだものが席に準備され、飲み始めると男が小さな声で口を開いた。
「その……すまなかった」
「なんのこと?」
急に謝り始める男。でも何のことか心当たりがない。
今日だけのことを言うならば、強引であることを除いて、とても紳士的なふるまいをしているし、連れてきてくれた場所も嬉しい場所。
嫌味の一言も言ってこないことが逆になんだか気まずいくらい。
「あの劇……人気だと言うから言ったんだが、………あんな愛だのなんだのじゃない方がよかったんじゃないかと………
あの男を思い出して泣いたんじゃ………」
思いもかけない一言に唖然としてしまう。
そして、その言葉が頭にストンと落ちてきたとき、思わず笑ってしまった。
「ふっ!ふふふっ。
やだっ、ばかじゃない。
そんなこと気にしてずっと黙ってたの?
あの劇の中であの男のことなんて一度も思い出してないわ。
私ね、心の底からあんな男と離縁できたことを喜んでるのよ。
ふふっ、ふっ、、でも心配してくれたのよね、ありがとう」
ずっと嫌味しか言ってこなかった男が今日は一度も嫌味を向けてこない。
それはずっと私を気遣ってのことだったのだ。
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