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19.なりきり館
しおりを挟むリボンを見下ろす目は冷たくリボンを突きさすように見つめている。
そこにはリボンのことを姫の様に敬い、大切に愛してくれる男の気配はなかった。
「ちょ、ちょっと離しなさいよ、ここはルドファ様の家で、私は彼の女なのよ。こんなことをして許されると思っているの?ラミー!!ラミー!!お客様がお帰りよ、今すぐ来て!!!」
大きな声を出してラミーを呼ぶのに、ラミーどころか誰一人として様子を見に来ない。
「どうして?」
リボンはどうして誰も来ないのか、その疑問と、誰も来ないこの空間に自分と暴力男しかいないことに気付き、ガタガタと身体が震えてくる。
「ははっ!
本当に頭が弱い女だな。
それじゃあ優しく教えてやるよ。
ここは”なりきり館” そう呼ばれているんだ。
要するに誰かになりきってそのプレイを楽しむそのための遊び場だよ。
君はそこに貴族になりきるための要因として連れてこられただけ。ルドファの女でもなんでもないんだよ」
そんなことをいうグラファイの顔を言葉もなくただ顔を見つめてしまう。
なに?
なにを言っているの?
この男は頭がイカれてるんじゃないか。
だってルドファが自分のことを気に入ってこの館に住まわせたのだ。
それなのにどうしてそんな変な遊び場になるのか。
頭の中ではぐるぐると言葉が飛び交うのに、心臓は嫌に大きな音を立て、口を開くことができない。
それなのに頭の中を読んだかのようにグラファイが話しを続ける。
「はっ!現実を突きつけてもこれとは本当に愚かで滑稽な娘だ。
お前のような頭が悪いものでもわかるように教えてやろう。きみは町の食事処でルドファと初めて会ったのだろう。そしてその時一緒に別な男もいた。
そしてその男がトイレに立った時、君とルドファは一緒に店を出てきた。
自分からその男の元を離れ、自分で選んだかのように思っていたのだろう?
多分自分の人生は自分で切り開いたなんて愚かなことでも考えていたのだろうよ。
だがそれらは全て仕組まれたことなんだよ。
きみが置き去りにしたその男は、きみを売った報酬に金をもらったのだから。
君がルドファと一緒にその店を出たのは元々決められていたシナリオなんだよ」
そう、あの日リボンは自分の意思でルドファについて行ったつもりだった。
カダールから逃げるようにしてその場を離れ、幸せになるためにルドファに着いていったはずだった。
しかし実際は、カダールに見透かされていたのだ。こうなってしまえばきっとリボンは、自分ではなく他の男を選ぶだろうと。
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