59 / 189
第7章『人形』
10話
しおりを挟む
森から村までは歩いて15分くらい掛かるのだが、思った通りユキノの家も今タクヤ達が泊っている宿屋がある村の中にあった。
ユキノの家へ向かう前に、ふたりは先に宿屋へと向かっていた。タクミの怪我の状態を見る為にユキノの家へと行くつもりであったが、帰りがいつになるか分からない。ただでさえ思った以上に時間が掛かってしまい、イズミが心配しているかもしれない、と思ったからであった。ただ、恐らくイズミは心配、というよりも帰りが遅いことを怒っている可能性は高いのだが、なんにせよ、報告をしなければならないとタクヤは考えていたのだった。
「あ、見えたっ。はあぁぁ……疲れたぁ……。ユキノちゃん、あそこだよ」
宿屋が見えてくると、一気に疲れを感じてタクヤは大きく溜め息をついていた。そして、ユキノに向かって宿屋を指差しながら話し掛ける。
「あそこから私の家まではすぐですよ。この村自体、そんなに大きくはないんですけど……。もう少し先に小さい川があるんですが、その川を渡ってすぐの所に私達の家があるんです。両親が残してくれた、小さな家なんですけど」
タクヤを見上げながら、ユキノは柔らかく微笑む。
「そっか。ユキノちゃんは弟君とふたりだけなんだよね……大変だよね」
話を聞きながら、タクヤは自分の生まれた村のことを思い出していた。そして両親のことも。自分も両親を亡くしていた為、なんとなくユキノ達のことを他人事には思えないと感じていた。
「そうですね……。でも、タクミが私の為に凄く一生懸命で。いっぱい働いていて……今回怪我したのも仕事が原因なんです。でもあの子、自分の怪我のことよりも働けないことを凄く気に病んでしまっていて……。酷い怪我なのに、無理にでも仕事に行こうとするんです。だから私、あの子の為に何かできないかって……。早くあの子の怪我を治してやりたい」
タクヤの言葉でふとユキノの表情に翳りが見られた。タクヤから目を逸らし、話しながらそのまま俯いてしまった。
「そうだったんだ……」
悲しそうな表情のユキノをじっと見下ろしながら、それであんなに必死に、危険だと分かっていて森で薬草を探そうとしていたのか、とタクヤは漸く理解できたのだった。しかしふと、話を聞きながら疑問が生じ、ユキノに尋ねる。
「あのさ、弟君っていくつ?」
「え……あの、もうすぐ18になります」
突然のタクヤの問い掛けに一瞬驚いた表情をしたユキノは、慌てて顔を上げるとじっとタクヤを見上げながら答える。
「ええっ!? じゃあ、ユキノちゃんはいくつなんだ?」
思いもよらない答えにタクヤは驚いて声を上げる。そして思わずその場に立ち止まってしまった。
先程生じた疑問、タクミが仕事をしているといった話で、一体いくつで仕事をしているんだ? と思っていたのだった。子供が仕事をするなんて、と。
「え……あ、あの二十歳です……」
一緒に立ち止まったユキノは、驚いた表情で自分のことをまじまじと見つめているタクヤに緊張しながら、ぼそりと答える。
「ええっ!! はたち~? 俺より年上なんじゃんっ! あ、『ユキノちゃん』なんて失礼だったね、ごめん。俺はてっきり年下なのかと思ってたよ。もう、ユキノさんってば腰低すぎ」
まさかの回答にタクヤは目を大きくさせながらぱちぱちと瞬きする。
ユキノの見た目と態度で勝手に年下と勘違いしていたのだ。その為、弟のタクミも12、3歳くらいだと思っていた。
「はぁ……そうですか? でも、タクヤさん、しっかりされてるから私も年上の方なのかと思っていました……。勇者だと言われていましたし……」
「ははっ。俺いっつも若く見られるんだけどね。まぁ、勇者っていうとだいたい20は超えてるもんね、普通は。あ、ちなみに俺は19ね」
困った顔で見上げるユキノにタクヤは苦笑いしながら頭を掻く。そして話しながら再び歩き出した。
それに合わせてユキノも慌てて歩き出す。
「そうなんですか……。あの、タクヤさんの妹さんは? おいくつなんですか?」
「あー、えっと、ミユキは今年で15歳かな?」
じっと自分を見上げながら話すユキノに、タクヤは指を折りながら考え、そして嬉しそうに答える。今までずっと妹の話は誰にもしたことがなかった為、こんな風に誰かと話ができることがなんだか嬉しかった。
微笑するタクヤを見上げながらユキノがふと尋ねる。
「会いたいですか?」
「うん、会いたい。……でも、ミユキに会うのは全てが終わってからって決めてるから。俺にはやることがいっぱいあるし。……俺、あいつの顔見るまでは絶対に死なない。親が死んで、師匠がいなくなって、俺、ひとりぼっちになっちゃって、すっげぇ寂しかった。何度も自棄になって、全て投げ出したくなったりしたけど、俺には目的があったから。負けるわけにはいかないんだ。……実は俺、ミユキに合わせる顔がなくて、全て終わったら死のうとか考えてた……。でも、あいつの肉親はもう俺しかいないんだよな。……なんかさぁ、旅してて、いろんな人と関わって、その中には家族皆揃っている人ってあんまりいなかったりして……。でも、皆、助け合って、強く生きてる。俺はあいつが幸せならそれでいいって思ってたけど、家族がいるってことはすごく大事なことなんだよね」
ユキノからの問いに、タクヤは今までのことを思い出しながら答える。村のこと、そして師匠のことを思い出し、悲しい気持ちになっていた。そして真剣な表情をしながらも泣きそうな顔になっていた。タクヤ自身は気が付いてはいなかったのだが。
「……私は、あなたに何があったのか知らないけど、妹さん、きっとあなたにとても会いたがってると思います。あなたが妹さんの幸せを願うように、妹さんもあなたの幸せを願っていると思います」
静かにタクヤの話を聞いていたユキノは、じっとタクヤを見つめ、穏やかな表情でそう話した。
「そっか……そうだよな。頑張らなきゃな。へへっ。ユキノさん、ありがと。なんかユキノさんと話してるとホッとする。何でだろう……。あ、そっか。ユキノさん、俺の母さんに雰囲気が似てるんだ」
再び元気を取り戻したタクヤは嬉しそうに笑う。そして、ユキノを見下ろしながらふと自分の母親のことを思い出していたのだった。
「そうなんですか? なんか嬉しいです。私の目標は私のお母さんなんです。とっても優しくて、そして強い女性でした。私もあんな風になりたい。『母は強し』って言いますもんね」
そしてユキノも嬉しそうに笑う。
「あははっ、そうだよね。俺の母さんもそうだったからなぁ……。おっ、着いた着いた。ここだよ」
笑いながらタクヤも答える。すると、いつの間にか宿屋の前まで来ていたことに気が付き立ち止まると、ユキノを見下ろし宿屋を指差した。
「……あの、本当に宜しいんですか?」
一緒に立ち止まると、ユキノは心配そうな表情でじっとタクヤを見上げた。
「なぁーに今更言ってんの。平気だって。行こ」
へらっと笑うとタクヤはそう言って宿屋の中へと入っていった。
慌ててユキノも後を追う。
☆☆☆
「イズミー? いるー?」
部屋のドアを開けるなり、タクヤは大声でイズミの名を呼んだ。待っててくれているとは信じているが、もしかしたらいないかも……と、なんとなく不安から声が大きくなってしまっていた。
「うるせぇな。大声で呼ぶな。こんな小さい部屋で」
しかしすぐに不機嫌に答えるイズミの声が聞こえた。ちゃんと待っててくれていたのだ。
「おっ、いたいた。何? また何か読んでんの?」
イズミはソファーに腰掛け眼鏡を掛けて何か本を読んでいた。恐らく一度読んでしまった本を再度読み直しているのだろう。そんなこととは露知らず、タクヤは嬉しそうに声を掛けたのだった。
「うるせぇな。ほっとけ。……それよりさっさとドアを閉めろっ」
タクヤが帰ってきたことに少しだけホッとしつつも、イズミはタクヤを見ることなく不機嫌に答えたのだった。
「あ……ごめん。……ユキノさん、入って」
イズミがいたことが嬉しくて、思わずユキノのことをすっかり忘れてしまっていたタクヤであったが、ドアのことを言われ思い出す。そして後ろを振り返ると、ユキノに入るように促したのだった。
「失礼します」
そう言ってユキノは恐る恐る部屋の中へと入った。それを確認してすぐにタクヤがドアを閉める。
「……何だそれは……」
ふと顔を上げ、イズミは本を閉じると、何とも嫌そうな顔でタクヤを睨み付ける。
「えっとね、この人はユキノさん。森の中で会ったんだ」
タクヤはイズミに睨まれ、少しだけ狼狽えながら答える。なんとなく目が泳いでしまう。
「ふーん。で? なんでここに連れて来たんだ?」
眼鏡を外すとイズミは更にタクヤを睨み付けるようにじっと見る。
「え? えっとぉ……それは……」
「あの……大丈夫ですか?」
なんと答えたらいいのか考え込んでいるタクヤをユキノは心配そうに見上げている。
(どうせ本当のこと言ったら、また反対されんのがオチだよなぁ……どうしようか……)
ユキノの問い掛けに答えることなく、タクヤは天井を仰ぎ、何とかイズミの了解を得られそうな答えはないかと頭を悩ませていた。
「何だ? 言い訳もないのか?」
「あっ! そうっ! そうそうっ、俺ね、今からユキノさんとデートだからっ。帰り遅くなるかもしれないからってことを言いに来たんだった。アハッ、俺ってばボケボケ。やだなぁー、何でだったっけーとか考えちゃったよ。ということで、もう一度出かけるからっ。あっ、もしかしたら帰り、明日の朝になっちゃうかもしんないから、先に寝てていいからなっ! じゃあ、戸締りちゃんとしとけよーっ。んじゃ行ってきまぁーっす」
イズミに疑わしそうに見られ、タクヤはとにかく何でもいいやとばかりに思い付いたことを勢いよく話すと、おろおろとしているユキノの手を取り急いで出て行ってしまった。
「でぇと?」
部屋に残されたイズミはツッコむ間もなくタクヤが出て行ってしまったので、そのままぼんやりとしていたのだが、ぼそりと呟き、そしてなんとも複雑な表情をしていたのだった。
ユキノの家へ向かう前に、ふたりは先に宿屋へと向かっていた。タクミの怪我の状態を見る為にユキノの家へと行くつもりであったが、帰りがいつになるか分からない。ただでさえ思った以上に時間が掛かってしまい、イズミが心配しているかもしれない、と思ったからであった。ただ、恐らくイズミは心配、というよりも帰りが遅いことを怒っている可能性は高いのだが、なんにせよ、報告をしなければならないとタクヤは考えていたのだった。
「あ、見えたっ。はあぁぁ……疲れたぁ……。ユキノちゃん、あそこだよ」
宿屋が見えてくると、一気に疲れを感じてタクヤは大きく溜め息をついていた。そして、ユキノに向かって宿屋を指差しながら話し掛ける。
「あそこから私の家まではすぐですよ。この村自体、そんなに大きくはないんですけど……。もう少し先に小さい川があるんですが、その川を渡ってすぐの所に私達の家があるんです。両親が残してくれた、小さな家なんですけど」
タクヤを見上げながら、ユキノは柔らかく微笑む。
「そっか。ユキノちゃんは弟君とふたりだけなんだよね……大変だよね」
話を聞きながら、タクヤは自分の生まれた村のことを思い出していた。そして両親のことも。自分も両親を亡くしていた為、なんとなくユキノ達のことを他人事には思えないと感じていた。
「そうですね……。でも、タクミが私の為に凄く一生懸命で。いっぱい働いていて……今回怪我したのも仕事が原因なんです。でもあの子、自分の怪我のことよりも働けないことを凄く気に病んでしまっていて……。酷い怪我なのに、無理にでも仕事に行こうとするんです。だから私、あの子の為に何かできないかって……。早くあの子の怪我を治してやりたい」
タクヤの言葉でふとユキノの表情に翳りが見られた。タクヤから目を逸らし、話しながらそのまま俯いてしまった。
「そうだったんだ……」
悲しそうな表情のユキノをじっと見下ろしながら、それであんなに必死に、危険だと分かっていて森で薬草を探そうとしていたのか、とタクヤは漸く理解できたのだった。しかしふと、話を聞きながら疑問が生じ、ユキノに尋ねる。
「あのさ、弟君っていくつ?」
「え……あの、もうすぐ18になります」
突然のタクヤの問い掛けに一瞬驚いた表情をしたユキノは、慌てて顔を上げるとじっとタクヤを見上げながら答える。
「ええっ!? じゃあ、ユキノちゃんはいくつなんだ?」
思いもよらない答えにタクヤは驚いて声を上げる。そして思わずその場に立ち止まってしまった。
先程生じた疑問、タクミが仕事をしているといった話で、一体いくつで仕事をしているんだ? と思っていたのだった。子供が仕事をするなんて、と。
「え……あ、あの二十歳です……」
一緒に立ち止まったユキノは、驚いた表情で自分のことをまじまじと見つめているタクヤに緊張しながら、ぼそりと答える。
「ええっ!! はたち~? 俺より年上なんじゃんっ! あ、『ユキノちゃん』なんて失礼だったね、ごめん。俺はてっきり年下なのかと思ってたよ。もう、ユキノさんってば腰低すぎ」
まさかの回答にタクヤは目を大きくさせながらぱちぱちと瞬きする。
ユキノの見た目と態度で勝手に年下と勘違いしていたのだ。その為、弟のタクミも12、3歳くらいだと思っていた。
「はぁ……そうですか? でも、タクヤさん、しっかりされてるから私も年上の方なのかと思っていました……。勇者だと言われていましたし……」
「ははっ。俺いっつも若く見られるんだけどね。まぁ、勇者っていうとだいたい20は超えてるもんね、普通は。あ、ちなみに俺は19ね」
困った顔で見上げるユキノにタクヤは苦笑いしながら頭を掻く。そして話しながら再び歩き出した。
それに合わせてユキノも慌てて歩き出す。
「そうなんですか……。あの、タクヤさんの妹さんは? おいくつなんですか?」
「あー、えっと、ミユキは今年で15歳かな?」
じっと自分を見上げながら話すユキノに、タクヤは指を折りながら考え、そして嬉しそうに答える。今までずっと妹の話は誰にもしたことがなかった為、こんな風に誰かと話ができることがなんだか嬉しかった。
微笑するタクヤを見上げながらユキノがふと尋ねる。
「会いたいですか?」
「うん、会いたい。……でも、ミユキに会うのは全てが終わってからって決めてるから。俺にはやることがいっぱいあるし。……俺、あいつの顔見るまでは絶対に死なない。親が死んで、師匠がいなくなって、俺、ひとりぼっちになっちゃって、すっげぇ寂しかった。何度も自棄になって、全て投げ出したくなったりしたけど、俺には目的があったから。負けるわけにはいかないんだ。……実は俺、ミユキに合わせる顔がなくて、全て終わったら死のうとか考えてた……。でも、あいつの肉親はもう俺しかいないんだよな。……なんかさぁ、旅してて、いろんな人と関わって、その中には家族皆揃っている人ってあんまりいなかったりして……。でも、皆、助け合って、強く生きてる。俺はあいつが幸せならそれでいいって思ってたけど、家族がいるってことはすごく大事なことなんだよね」
ユキノからの問いに、タクヤは今までのことを思い出しながら答える。村のこと、そして師匠のことを思い出し、悲しい気持ちになっていた。そして真剣な表情をしながらも泣きそうな顔になっていた。タクヤ自身は気が付いてはいなかったのだが。
「……私は、あなたに何があったのか知らないけど、妹さん、きっとあなたにとても会いたがってると思います。あなたが妹さんの幸せを願うように、妹さんもあなたの幸せを願っていると思います」
静かにタクヤの話を聞いていたユキノは、じっとタクヤを見つめ、穏やかな表情でそう話した。
「そっか……そうだよな。頑張らなきゃな。へへっ。ユキノさん、ありがと。なんかユキノさんと話してるとホッとする。何でだろう……。あ、そっか。ユキノさん、俺の母さんに雰囲気が似てるんだ」
再び元気を取り戻したタクヤは嬉しそうに笑う。そして、ユキノを見下ろしながらふと自分の母親のことを思い出していたのだった。
「そうなんですか? なんか嬉しいです。私の目標は私のお母さんなんです。とっても優しくて、そして強い女性でした。私もあんな風になりたい。『母は強し』って言いますもんね」
そしてユキノも嬉しそうに笑う。
「あははっ、そうだよね。俺の母さんもそうだったからなぁ……。おっ、着いた着いた。ここだよ」
笑いながらタクヤも答える。すると、いつの間にか宿屋の前まで来ていたことに気が付き立ち止まると、ユキノを見下ろし宿屋を指差した。
「……あの、本当に宜しいんですか?」
一緒に立ち止まると、ユキノは心配そうな表情でじっとタクヤを見上げた。
「なぁーに今更言ってんの。平気だって。行こ」
へらっと笑うとタクヤはそう言って宿屋の中へと入っていった。
慌ててユキノも後を追う。
☆☆☆
「イズミー? いるー?」
部屋のドアを開けるなり、タクヤは大声でイズミの名を呼んだ。待っててくれているとは信じているが、もしかしたらいないかも……と、なんとなく不安から声が大きくなってしまっていた。
「うるせぇな。大声で呼ぶな。こんな小さい部屋で」
しかしすぐに不機嫌に答えるイズミの声が聞こえた。ちゃんと待っててくれていたのだ。
「おっ、いたいた。何? また何か読んでんの?」
イズミはソファーに腰掛け眼鏡を掛けて何か本を読んでいた。恐らく一度読んでしまった本を再度読み直しているのだろう。そんなこととは露知らず、タクヤは嬉しそうに声を掛けたのだった。
「うるせぇな。ほっとけ。……それよりさっさとドアを閉めろっ」
タクヤが帰ってきたことに少しだけホッとしつつも、イズミはタクヤを見ることなく不機嫌に答えたのだった。
「あ……ごめん。……ユキノさん、入って」
イズミがいたことが嬉しくて、思わずユキノのことをすっかり忘れてしまっていたタクヤであったが、ドアのことを言われ思い出す。そして後ろを振り返ると、ユキノに入るように促したのだった。
「失礼します」
そう言ってユキノは恐る恐る部屋の中へと入った。それを確認してすぐにタクヤがドアを閉める。
「……何だそれは……」
ふと顔を上げ、イズミは本を閉じると、何とも嫌そうな顔でタクヤを睨み付ける。
「えっとね、この人はユキノさん。森の中で会ったんだ」
タクヤはイズミに睨まれ、少しだけ狼狽えながら答える。なんとなく目が泳いでしまう。
「ふーん。で? なんでここに連れて来たんだ?」
眼鏡を外すとイズミは更にタクヤを睨み付けるようにじっと見る。
「え? えっとぉ……それは……」
「あの……大丈夫ですか?」
なんと答えたらいいのか考え込んでいるタクヤをユキノは心配そうに見上げている。
(どうせ本当のこと言ったら、また反対されんのがオチだよなぁ……どうしようか……)
ユキノの問い掛けに答えることなく、タクヤは天井を仰ぎ、何とかイズミの了解を得られそうな答えはないかと頭を悩ませていた。
「何だ? 言い訳もないのか?」
「あっ! そうっ! そうそうっ、俺ね、今からユキノさんとデートだからっ。帰り遅くなるかもしれないからってことを言いに来たんだった。アハッ、俺ってばボケボケ。やだなぁー、何でだったっけーとか考えちゃったよ。ということで、もう一度出かけるからっ。あっ、もしかしたら帰り、明日の朝になっちゃうかもしんないから、先に寝てていいからなっ! じゃあ、戸締りちゃんとしとけよーっ。んじゃ行ってきまぁーっす」
イズミに疑わしそうに見られ、タクヤはとにかく何でもいいやとばかりに思い付いたことを勢いよく話すと、おろおろとしているユキノの手を取り急いで出て行ってしまった。
「でぇと?」
部屋に残されたイズミはツッコむ間もなくタクヤが出て行ってしまったので、そのままぼんやりとしていたのだが、ぼそりと呟き、そしてなんとも複雑な表情をしていたのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
41
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる