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しおりを挟むベンは父の命令に不服だった。それでも最低限のことだけはしてやらねばならない。その小さな責任感を拾い集めて、ぶつぶつといいながら控え室に入った。
ジェイダンはソファの上に横たわっていた。充分酔っているというのにグラスとボトルを手にやめようとはしない。ジェイダンの傍らにメディアックスの社員らしき男が介抱のために寄り添っていた。彼の手には水の入ったグラスがあったが、ジェイダンがそれに目を向けることはなかった。ベンはするどく靴を鳴らして兄の前に立った。
「兄さん、よくもこんなことができましたね」
「誰だ、おまえ……ああ、ベンジャミンじゃないか。まあ、飲めよ」
「いりません」
ベンは冷たく返した。
「そうか、じゃあ、彼女たちを送るように手配してくれ……、ええと、リサとバーバラと、チャンと……あとなんだっけ……」
ベンは相手にもせず室内電話でボーイを呼んだ。
「ああ、彼の部屋まで運んでくれ。それと頼まれてももう酒は出さないように。これは命令だ」
ベンは軽蔑するような視線を投げて、ジェイダンの隣にいる社員にも声をかけた。
「君も、もう帰りたまえ。あとはボーイに任せればいい。ご苦労だった」
コーカソイド系の男はややたどたどしいが丁寧な日本語で応えた。
「それではボーイに預けるまで、わたしが見ていますから、専務はお先にどうぞ」
「そうさせてもらおう」
ベンはあっさりと背を向け、さっさと部屋を出て行った。
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