さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ

文字の大きさ
12 / 71

迷宮離脱(第一層)⑥

しおりを挟む

「ふふふはははははははは」
「機嫌良さそうだね、シグ」

 迷宮の出口に向かって歩く途中、シグはこらえきれない、とばかりに笑みを浮かべていた。

 出口は近い。すれ違う冒険者たちに不信そうな視線を向けられているが、シグは特に気にしていない。

「そりゃ気分いいだろ。こっちをさんざん馬鹿にしてきた連中にきちんと仕返しできたうえ、金だの魔核だのも回収できたんだからな」

 というか、金目のものはだいたい奪っていた。

 最初にシグが取られたぶんはもちろん、旅行帽の男たちがもともともっていたぶんも根こそぎいただいている。彼らが持っていた回復薬もだ。

 連中のしでかしたことからすれば当然の報いといえよう。

「む、出口だね」

 クゥの視線の先には、迷宮の出口があった。

(……まさか本当に帰ってこられるとは)

 シグはそう思う。

 麻痺にされた挙句大量の魔物に追い回されたときにはどうなるかと思ったが、こうして無事に迷宮の出口までたどり着くことができた。

 そうできたのは――、

「どうしたのさシグ、ぼくの顔に何かついてる?」

 シグの隣で首を傾げる、この少女がいたからだ。

「……お前、クゥなんだよな。俺の契約精霊の」

「またその話かい? そんなに信じられないなら最終手段、認めてくれるまでシグの恥ずかしい秘密暴露大会をするしか……」

「おいやめろ。で、クゥなんだな」

「そうだよ。……何でそんなに重ねて聞くんだい?」

 どこか不安そうに見上げてくる白髪の少女。

 その頭に、ぽん、とシグは手を置いた。肩をこわばらせるクゥに構わず、そのまま乱暴な手つきで二度三度と撫でる。

「今日は助かった」
「……え、あ」

 クゥから視線を逸らすように正面を向きながら、

「死なずに済んだし剣だって戻ってきた。お前のおかげだ」
「……」
「正直お前がクゥだってのにまだ違和感はあるが……まあ、礼は言っとくぞ。ありがとよ」
「…………、」

 無言。
 クゥは、何も言わずその場に立ちつくしている。

 何を言われたのか理解できていないように。

 数秒間何の反応も示さなかったクゥだったが――じわ、とその目に涙が浮かぶ。

 シグがその意味を考えようとしたところで、クゥの瞳から涙があふれた。

「わあああああん」

 大泣きである。ぎょっとしたように周囲の冒険者がシグたちを見た。
 だが一番唖然としたのは当のシグだ。

 なんだ。なぜ泣く。そんなに頭を撫でられるのが嫌だったのか。

「お、おい。落ち着け」

 言うが、クゥが泣き止む気配はまったくない。

 後から後から涙のしずくが零れ落ちていく。

「……どうしたってんだ……」

 どうしていいかわからず呻くシグに、嗚咽まじりの小さな声が返ってきた。

「だって、だってぇ……ぼく、ずっとなにもできない役立たずで、シグを傷つけてばっかりでっ……ずっとずっとそれが悔しくて、悲しくて……」

「――」

「でも、シグはぼくを責めないから、それもつらくて……」

 クゥはぼろぼろと涙を流したまま、

「そんなふうに言ってもらえるなんて、思ったこと、なかったからぁ」

 喉を裂くように、そう言った。

「……お前……」

 シグは呆然とクゥを見つめることしかできない。

 それは負い目だ。

 クゥが十五年にわたって抱え続けた傷だった。

 最下級の精霊だったクゥはまさしく無能だった。精霊術を使えず身体強化も行えない。護衛をつけて『練度上げ』をしても下級精霊にすらならない。

 そしてそれに対する非難は、クゥではなくシグに向いた。

 王家という、『強い精霊を宿して当たり前』の環境に生まれたこともそれを後押しした。王宮でも、貴族学院でも、シグは当然のように見下された。
 マナを扱えないなら牛や豚と同類だ、と嗤われたことさえある。

 シグは努力していた。

 勉学。剣。体術。社交。あらゆることを、毎日毎日磨き続けた。

 そのすべてを無能な自分が台無しにしてきたのだ。

 この世界では精霊の強さがすべてだから。

 クゥはそのことが何よりもつらかった。

「……気にしてんじゃねえよ、そんなこと」
「気にするよっ、無理言わないでよ……」

 コートの袖を当てて何度も目元をぬぐうクゥだったが、まったく涙が治まる気配はない。

 ……率直な感想を言えば。

 気にし過ぎだ、とシグは思う。

 確かに実の父親から『王家にお前のような愚図はいらない』と言われて追放されたり、貴族学院で色々あったりもしたが、それは決してクゥのせいではない。精霊の強さでしかものごとを判断できない周りの人間がどうかしているのだ。

 シグはクゥが悪いと思ったことなど一度もない。

 だが、それを伝えたところで意味はないだろう。クゥを責めているのはクゥ自身だからだ。

 そして、シグからすると、そういう気持ちは少しわかってしまう。

(……あー)

 自分が傷つけてしまった相手に、『あなたのせいじゃない』と笑いかけられる。

 そういう経験のあるシグにとっては、気安く慰めるのも躊躇われた。

 シグは視線を逸らし、呟くように言った。

「なら、これから返済していけよ」
「……え?」
「罪悪感が消えるまで、俺の役に立て。……お前はもう、無能なんかじゃねえんだろ」

 結局、それしかない。クゥを責めているのがクゥ自身なら、クゥを許せるのもクゥ自身だ。

「…………、」

 クゥは涙の溜まった瞳をわずかに見開いて、こくん、と頷いた。

「……うん。そうだね。シグの言う通りだ」
「わかりゃいい。納得したなら、さっさと泣き止め」
「うあ」

 シグはクゥの目元を指で荒っぽく拭い、無理やり涙を止めてしまう。クゥは母猫に世話を焼かれる子猫のように大人しくそれを受け入れた。

 ぐす、と鼻を鳴らしながら、クゥはきまり悪そうに言った。

「……その、ごめん。取り乱しちゃった」
「まったくだ。次にこの話を蒸し返したら殺す」
「わ、わかった。もう言わない」

 低い声で釘を刺すシグにクゥはこくこくと頷いた。

 それを確認してから、シグは迷宮の出口に視線を向ける。

「もう行くぞ。無駄に目立っちまった」
「あ、待って待って。シグ、ひとつだけ」
「あん?」

 シグが振り返ると、なぜかクゥはわずかに緊張した顔をしていた。それを誤魔化すように咳ばらいをして、クゥは口を開いた。


「改めて――ぼくはクゥだ。きみと契約した半身にして、空をつかさどる大精霊」


「……」

「きみの役に立てるよう、頑張るよ。これからよろしくね」

 胸に手を当てて自信ありげな顔をするクゥに、シグは呆れたように言う。

「……今更かよ」
「い、いいじゃないか別に。そういう気分だったんだよ」
「あっそ。……まあ、よろしく」
「うん。よろしく」

 そんなやり取りを最後に、二人は迷宮を離脱した。
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

辺境薬術師のポーションは至高 騎士団を追放されても、魔法薬がすべてを解決する

鶴井こう
ファンタジー
【書籍化しました】 余分にポーションを作らせ、横流しして金を稼いでいた王国騎士団第15番隊は、俺を追放した。 いきなり仕事を首にされ、隊を後にする俺。ひょんなことから、辺境伯の娘の怪我を助けたことから、辺境の村に招待されることに。 一方、モンスターたちのスタンピードを抑え込もうとしていた第15番隊。 しかしポーションの数が圧倒的に足りず、品質が低いポーションで回復もままならず、第15番隊の守備していた拠点から陥落し、王都は徐々にモンスターに侵略されていく。 俺はもふもふを拾ったり農地改革したり辺境の村でのんびりと過ごしていたが、徐々にその腕を買われて頼りにされることに。功績もステータスに表示されてしまい隠せないので、褒賞は甘んじて受けることにしようと思う。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

処理中です...