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Simulation Introduction
二、メイオウ領(2)
しおりを挟むこの世のすべての大地とすべての海をいだく強大なる「居神国」。
居神国はさる惑星における人類の平行世界。
最も近しい例を上げれば、日本国における弥生時代にも似た原始国家である。
大きく違うのは、徹底した女系王が管理する女性優位の社会であること。
政治的権力と社会的優位性を持つこと、また継承できるのは女のみ。
男は子種をもたらすだけの家畜である。……
居神国に属するメイオウ領。
ここに生きるジンという男がこの物語の主人公である。
メイオウ領でもほとんどの属領と同じく、男たちは"宿"で育てられる。
"宿"とは領内で生まれた男を収容しておく施設である。
ジンはそこでの暮らしを思い出すと、いまだに寒気がする。
顔かたちに恵まれたジンは、物心ついたときにはすでに男たちの性欲のはけ口となっていた。
"宿"暮らしにはそれなりの秩序が存在していたが、誰も彼もがその秩序の中で平穏無事に過ごせるというものではない。
親代わりになって育ててくれる相手に恵まれなければ、幼く力のない間は大人たちのなすがままにされてしまう。
ジンはそこで生き抜くために相手に媚を売り、どんな辛いことでも受け入れてきた。
次第に、力のある者にすり寄ることでわが身の安全を確保する術を覚える。
ジンは十一歳になるころには"宿"の長の相手となることで立場を守ったが、それは当然どの子どもにもできることではない。
見目に恵まれない者や体の不自由な者、年上の者たちの不興を買ったものや性格がきつい者たちは、ジンよりも辛く苦しい子ども時代を過ごすことは多く、下手すればいとも安く命を落とした。
二十歳を過ぎたある時、領主の検分が行われた際、サライの新しい男を見繕うよう命じられたミライがジンの宿にやってきた。
ミライはジンの恵まれた容姿に目を付けた。
サライに渡して殺してしまうのは惜しいと思ったのだろう。
他の宿から連れてきた男たちはみなサライの部屋に送られたが、ジンだけがミライの部屋に残された。
「誰か、これを湯に入れてやれ」
女たちがやってきて、ジンの世話を焼き始めた。
信じられないくらいたくさんの湯に満ちた湯殿があり、ジンはまるっと洗われた。
まとっていたぼろ布は、染みひとつない木綿の着物に変わり、長年の垢とともにのみやシラミは一掃され、爪も短く丸く整えられた。
夜がふけるころ、ジンはミライの寝室に案内された。
「思った通り、なかなかの美形ではないか」
ぐいっと手を引かれると、そのまま寝台に押し倒された。
「男たちに好き放題にされてきたのだろう?」
「……っ……」
背筋が冷たくなった。
領主は男と通じた男をことに厳しく扱うと聞いていたからだ。
屋敷には"種"と呼ばれる領主に子種を授けることを許された男がいるという。
だが、男と通じた男にはそれが許されないという掟があるということは、ジンの耳にも入っていた。
「そのような顔をせずともよい。俺はそのようなことは気にしない。
さあ、どんなふうに鳴くのか、お前の声を聞かせてみよ」
ミライの優しい愛撫にジンは、はっと息を吸う。
これまでこのように優しく扱われたことがあっただろうか。
さっきまでの緊張がうそのように消えて、ジンはあれというまに淫らな声を上げていた。
「ほう、なかなか愛い奴」
男たちの荒れた肌とは違う、キメの細かい白い花びらのような肌。
ほっそりとして妖しくも美しい指の巧み。
脳の髄にまで届きそうな甘い香り。
ジンはこれまで領地を守る兵士の女や農民の女しか見たことがなかった。
彼女らはたくましく、日焼けした肌は健康的で、その四肢は男とは違った魅力を帯びてはいたが、ミライはその女たちとは全く違った。
雅な物腰、落ち着いた声音、魅惑的なまなざし、温かい微笑みを浮かべた口元。
(……ああ、ぼくはこの人に抱かれるためにいきていたんだ……)
自然と涙が頬を伝った。
「み……皇子さま……」
「なんだ?」
「……どうか、お名まえを……」
「俺の名前か? そうか俺の名前も知らなかったか。ミライだ」
(ミライさま……! ぼくは決めた……! これからは一生、ミライさまのおそばにおつかえする!)
ジンはこれまでの人生で培ってきた、相手への従順を示す最大限の上目遣いと憐れな声を使った。
「ぼくをミライさまのおそばにおいてください……」
「もとよりそのつもりで連れてきたのだ」
(よし……っ!)
「それよりここに来たからにはお前はもっと奉仕せねばならないぞ。
真剣みが足らんようだが、もっと激しいのが好きか」
ミライの手の中でまだ張り詰めていない根を見て、かっと頬が熱くなった。
「いえ……、ミライさまのどんなやり方にもしたがいます。
ほんとうに、どんなことでも……」
「そういう男は数多見てきたが、皆口ほどでもないぞ」
「いえ、ほんとうです。どうか、ぼくをおためしになってください」
「ではそうしてみるか」
幸いジンはミライに気にいられた。
いった通り、ジンはミライのどんな要望にも応えた。
本当にどんなことも厭わないので、その話を聞いたサライが、ミライにジンをくれと申し出た。
ミライにはジンがどのような目に合うかわかっていたので断ったが、再三頼まれてついにミライが折れた。
「いいか、ジン。母君は手厳しいを超えて恐ろしいお方だ。
命が危ないと思ったら、いつでもここへ逃げてこい」
「は、はい……」
その晩、サライの寝室に向かった。
ミライに似た目元を持つ、しかし残忍な微笑みを携えたサライを前にジンは一瞬で硬直した。
「そう怯えなくともよい。さあ、ここへ来い」
サライの手中に入ったが最後。
地獄のごとくに攻められ、ジンはこれまで"宿"で受けてきた暴力が生ぬるかったとさえ思った。
一日二日、一週間二週間がたつと、ジンの様相はやつれ別人のように変わっていった。
そしてある日、どうしても耐えかねて、ジンはサライの寝室を飛び出した。
その脚でミライのいる部屋へ走った。
「ミ、ミライさま……っ!」
しかし、そこで待っていたのは、ミライと新しい男の情事であった。
ガツンと岩で頭を打ち砕かれた気がした。
「どうした、ジン」
「……っ……」
「そうか、逃げてきたのだな。おい誰か、ジンの手当てしてやれ」
部屋の奥から現れた女たちに挟まれて、ジンはその場を連れ出された。
ミライに何人もの男がいるのはわかっていた。
だが、ジンは一番若く新鮮で、従順な自分が最も愛されていると思い込んでいたのだ。
見たことのないあの男、なんと見目麗しいことか。
その一方、血と砂埃で着物を汚し、髪を振り乱し、青あざやすり傷に満ちた自分のなんと醜いこと。
自分は決して一番ではないのだと思い知らされ、あまりのみじめさに数日泣いて暮らした。
その後、新しい男が五番目の男として屋敷を闊歩するようになった。
ミライの口添えもあって、ジンはミライの元に戻れたが順番でいけば六番に下がった。
男たちは名前の代わりに、この番号で呼ばれることが多々ある。
女たちにとっては、名前を覚えたところで、男が死んだり役立たずになって入れ替わることはよくあるからだった。
この番号は、ミライの部屋から数えて何番目という数と同じであった。
必然的ジンはミライから一部屋分遠のかれたのである。
(ぜったいにわたさない……。ミライさまのお心は、ぜったいに、ぜったいにはなしてなるものか……!)
このときを発端にして、ジンとリェンの戦いが宿命づけられたのである。
ミライと七人の男たち。
積もる話は山あれど、語る機会はまたいずれ……。
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