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Black & White『Later story』
~双子と王子と白い犬~
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ワンダーランドから帰った、その週末。
優希は海斗の家へと遊びに来ていた。
いつものように、ふかふかのグレーの絨毯の上に更にふわふわの大きな黒い座布団の上。ここが優希の定位置である。
座布団の上に体育座りをした優希は何やら手紙を広げていた。
「何見てるんだ?」
海斗が後ろから優希を抱き締めるように座ってきた。ぎゅっと腰の辺りを抱き締め、肩に顎を乗せる。
しかし優希は嫌がることなく海斗に答えた。
「アリスからの手紙だよ」
そう言って、見ていた白い便箋を海斗にも見せる。
「ふぅん」
海斗はあまり興味がないようだ。しかし、手紙を見ながら首を傾げる。
「それって読めるのか?」
正直何が書かれているのか全く読めない。その手紙はもちろん日本語ではなく、どこかの外国の文字のような、しかし、この地球上の国の文字ではないような見たこともない文字が書かれている。
「うん、不思議なんだけど、ちゃんと読めるんだ。多分、これのおかげかな?」
そう言って優希は首にかけている『メタトロンの鏡』をくいっと掴んで海斗に見せた。
「なるほど」
ふぅんと頷きながらも海斗は優希の肩から顎を外さずじっと覗き込んでいる。
「じゃあ、読むね」
そう言って優希が手紙の内容を読み始めた。
☆☆☆
『ユウキ、元気ですか? 僕たちはみんな元気だよ』
アリスの手紙は挨拶文から始まっていた。そして、ワンダーランドの住人のその後の報告が書かれていたのだった。
~双子と王子と白い犬の話~
優希と海斗が帰った後の城の前。残されたアリス、ジェイク、エリスは並んで空を見上げていた。
そして、おずおずとエリスが最初に口火を切った。
「あ、アリス。君が無事で良かったよ。あのね……本当にごめんね、俺のせいで……」
じっと目を潤ませながらエリスがアリスを見つめる。
「…………」
アリスはちらりとエリスを見るが返事はない。まだ許せないのだ。いくらワンダーランドが元に戻ったとしても許すことなんてできなかった。
「アリス、もういい加減怒るのやめなよ。エリスだって悪気があったわけじゃないんだし」
なんとかふたりの仲を取り持とうとジェイクがアリスを宥める。
「絶対に、イヤっ」
しかし、ぷいっと横を向いてしまう。
「おやおや、まだ喧嘩しているのですか?」
そこへ、優希と海斗を送り届けたルイが戻ってきた。城の入り口からにこりと笑って3人を見ている。
「喧嘩じゃないっ」
アリスは睨み付けるようにルイを見る。
「やれやれ……アリス、君は誤解をしているんだよ。エリスのこと」
ゆっくりと3人の所まで歩いてくると、溜め息を付きながらルイが話し始めた。
「あの日のことは私にも責任がある。あの隠し部屋を教えたのは私なんだよ。でも、まさかそこに『パンドラの箱』が置かれていたなんて知らなかったんだ。エリスには本当に悪いことをしたと思っている」
「え?」
アリスの顔がぴくりと動く。もう睨み付けてはいない。
「あの箱には魔法が掛けられていたようだけど、私たち王族にはそれが効かないらしくてね。全然気が付かなかった。でも、エリスはその魔法に掛かってしまったんだ。操られていたんだよ、あの黒の魔女に」
「え……」
今度はエリスが驚いた顔でルイを見上げる。
「その後は、皆が知ってる通りではあるんだけど、ひとつだけ。あの時、エリスが何も言わなかったのは、言わなかったんじゃない、言えなかったんだよ。声を出せないように呪いを掛けられていた。そうだよね、エリス?」
そう言ってルイはエリスの方をじっと見下ろした。
エリスは今にも泣き出しそうな顔で俯いている。
「そうなの?」
今度はアリスが問い掛ける。
「……ごめん、本当にごめん……」
エリスはそれだけ話すと泣き出してしまった。
「……エリス、君が私たちを裏切るなんて思っていないよ。だって、君は私のものなのだから」
ルイは泣いているエリスをぎゅっと抱き締め、そしてそっと髪を撫でる。
「えっ? ち、違うよっ!」
泣いていたエリスであったがルイの言葉に驚いて顔を上げ、真っ赤な顔で声を上げる。
そして、ルイは自分の腕の中で、可愛い顔で見上げているエリスを愛しくてたまらない気持ちで見下ろす。
「ふふっ、可愛いね、エリス。まだ気が付いていないのかい? 俺は君を手放すつもりはないよ? やっと取り戻したんだからね」
そう言ってエリスのおでこにそっとキスをする。いつの間にか一人称まで変わっている。
「ちょ、ちょっと待ってっ! だって、ルイはアリスのことが好きなんでしょっ?」
「何言ってるの?」
驚いて声を上げるエリスの言葉に、アリスが不機嫌そうに口を挟んだ。
「え、だって……」
「ルイが僕のことを好きなわけないじゃん。ただの友達だよ。僕にはジェイクがいるし。ルイがエリスのこと大好きなことなんて、誰の目にも明らかでしょ」
言い淀むエリスにアリスは更に不機嫌そうに、そして呆れたように説明する。
「ま、まさかっ!」
「なんでまさかなのかな?」
声を上げるエリスをルイがにこりと笑って見下ろしている。笑っているように見えるが、目が笑っていない。エリスは思わずびくりと体を震わせる。
「エリスにはお仕置きが必要だね。それに……1年振りに会えたんだし、ね?」
そう言って再びにこりと笑ってルイがエリスを見下ろす。やはり、目は笑っていない。
「えっ、ちょっ……待っ――」
ルイの腕の中でおろおろとするエリスのことを気にすることなく、ルイは抱き締めていた腕を緩め、エリスの右手をぎゅっと強く握り締めると、そのまま城の中へと歩いて行く。どこか軽やかに歩くルイとは反対に強引に引っ張られながら慌ててついていくエリスの姿があった。
そして城の入り口の大きな扉がバタンッという音と共に閉まる。
「ほんとエリスっておバカだよね。好きでもないのにルイがエッチする訳ないじゃん。僕たちにバレてないとでも思ってるのかな。……じゃあ、ジェイク、僕たちも行こっ。やっとキスもいっぱいできるねっ」
ふふっと笑みを浮かべながらアリスはジェイクの腕に自分の腕を絡める。
「え……ちょっとアリス、いや、今から? 疲れてるんだけど、俺……」
ジェイクが情けない顔でアリスを見下ろす。
「何言ってるの? 今からに決まってるでしょ。ね、ジェイク?」
ぐいっとジェイクの服を引っ張り顔を下げさせると、チュッと口にキスをする。そしてにっこりと有無を言わさぬ笑みを浮かべる。
ジェイクは目をぱちぱちとさせ、頷く代わりに大きく溜め息をつく。
「ほら、行こっ♪」
そう言ってアリスはジェイクの腕をぐいぐいと引っ張り歩いていく。ふたりの秘密の場所へと。
☆☆☆
『エリスとはなんとか仲直りっていうか、まぁ僕の誤解だったみたいだし? 仕方ないから許してあげたよ。今また4人であの湖に行ったりしてるんだ』
4人のやり取りが事細かく書かれていた訳ではないが、エリスが魔女に操られていたこと、そして2組のカップルに関することがそれとなく書かれていた。
実際に何があったかなど知る由もない優希と海斗は、双子が元通りになりほっとしていた。しかし――。
「やっぱりエリスの彼氏だったんだな、あいつ」
と海斗が呟く。
「え? あいつって、瑠依さん?」
自分の肩に顎を乗せている海斗をちらりと見る。
「そう。まぁ話を聞いて多分そうだろうなとは思ってたけど」
なんだか不服そうな顔をしている。
「何? 海斗、エリスに恋人がいてショックとか?」
むぅっとした顔で優希が尋ねる。
「そうじゃねぇよ。ただ、エリスには幸せになってほしいっていうか。俺を助けてくれた恩人でもあるから。だから、あいつじゃちょっとなって思って。優しそうな顔してるけど、ぜってぇ腹黒だろ、あいつ」
「えー。そうかな? 海斗とそんなに変わんないじゃん」
「なんだと?」
海斗の話にしれっと答えた優希の頬をむにゅっと親指と人差し指で掴む。
「いれっ」
頬を掴まれ、口を尖らせた状態のまま優希が痛がる。
「ぷっ。可愛い顔だな」
そう言って海斗が優希の頬をすりすりと撫でる。
『海斗も十分意地悪じゃんっ』と心の中で文句を言う優希であった。
優希は海斗の家へと遊びに来ていた。
いつものように、ふかふかのグレーの絨毯の上に更にふわふわの大きな黒い座布団の上。ここが優希の定位置である。
座布団の上に体育座りをした優希は何やら手紙を広げていた。
「何見てるんだ?」
海斗が後ろから優希を抱き締めるように座ってきた。ぎゅっと腰の辺りを抱き締め、肩に顎を乗せる。
しかし優希は嫌がることなく海斗に答えた。
「アリスからの手紙だよ」
そう言って、見ていた白い便箋を海斗にも見せる。
「ふぅん」
海斗はあまり興味がないようだ。しかし、手紙を見ながら首を傾げる。
「それって読めるのか?」
正直何が書かれているのか全く読めない。その手紙はもちろん日本語ではなく、どこかの外国の文字のような、しかし、この地球上の国の文字ではないような見たこともない文字が書かれている。
「うん、不思議なんだけど、ちゃんと読めるんだ。多分、これのおかげかな?」
そう言って優希は首にかけている『メタトロンの鏡』をくいっと掴んで海斗に見せた。
「なるほど」
ふぅんと頷きながらも海斗は優希の肩から顎を外さずじっと覗き込んでいる。
「じゃあ、読むね」
そう言って優希が手紙の内容を読み始めた。
☆☆☆
『ユウキ、元気ですか? 僕たちはみんな元気だよ』
アリスの手紙は挨拶文から始まっていた。そして、ワンダーランドの住人のその後の報告が書かれていたのだった。
~双子と王子と白い犬の話~
優希と海斗が帰った後の城の前。残されたアリス、ジェイク、エリスは並んで空を見上げていた。
そして、おずおずとエリスが最初に口火を切った。
「あ、アリス。君が無事で良かったよ。あのね……本当にごめんね、俺のせいで……」
じっと目を潤ませながらエリスがアリスを見つめる。
「…………」
アリスはちらりとエリスを見るが返事はない。まだ許せないのだ。いくらワンダーランドが元に戻ったとしても許すことなんてできなかった。
「アリス、もういい加減怒るのやめなよ。エリスだって悪気があったわけじゃないんだし」
なんとかふたりの仲を取り持とうとジェイクがアリスを宥める。
「絶対に、イヤっ」
しかし、ぷいっと横を向いてしまう。
「おやおや、まだ喧嘩しているのですか?」
そこへ、優希と海斗を送り届けたルイが戻ってきた。城の入り口からにこりと笑って3人を見ている。
「喧嘩じゃないっ」
アリスは睨み付けるようにルイを見る。
「やれやれ……アリス、君は誤解をしているんだよ。エリスのこと」
ゆっくりと3人の所まで歩いてくると、溜め息を付きながらルイが話し始めた。
「あの日のことは私にも責任がある。あの隠し部屋を教えたのは私なんだよ。でも、まさかそこに『パンドラの箱』が置かれていたなんて知らなかったんだ。エリスには本当に悪いことをしたと思っている」
「え?」
アリスの顔がぴくりと動く。もう睨み付けてはいない。
「あの箱には魔法が掛けられていたようだけど、私たち王族にはそれが効かないらしくてね。全然気が付かなかった。でも、エリスはその魔法に掛かってしまったんだ。操られていたんだよ、あの黒の魔女に」
「え……」
今度はエリスが驚いた顔でルイを見上げる。
「その後は、皆が知ってる通りではあるんだけど、ひとつだけ。あの時、エリスが何も言わなかったのは、言わなかったんじゃない、言えなかったんだよ。声を出せないように呪いを掛けられていた。そうだよね、エリス?」
そう言ってルイはエリスの方をじっと見下ろした。
エリスは今にも泣き出しそうな顔で俯いている。
「そうなの?」
今度はアリスが問い掛ける。
「……ごめん、本当にごめん……」
エリスはそれだけ話すと泣き出してしまった。
「……エリス、君が私たちを裏切るなんて思っていないよ。だって、君は私のものなのだから」
ルイは泣いているエリスをぎゅっと抱き締め、そしてそっと髪を撫でる。
「えっ? ち、違うよっ!」
泣いていたエリスであったがルイの言葉に驚いて顔を上げ、真っ赤な顔で声を上げる。
そして、ルイは自分の腕の中で、可愛い顔で見上げているエリスを愛しくてたまらない気持ちで見下ろす。
「ふふっ、可愛いね、エリス。まだ気が付いていないのかい? 俺は君を手放すつもりはないよ? やっと取り戻したんだからね」
そう言ってエリスのおでこにそっとキスをする。いつの間にか一人称まで変わっている。
「ちょ、ちょっと待ってっ! だって、ルイはアリスのことが好きなんでしょっ?」
「何言ってるの?」
驚いて声を上げるエリスの言葉に、アリスが不機嫌そうに口を挟んだ。
「え、だって……」
「ルイが僕のことを好きなわけないじゃん。ただの友達だよ。僕にはジェイクがいるし。ルイがエリスのこと大好きなことなんて、誰の目にも明らかでしょ」
言い淀むエリスにアリスは更に不機嫌そうに、そして呆れたように説明する。
「ま、まさかっ!」
「なんでまさかなのかな?」
声を上げるエリスをルイがにこりと笑って見下ろしている。笑っているように見えるが、目が笑っていない。エリスは思わずびくりと体を震わせる。
「エリスにはお仕置きが必要だね。それに……1年振りに会えたんだし、ね?」
そう言って再びにこりと笑ってルイがエリスを見下ろす。やはり、目は笑っていない。
「えっ、ちょっ……待っ――」
ルイの腕の中でおろおろとするエリスのことを気にすることなく、ルイは抱き締めていた腕を緩め、エリスの右手をぎゅっと強く握り締めると、そのまま城の中へと歩いて行く。どこか軽やかに歩くルイとは反対に強引に引っ張られながら慌ててついていくエリスの姿があった。
そして城の入り口の大きな扉がバタンッという音と共に閉まる。
「ほんとエリスっておバカだよね。好きでもないのにルイがエッチする訳ないじゃん。僕たちにバレてないとでも思ってるのかな。……じゃあ、ジェイク、僕たちも行こっ。やっとキスもいっぱいできるねっ」
ふふっと笑みを浮かべながらアリスはジェイクの腕に自分の腕を絡める。
「え……ちょっとアリス、いや、今から? 疲れてるんだけど、俺……」
ジェイクが情けない顔でアリスを見下ろす。
「何言ってるの? 今からに決まってるでしょ。ね、ジェイク?」
ぐいっとジェイクの服を引っ張り顔を下げさせると、チュッと口にキスをする。そしてにっこりと有無を言わさぬ笑みを浮かべる。
ジェイクは目をぱちぱちとさせ、頷く代わりに大きく溜め息をつく。
「ほら、行こっ♪」
そう言ってアリスはジェイクの腕をぐいぐいと引っ張り歩いていく。ふたりの秘密の場所へと。
☆☆☆
『エリスとはなんとか仲直りっていうか、まぁ僕の誤解だったみたいだし? 仕方ないから許してあげたよ。今また4人であの湖に行ったりしてるんだ』
4人のやり取りが事細かく書かれていた訳ではないが、エリスが魔女に操られていたこと、そして2組のカップルに関することがそれとなく書かれていた。
実際に何があったかなど知る由もない優希と海斗は、双子が元通りになりほっとしていた。しかし――。
「やっぱりエリスの彼氏だったんだな、あいつ」
と海斗が呟く。
「え? あいつって、瑠依さん?」
自分の肩に顎を乗せている海斗をちらりと見る。
「そう。まぁ話を聞いて多分そうだろうなとは思ってたけど」
なんだか不服そうな顔をしている。
「何? 海斗、エリスに恋人がいてショックとか?」
むぅっとした顔で優希が尋ねる。
「そうじゃねぇよ。ただ、エリスには幸せになってほしいっていうか。俺を助けてくれた恩人でもあるから。だから、あいつじゃちょっとなって思って。優しそうな顔してるけど、ぜってぇ腹黒だろ、あいつ」
「えー。そうかな? 海斗とそんなに変わんないじゃん」
「なんだと?」
海斗の話にしれっと答えた優希の頬をむにゅっと親指と人差し指で掴む。
「いれっ」
頬を掴まれ、口を尖らせた状態のまま優希が痛がる。
「ぷっ。可愛い顔だな」
そう言って海斗が優希の頬をすりすりと撫でる。
『海斗も十分意地悪じゃんっ』と心の中で文句を言う優希であった。
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