サンドプレイシュミレーション

国府知里

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Simulation Introduction

十、ムクロヒ領(3)

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 この世のすべての大地とすべての海をいだく強大なる「居神国」。
 居神国はさる惑星における人類の平行世界。
 最も近しい例を上げれば、日本国における弥生時代にも似た原始国家である。
 大きく違うのは、徹底した女系王が管理する女性優位の社会であること。
 政治的権力と社会的優位性を持つこと、また継承できるのは女のみ。
 男は子種をもたらすだけの家畜である。……



 居神国に属するムクロヒ領。
 ここに生きるオエンという男がこの物語の主人公である。




 麻縄で後ろ手に縛られたオエンは、兵士の女に乱暴に突き飛ばされ地に伏した。

「どうだい?」
「ふうん、まあまあだ。じゃあこれで」

 オエンは女たちがやり取りしている米の入った小袋や包みに包まれた肉や木の実を見て空腹を思い出さざるをえなかった。
 オエンが見るのはこれが初めてではない。
 女たちがやり取りするのは食べ物ばかりでなく、折りたたまれた布やちょっとした飾り紐などの装飾の場合もある。
 この兵士は"宿"の見張りという立場を利用して、男たち犯す女たちを目こぼししているのだ。
 廓があるのになぜ、という疑問は当然だろう。
 答えは、もっと安く遊べるからだ。
 あるいは廓であればやはり商品を死なせるとそれなりに代償を払わねばならない。
 多少の手荒な真似は許されるが、廓の主人たちは廓の中の暴力は許しても死の穢れは客足に関わるといって嫌がるのだ。
 廓は性を楽しむ場所であり、種を取る場所。
 たとえ底の"小種"であろうとも廓で最期を迎えることはない。
 男の最後は決まって"滓穴"である。

 "宿"のそばには男たち専用の風呂小屋がある。
 夏場は半月に一回、冬は二カ月に一回、男たちはこの共同浴場で体を洗うことができた。
 とはいえ、全ての"宿"が時間交代で小さな小屋に入れ替わりに入るので、洗うといっても最後の"宿"は酷い汚臭のする泥水につかるようなものだった。
 補足するが、現在"宿"はムクロヒ領に八つ存在している。
 "宿"に住まう人数は概ね二十人前後である。
 それぞれの宿はそれぞれに囲われており、互いの行き来はできない。
 それでも男たちは昼夜、あるいはこうした風呂を利用する際に他の"宿"の様子を伺い合っていた。
 自分たちの"宿"より多くの配給を得ていれば、男たちは激しく悔しがった。
 "宿"から"種"を出さねば配給は増えない。
 その一方で"種"になれる可能性を備えた美しい男には嫉妬せざるをえない。
 どう転んでも男たちに苦しい強制力が働くのであった。

 さきほどオエンを受け取ったのは、この風呂小屋を担当している下級の役人たちであった。
 女たちは風呂に入る男たちを監視するという役目を負いながら、同時に目踏みしていたのだ。
 今夜いたぶる獲物を定めるために。
 オエンが風呂小屋の役人たちに目をつけられたのは二度目だった。
 一度目は命からがらでなんとか"宿"に帰れたが、それから丸一か月痛みに悶え、食べるものも喉を通らず、まさに死の縁をさまよった。
 二度目ともなれば、もはや本当にもう命はないだろうと覚悟しなければならなかった。

「さあ、こっちに来な」

 オエンはふたりの女に引きずられて出たばかりの風呂小屋に連れ戻された。
 中では三人の女たちが風呂の掃除をしていた。
 その中のひとりが新しくきれいな湯を汲み、ばしゃんとオエンに叩きつけてきた。

「きれいにしてやるよ、こっちに来な」

 そういいながら、湯船の中に頭から突っ込まれた。

(ぐぐ……っ、息が……!)
「おいおい、楽しむ前に死なせるなよ」
「そうだ、死んだら立たないぞ」

 ばさあっと髪を掴まれて引き揚げられた。
 苦しさにあえぎ、激しくせき込んだが、女たちは容赦しない。
 乱暴に湯をかけまくり、オエンはもはや溺死寸前だった。

「がっ……がはっ!……」
「さあ、元気なところを見せとくれよ」

 オエンの二倍は太かろうという女の腕がぐいとオエンの髪を掴み、膝まづかせた。
 いつの間にかそれぞれに衣を脱ぎ捨てた女たちがオエンを取り囲む。
 ひとりはオエンの唇を吸い、ひとりは竿を掴んで前後に擦る。
 二人の女は準場を待って後ろから眺め、もう一人は手に木の棒を持っていた。

「こいつらは棒を尻の穴に突っ込まれると、勝手に立つようになってんのさ。見てな」

 棒を持っていた女がオエンの尻の穴にぐりぐりと突っ込んだ。

「ほうら、来た!」

 男たちとの交わりによって仕込まれてきた穴は、自分の意志とは関わらず条件反射で刺激に反応してしまう。
 女たちもコツを得たもので、どうすればうまく男を立ち上がらせれられるかを知っているのだった。

「ほらほら、きもちいいだろ? この雄犬が!」
「はあっ、はふうっ……」
「うふっ、なかなかいい顔をするね。燃えて来たよ」
「はあっ、あう……」
「最初はあたしだよ」

 ひときわ大きい女が軽々とオエンを転がした。
 すぐさまその竿に自分を差し込み、大きく腰を振った。

「ああ……、ああ、いいね……」
「はあ、はあ……っ」

 三人目までの女はうまくいった。
 だが、四人目ともなるとオエンのものは立たなくなっていた。
 日頃から栄養不足で女たちの有り余る体力について行けるはずがない。

「おい、お前、なにへたってんだ」
「しょうがないね」

 その言葉に、びくっと震える。
 しようがないというのは、解放されるという意味ではない。
 なぶられる、あるいは殺されるという意味だからだ。
 ところが、ひとりの女が、どこからか軟膏を出してきた。
 女がそれを手に取り、オエンの局所だけでなく、地肌全体に塗り付けた。
 初めて感じるその滑らかな滑りに、オエンはふつふつと興奮がよみがえってくる。
 ひとりの女が、丹念に乳首を愛撫する。

「お前もここが好きだろ? ん?」
「う……っ、はあ……」

 もう一人の女がもてあそぶかのように竿と袋を愛撫した。
 さらにもう一人が指を使ってオエンの穴を刺激する。

「うあっ、ああっ……っ」
「ほら、まだ使えるよ」
「よし、次はあたしだ」

 女たちはかわるがわるオエンの上になって、オエンの精を楽しんだ。

(この女たち……、おれの子種を受けたということは、おれの子を産んでくれるということなんだろうか……)

 前回犯されたときも思っていた。
 "種"にならなければ子を残せないというこの国の掟がある。
 だが、この女たちは自分たちの欲望のままにその掟を破って、こうして"種"にも"小種"にも選ばれなかった下等な自分の種をその胎内に受けている。
 この女たちが妊娠して子を産むのなら、オエンはこのまま死んでいくのも悪くないと思った。

(おれにも、うまれてきた意味があった……)

 オエンはそう思うと、胸がいっぱいになって涙がこぼれた。

「なんだ、べそかいてるぞ。女たちの腹にしこたま出せてそんなにうれしいか?」
「はははっ、愚かだなあ! お前がいくらあたしたちの腹の中にその種をばらまこうと、あたしたちは妊娠しないんだよ。普通男はそんなことも知らないだろうけどね」

(にんしん、しない……?)

 オエンは目を見開いいた。
 "宿"では、女の中に種を入れれば子ができると聞いていた。
 この女たちはまさか、女ではないのか? 
 でもまさか、男でもあるようにはみえない。
 無知なオエンは混乱した。

「ああ、いけない。あたし薬を飲み忘れちまったよ。あんた、余ってないかい?」
「しょうがないね。でもいけないよ、飲み忘れは。
 あたしたちは産みたいときにだけ産んで、あとは楽しまなくちゃ」

 ひとりの女がなにか小さな包みを融通し、もうひとりがそれを口にした。

(くすり……?)

 居神国において、妊娠はほぼ完ぺきに制御ができる。
 それも居神国で作られた薬を服用するだけというごく簡単な方法であった。
 女たちはそれによって望まぬ妊娠から身を守り、体力や気力や活動量を維持しているのである。
 これは、居神国がこのような国家を形成した重要な要素のひとつでもあった。
 すなわち、子の産出の決定権は、決定的に女にあるということである。
 言い換えてもいい。
 女にしかないのである。
 男がいかに励もうが、運よくこのような犯し輪しに合おうが、男の意思で子を宿すことは不可能なのである。
 男に政治力、権力、財力が持てぬのは、この子孫を増やす、家を維持するという根幹が担えないからである。
 男というものは、女にとって添え物であり、なくても産めばいい。
 だが、男にとって女は生まれてくるために必要不可欠であり、また自分が生きた痕跡を残すためにも必要不可欠なのであった。
 命の源は常に母にある。
 父はいらない。
 必要なのは少しの種。
 そして、性的な満足のための肉の竿だけである。
 この男女間の不均衡が、この国の発展の大きな礎であった。

「さあて、そろそろあたしの出番だね」

 終始控えめだった細身の女が前に出た。
 自分の穴に軟膏で立たせたものを咥え込むと、上で腰を揺らしながらよがる。

「みんな、ちょいと押さえていてくれるかい……?」
「あいよ。あんたも好きだね」

 女たちがオエンの手足を押さえた。
 交わっている細身の女が背後から腰ひもを取り、オエンの首に巻いた。

「……さあ、あんたの最期をあたしん中に絞り出しておくれ……」

 そういうと、女はぎゅっとオエンの首を絞めた。

「ぐっ、ぐうぐっ!」
「……ああ、ああ、いい顔、いい顔だねぇ、ぞくぞくするよ!」
(やめろ……っ、やめてくれ……っ!)
「ほうら、早く出さないと死んでしまうぞ? お前の子種が無駄になってしまうぞ?」
(やめ……っ……)

 オエンは呼吸が止まる寸前に爆ぜた。
 ふっと、女が手を緩めたからだった。

「ああ……ああ~……」

 女が上を向き、オエンの精を味わった。
 その次の瞬間、再びぐっと紐に力がこもった。
 オエンは今度こそ間違いなく、息の音が止まった。
 女は死んだオエンの上で何度も腰を振った。
 そして、あるところでぴたっと止まり、恍惚の表情を浮かべる。

「ああ~……いいよ……。
 あたしはあたしの中でだんだん萎えていくこいつが好きなんだ……」
「あんたは変わりもんだね」
「あたしらも大概だけと、あんたが一番変だね」
「子種が無駄になるって、あんた、今順番なの?」
「違う」
「ええ?」
「ああいったほうが最後まで頑張ると思ったからさ。
 実際、そうだったろう?」

 遺体は即兵士に引き取られ、"滓穴"に投げ込まれた。
 遺体を運んだ男たちは懸命にもなにも聞かない。
 兵士たちはなにごともなかったように、いつもの仕事に戻った。
 男たちは宿の中で、吐き出しようのない思いを個々に抱えて床に就く。
 明日は自分かもしれない。
 でも、オエンが種を残せたのならば、それは幸いだったかもしれない。
 自分だったら、死んでもなお、この世に種を残したい。
 あるいは、女たちになぶられて死ぬのはごめんだ。
 どちらにしても、どうやっても苦しみから逃れられない。
 どうしてなのか……。
 どうして、男はこうなのか……。
 それすらも考え付かない男さえいる。
 もはや、思うこと、考えることすら、男たちは女たちに奪われているのである。
 男たちは答えの出ない問いをひたすら繰り返して朝を待つ。
 漏れなく、朝は平等に男たちにもやって来るのだった。

 
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