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Simulation Main thread
二、 大門の中
しおりを挟む宮に入るには、堅牢な無垢の冠木と柱でできた大門をくぐる。ユタはこの門を通ったこともなければ、高い土塀を乗り越えたこともない。男は誰であっても、女の使いなしにここを通ることはできない決まりになっている。
槍を構えた門番が、使者の女とユタを乗せた従者の女に会釈をし、開門を叫んだ。この門番も当然、勇壮な武具をつけた女たちである。
巨大な門が低いうなりを上げて左右に開かれた。
視界が開けた瞬間、ユタは悲鳴を上げていた。
「ひっ……」
はるか先まで空間が開けていた。そのずっと奥には、立派な屋根飾りと大きな破風を持つ館がいくつも並んでいる。
(なんて広い……)
馬に揺られながら行く道すがらには、いくつもの掘立柱の上に切妻屋根が並んでいる。男たちには許されていない礎石の立派な建物もいくつも立ち並ぶ。
市が開かれていた。野菜や魚、布や器などが生活の必要なあれこれが豊富に並んでいる。
(この匂い、猪だ……! あの串焼き。ああ、お腹すいたなあ……)
道行く女たちが身にまとうのは、草木で染めた麻や綿。直観的に、この女たちは官吏よりも身分の低い者たちだろうとは容易に想像できた。だとしても、宿の暮らしぶりをはるかにしのぐ豊かさだった。
(あんなしわくちゃな女がいる……。何年生きたらああなるんだろう)
暮らしぶりもさることながら、歳や仕事によって様々に異なる女たちの様相は、ユタにとってはとりわけもの珍しかった。
使者の女たちから世話役の女たちに託され、ユタは湯屋に連れていかれた。
「身支度を整えさせろ」
「はい」
(うわ、大きい風呂だ……!)
男たちの湯屋は三間ほどだが、ここはその三倍はある。個室もいくつかあるようだ。湯の量も比較にならないほど豊富で、いい香りがする。
世話役の手がユタの腰帯に触れた。
「うわあっ!」
昨日の恐怖がよぎって、思わず逃げてしまった。世話役たちはわずかに顔を固くしたが、淡々としたものだった。
「身を清めないと宮には上がれんぞ。大人しくしろ」
「ぼ、僕自分で洗えます……」
「勝手に口をきくな。三たび聞かれるまで答えてはならん。どんなことをされても逆らってはならん。わかったか」
(そ、そうだった……、思わず……)
「他でもないゼロ様の御寵郎であるから丁重に扱うが、そうでなければ張り倒しているところだぞ。さあ、手間をかけさせるな」
(ゼロ、様…………)
御寵郎とは特定の高官などから懇意にされたり囲われたりする御用郎のことだ。
ユタは堪えてされるがままになった。風呂に入り、香油を塗られ、真白い衣裳の上に、松の領巾を着せられた。存外にも役人たちの世話は優しく心地のいいものだった。
(はわぁ……、御用郎はみんなこんなに上等な衣を……)
準備が整うと、官吏の案内で湯屋を出た。
大門の中には宮と呼ばれる大小さまざまな建物があり、建物と建物の間の大地はきれいに整えられて玉のような砂利が敷き詰められていた。慣れない烏皮の鼻高履(せきのくつ)の下でさくさくと小気味よく響き、湖畔の砂利のようにすがすがしい音だと思った。
一髻の黒髪と立派な衣裳を着た官吏たちがあちこちで働いている。宿で長が言っていたように、領巾の柄やその豪華さで身分差が決まっているらしく、ユタの目にもはっきりとわかった。
宮の中でも、特別大きな千木と鰹木のある宮に連れて来られた。みごとに平に整えられた萱の屋根、高床の上を高欄がぐるりと囲った巨大な神明造。頂の宮、と言うらしい。見上げた破風の大きさと荘厳さに足が震えた。
「止まるな、ついて来い」
言われて初めて足が止まっていたことに気が付いた。慌てて官吏の後を追って履を脱ぎ、登り高欄の先の御扉から足を踏み入れた。
檜の香りに包まれた。板間仕切りされ、用途によって陣に分かれている。その陣にもすだれや麻布によってさらに仕切られているらしかった。ユタにはまるで行ったら戻れぬ迷い路のように思われ、頭がくらくらとした。
この不可思議な空間がひたすら続くのかと思われたとき、ある一室に案内された。
部屋の真ん中は八尺四方ほどの台で一段高くなっており、絹の帳が掛かっていた。寝台には白布の敷物が据えられている。藁や井草を編んだ筵や衾|≪ふすま≫しか見たことのなかったユタには、それが寝床だとはわからなかった。周りには化粧台や鏡、香炉や結灯台などの道具が置かれている。どうやら高官の個室ようだ。
「ここで待て。ゼロ様はもうすぐ休憩にこちらにお見えになる。さっき言うたことを忘れるでないぞ。我々は御簾の奥におる。なにか怪しい素振りがあれば、すぐにでも捕らえて始末しようぞ、いいな」
(見張られているんだ……。なにか失敗したら、きっとすぐにでも殺される……)
風呂でほぐれたはずの体と頭が緊張で塗り固められていく。
微動だにもできずに待っていると、御簾の奥で官吏たちが声をそろえた。
「ゼロ様のおなりである」
手を床につき頭を下げた。衣擦れの音と足音が聞こえてきたかと思うと、御簾の上がった。
「うん? ……もしかして、お前、昨日の子どもか?」
「……」
「おい」
「……」
「顔を上げろ」
恐る恐る顔を上げると、昨日の高官が寝台に腰掛けていた。変わらず涼しく凪いだような瞳がユタを見つめている。
白い大袖に白い袴裳、青葉色の背衣、そして青の松の柄が入った領巾をはおっている。五色の装飾と結い上げられた髪も昨日と寸分も変わっていなかったが、威厳と風格はよりいっそう際立っていた。
見惚れてしまった。圧倒され、ユタは口をぽかんと開けたまま敬意を示す態度をすっかり忘れていた。高貴な身分の女にいつまでも顔を向けるのは礼を失する行為だった。
(……どういうお立場の方なんだろう……。他の官吏たちよりもお若いし……)
「なぜ、お前がここにいるんだ?」
(えっ……?)
「面倒だから、一度聞かれたらすぐに答えろ。わたしはあまり気が長くない」
「……なぜ、と言われましても……、今朝のお召しにより、参上しました……」
「わたしが、お前を呼んだ……?」
ゼロがちらりと御簾の向こうの官吏たちを見た。
「昨日領巾をどうしたのかと聞かれ、滓にくれてやったと言ったのを、女たちが早飲み込みしたのだな」
(え、それって、どういう……)
御簾の向こうの官吏たちがざわついている。
「床まで新しくして気が利いていると言いたいところだが、わたしはそんな気分ではないし、このような子どもを抱く趣味はない」
ゼロはゆったりと袖を整え向きなおると、戸惑いの広がるユタを見た。
「無駄足をさせてすまなかったな、帰っていいぞ」
(か、帰れるの…?)
マナホの顔が一瞬にして浮かんだ。
(でも……、帰ったら、きっとマナホはがっかりするだろうな……)
「そうか、お前の気持ちを聞いていなかったな」
顔にでも出ていたのだろうか。
「お前はどうしたい?」
「えっ……」
いやそれよりも、ゼロは今確かにこう言った。お前はどうしたいか、と。御用郎に、いや女の前で男に通せる意見などあるはずもない。それなのに、この高官はそれを聞いてくれようとしているのだろうか。まさか、本気で……?
ユタよりも、御簾の向こう側のほうが激しく揺れていた。
「おい、山室。この者に用郎指南を受けさせてやれるか」
「……は、ご命令とあらば……」
「だそうだ。お前が望むなら宮に残ってもいい。どちらでも好きな方を選べ」
(選べ……? 僕が、まさか、自分で……?)
出仕を望まれていなかったということより、自分に選択が許されたことのほうが遥かに驚きだった。
(ど、どうしよう、どうすれば……)
従うことを強要されることしかなかった者には、おいそれと応じられない申し出だった。唐突に突きつけられた選択の自由。固まってしまった。
またも見透かしたような言葉が降ってきた。
「そうだな、すぐには決め難かろう。まあいい、心が定まるまでここにいろ」
「これ、ゼロ様を煩らわせるのはやめよ! どちらにするか、今すぐ決めるのだ」
「山室、そう急かすな。この者にとっては人生の分かれ道だ」
「し、しかし……!」
「もとを正せば、わたしがはっきり言わなかったのが悪い」
「い、いえ、決してそういうわけでは……」
「ところで小腹がすいた」
「は、はあ……」
「この者の分もなにか頼む。それから午後の仕事まではひとりにしてくれ」
「は、……」
山室らが去った後、宗和膳に乗った茶と餅が運ばれてきた。
置かれるなり、ゼロは自分の皿を世話役に持たせた。
「朝からなにも口にしていないのだろう」
世話役がユタの膳にその皿を乗せて下がっていった。
「あ、ありがとうございます……」
それだけのやり取りを終えると、ゼロは書簡を取り出して目を落とした。
その姿を見ながら、思わずにいられない。
(……不思議なお方だ……、まさか、人の心がお読みになれるのかな……)
ゼロの言葉や所作はどこか型破りなのだろう。他の官吏たちの反応からもそれを感じる。
(この方は、どこか違う……。どこが違うんだろう……)
四角い生え際からすらりと降りた白い額。柳のような眉と滑らかな頬。瞬きの度に上下に振れる長いまつ毛。
あの額の中にはきっと、自分が知らない、れきしなるものが詰まっていて、あれこれと国の目安星について考えておられるに違いない。
それがどんなものかはわからないが、はた目にも聡明なその額が神々しかった。
(なんて美しい御姿だろう……)
「どうした、わたしの顔になにかついてるか」
突然向けられた視線にどぎまぎと慌てた。
「そういえば、名を聞いてなかったな」
「……ユタと申します」
「心は決まりそうか?」
「それは、まだ……」
「気にかかる者がおるのだな」
「え……、ど、どうして……?」
「普通は宮を選ぶのに、戻る選択を捨てていない。ここの暮らしに劣らぬなにかがあるのだろう。後悔しないように選ぶといい」
「……ゼロ様は、人の心がお読みになれるのですか?」
「なんだって?」
ゼロが眉を上げた。
(し、しまった。つい、思ったことをそのまま口にしてしまった)
「も、申し訳……」
「別に怒ってない。なぜそんなことを思ったのか、妙に思っただけだ」
「……あの、その……」
気が長くない、と言っていた。早く答えなければ……。それなのに、言葉にしようとするとなぜか口が回らない。
(ど、どうしよう、怒らせてしまう……)
焦ると余計に言葉がまとまらなかった。
「そうか」
ゼロの中で、またもなにかが合点したらしい。
「お前は調べ前なのであったな」
(……え、え?)
「いくつだ」
「……秋で、十八になります」
「そうか……。髭も生えていないから、包児だと思ったぞ」
「御調べは受けていません。生まれてすぐ淘汰されたので……」
「滓児か。それで体もそのように小さいのか」
「はい……」
「だとすれば、用郎の役はお前には荷が重いかもしれんな。女たちの欲を満足させるのは簡単ではないし、数も多いから体もきついと聞く。男同士の派閥争いや妬み嫉みも激しいそうだ。軽く見られれば雑に扱われ、すぐに使い捨てられるぞ」
(……宮の中って、そんなところなの……?)
男の性のみを盾とした御用郎の世界。当然といえば当然なのかもしれない。
「精力に自信があれば留まるもいいが、そうでなければ、ここの暮らしは宿以上に辛いかもしれん。お前はちゃんと機能してるのか?」
「えっ……?」
「なにをぼんやりしている。勃つのかと聞いている」
ユタの顔が見る間に染まった。
「一度も射精したことがないのか?」
「……あ、あ、ありますっ……。十五の時、朝起きたとき、ちゃんと……」
「夢精か? 相手がいたのか?」
「ち、違います……! 僕は誰とも肌を合わせたことはありません。御調べで男と交わったことがわかるとすぐ殺されるからって、マナホが……」
「マナホ。お前の気がかりか?」
「……」
「待っている人がいるなら、戻るのもいい。さっき言った通りだ。ここで暮らすのも楽ではない」
「……」
「決心がついたらいつでも声をかけろ。帰るとしても、ちゃんと宿まで送り届ける」
再び長いまつ毛が、横幅広の書簡に伏した。
すらりと通った鼻筋、真一文字に結ばれた色よい唇、白い肌に一糸乱れぬ黒い髪。
堂々としているのに、役人特有の無暗な圧がない。厳かでありながら、たゆたう湖面や開けた景色、あるいは、流れる雲を眺めているかのような。
はじめて感じる懐の深さに、ユタはふわふわとした気持ちにさせられていた。
(……なんだか、マナホみたいだ……)
御寵郎として呼ばれたわけではないことは承知している。この官吏が自分を囲って守ってくれることはない。それを理解しながらも、ユタの気持ちははっきりと動かされていた。この人の庇護のもとで暮らせたら、どれだけいいだろう。
「マ、マナホは……」
「うん?」
「僕と同じで、滓児でした……。宮に上がりたかったんです」
「だからお前を抱かなかったのか?」
「はい……」
「それで、どうするか決めたのか」
「ここに残りたいです。残って、れきしを知りたいです」
ゼロが両眼をわずかに見開いた。
「お前は歴史を知るためにここにいたいのか?」
「……はい」
「それもマナホが言ったのか?」
「はい。れきしを知れば、より良く生きることができるって」
珍しいものを見るように、ユタをじっと見た。見つめられると、それだけでユタの体はざわめいた。
(あの目で見つめられると、どうして胸が落ち着かないんだろう……)
「いいだろう」
ゼロが手元の鈴を鳴らした。山室他二名の官吏たちがやってきた。
「山室、ユタに用郎指南を受けさせてやれ」
「はい」
「それから、ユタ。時々ここへ来い」
「……え?」
「歴史を知って、どうすればより良く生きれるか。お前が感じたことをここへ来てわたしに話して聞かせるんだ。わかったな?」
「……はい……」
驚きと動揺の張りついた顔を官吏たちは互いに確認し合っている。
部屋を去るその時まで、ゼロはじっと静かな目でユタを見つめていた。
こちらもぜひお楽しみください
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