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二章

「ダンジョン合宿と謎の石像」その⑦

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「お疲れ様でしたご主人。槍を持ってきました」
「あぁ、ありがとうな、スカーレット」

 槍を受け取り大剣と一緒にウエストポーチの中に入れた。

「ご主人様、これが落ちてたのにゃ」

 クリスが拾ってきたドラゴンの原料は、まさかの金貨二枚だった。

「んっ⁉ これって……」

 よく見たら普通の金貨ではない。これは女神の顔が正面を向いている。更にノーマルより太くて重い。つまり一つで十万円ぐらいになる大金貨だ。しかも二枚ゲット。
 ただ、凄く嬉しいけどクリスが持ってきたのは金貨だけだ。

「他に剣とかはないのかな」
「なにもないにゃ」
「だよな。見渡してもなにもないしな」

 モンスターが居なくなったけど仕掛けは発動しないし、ここには先に進む通路もない。
 どうするのが正解か分からない。と思っていたら上空に移動か召喚に使われる魔法陣が現れる。
 魔法陣が輝くと下に向けて光の柱を作り出し、何やら小瓶のような物を召喚した。宙に浮いているその小瓶を手に取ると、魔法陣はすぐに消えた。
 小瓶の中には、神秘的に七色に光る液体が少量だけ入っている。

「……石化を解くアイテムだよな」
「確かに石像モンスターの石化を解く時に使われた七色の雫と、同じ物に見えます」
「クリスチーナは分かったのにゃ。それを飲むと石化魔法を防げるにゃ」
「なるほど。それはそれで凄いな。でも絶対に違うと思うぞ」

 てかこれを飲む勇気は俺にはないよ。

「ご主人様が言うなら違うのにゃ」
「ご主人、とりあえずバカ猫に飲ませてみてはどうでしょうか」
「そだな。そうしようか。死ぬかもしれないけど」
「にゃにゃっ⁉ 死んじゃうのは怖いのにゃ。もっとご主人様と一緒に居たいのにゃ」
「自分で飲むものと言ったんだから、自分で飲んでみろ。実験台になればご主人の役に立つぞ。心配するな、ちゃんとここに埋めてやるから」
「スカーレットちゃん怖いのにゃ。その真顔はやめてほしいのにゃ」

 クリスが半泣き状態で言ったその時、移動か召喚に使われる大きな魔法陣が地面に作り出された。

「おっ、ついに最強の剣が召喚されるのか」

 と思い魔法陣を見ていたが、これといって何も起こらない。

「ご主人、これは移動用ではないでしょうか」
「ならこの魔法陣で移動しろってことか」
「はい。そう思います」
「……他に何もなさそうだし、行ってみるか」
「御意」
「はいにゃー」

 最後の試練であるドラゴンを倒し七色の雫が入った小瓶をゲットした俺たちは、流れのままに魔法陣の中に入った。
 魔法陣は輝き光の柱を上げる。次の瞬間、俺たちは移動しており、そこは地上だった。
 時間的には昼間で、天気は晴れている。

「ってここは元の場所かよ」

 いま眼前に、数日前に突入した神殿系の遺跡がある。

「どういう事でしょうか。もう帰れと言われているような気がします」

 スカーレットは辺りの様子を窺って言った。

「この状況だと、そう思えるよな」

 試練というのは、最強の剣を餌にした、勇者を強くするための修行だったのかな。
 まんまと釣られたのかも。まあレベル上げになったしお金も稼げたから問題ないけどね。
 ここで一応は色々と考えてみる、なにをどうすればいいのか。
 この時、辺りを見渡しているとある物に気付き、すぐ自分の手の中にある小瓶を見た。

「まさか……確かにテンプレの引っ掛けと言えばそうだけど」

 ドラゴンを倒して手に入れたのが、恐らく石化を解くアイテムだ。
 石碑には『我が最強の剣、ここに眠る』ってあって、その石碑の後ろにあるのは遺跡じゃなく、まずはあの小さな女の子戦士の石像だ。そして試練のモンスターの石像は、石化しているものだった。つまり、七色の雫でドワーフ戦士の石像の石化を解けってことか。それこそが最強の剣、最強の仲間ってことだ。そうに違いない‼
 ……だが待てよ、ここで冷静になって考えねばなるまい。

「ご主人様は何か分かったのにゃ」
「あぁ、一応な。でもちょっと待ってくれ、色々と考えたい」

 このままの流れで石化を解いたら面倒なことになるんじゃないの。だって俺が仲間にして連れて帰らなきゃいけないんでしょ。復活させたのにスルーとかは無理っぽい。そんなことしたらボコボコにされて、アンジェリカみたいなストーカーになりそう。
 考えただけで超怖いよ。どうしよう……。
 何もせず放置して帰るのもありなんだけど。レベルも上がったし、色々と売れる原料も手に入った。何より石化を解くアイテムって超レアっぽいし使わずに売れば凄いお金になりそう。
 そもそも俺チート超人だから、最強の剣とか仲間いらないし。
 本当にどうすればいいんだ……。
 見た感じドワーフだよな。同族だし、やっぱこのままは可哀想か。俺が元に戻さなかったら永遠に石のままかもしれないし。
 ……仕方がない。石化を解いてやるか。まあ仲間になるとも決まってないしな。まずは石化を解いて話をしてから考えよう。

「最強の剣ってあるけど、剣のことじゃなかったんだよ。そこのドワーフ戦士の石像のことだ」
「なるほど。じゃあそのアイテムで石化を解けということですね」
「そうなるな。復活させて仲間にすれば、最強の剣に匹敵するほど強いってことだと思う」
「凄いのにゃ。あの石像は生きているのにゃ」
「いったいどのぐらい前から石になってたんでしょうか。自分がそうなると考えたら、かなり怖い事に思えます」
「そうだよな、どんな訳ありだろうと、石になるなんて怖いよな。とにかくこの雫で、石化を解いてやろう」

 石像の周りは花畑になっており、できるだけ花を踏まないように近付き、小瓶に入っている七色の雫を頭から垂らした。
 小さな女の子戦士の石像は光の塊となり、強烈な閃光を放出する。
 少し離れて復活を見守っていると、物の数秒で光は粒子となり飛び散って消え、完璧に石化が解けた。
 まだ魔法の力が消えておらず謎の少女の体は淡い光に包まれており、その力がバランスを取って倒れずにいる。恐らく目覚めるまではその光は消えない仕組みだろう。

「にゃっ、目を開けたのにゃ。お人形みたいな美少女なのにゃ」

 元の姿に戻った謎の女の子戦士は、ゆっくりと目を開けた。その大きな瞳は綺麗な紫色だった。
 まだ意識があるのか分からない状態で、ボーっとしている。
 少女の顔で判断するなら小学五年生ぐらいの見た目で、身長は140センチと小柄だ。これはドワーフだからだと思う。
 年齢だけど、ドワーフは人間と違って寿命が長いので見た目が幼くてもロリババアの可能性が高い。
 謎のドワーフ少女は色白で、髪は薄い紫色の超ロングヘア、服装は白系のロリータファッション、その上に白と金を基調としたプレートアーマーと盾、腰に大きな魔石のついた、聖剣のような派手な剣を装備している。兜は額と側面と後頭部だけで顔や頭は出ているタイプだ。
 程なくして少女は意識を取り戻したようで、目の焦点が合うと俺たちの方を見た。
 少女は驚くこともなく、すぐに状況を把握したように思える。そして俺の事を凝視している。この時、少女の体を包んでいた光が消えたので完全に目覚めたはずだ。

「あの……俺は秋斗っていうんだけど、君は記憶とかはちゃんとあるのかな?」
「はい、あります」

 謎の少女は可愛い声で小さく発した。
 良かった、コミュニケーションは取れるようだ。

「君の名前は?」
「今の私には、もう名前はありません」

 謎の少女はまだ俺の事をずっと見ており無表情で言った。
 以前は名前があったような言い方だけど、訳ありでもう使わないってことなのか?

「そ、そうなんだ……え~っと、君がどこの誰でとか石像になってた理由とか、この遺跡ダンジョンの試練を誰が何のために作ったとか、目覚めてすぐで悪いんだけど、教えてもらえるかな」
「私は暗黒大陸タルタロスで生まれ育ったドワーフ族の戦士で、とある勇者様と賢者様にお仕えしていました」

 暗黒大陸って聞いたことあるぞ。確かこの世界の中で一番、魔王やモンスターが生まれ出る不安定な場所のはずだ。
 それでだ、ドワーフっ子は淡々と過去にあった全てを話してくれた。
 長くて複雑だけど、話を簡単にまとめるとだな、てか一言でいうと失恋したのが原因だ。
 この子が入っていた勇者パーティーが魔王を討伐した後、異世界から召喚された勇者は当然、自分の世界に帰ろうとする。その時にこの子は一緒に行こうとしたけど、それはできなかった。しかも勇者は知らない間に帰ってしまった。つまり完璧に振られたわけだ。
 何も言わず放置して帰るとか、その勇者は訳ありで急いでいたのか、この子が好みじゃなくて面倒だったんだろうな。いや、普通に考えたら異世界人を連れて帰るとか無茶苦茶すぎる。そんな事するバカはいない……ってすぐ側にいたぁーーっ‼ 我が家の大バカオヤジがっ‼

 で、勇者が帰ってからは途方に暮れて、生きる気力も失っていたらしい。そんな時に賢者が「お前の力はいつか必要となる日が来る。だから真に強き者が現れるまで眠りにつくといい」と言ったらしい。
 勇者に振られ戦う相手も居なくなり、目的を失ったこの子は賢者の提案に乗り、魔法で石像になって時間を止めることになる。
 それで賢者がこの遺跡ダンジョンと大規模な試練の仕掛けを造った。
 とまあ、ここまではこんな感じの話だ。

「俺は何も知らずに復活させちゃったけど、今はどうなの、生きる気力はあるの?」

 なにこの会話、物凄く面倒臭い。

「はい。もう大丈夫です。実は眠る前にはもう、それほど落ち込んではいなかったので」

 可愛い声だが相変わらず小さくて、あまり感情が乗っていない。顔も無表情に近いかも。
 しかし女は切り替えが早いというのは本当のようだ。男の方が未練たらたらで、女々しいってよく聞くからな。

「それならいいけど。でもさぁ、じゃあなんで石になることを選んだの。それってけっこう辛い事じゃないの」
「あの頃はもう本物の魔王がおらず……あっでも、一人だけ強い魔王がいましたが、賢者様のお気に入りだったので戦うことはありませんでした。とにかく私の戦士としての役目はなくなったのです」
「だからって、普通は石にならないでしょ。戦うだけが人生じゃないんだから」
「それはそうですが、あの時は賢者様が、私やのちの世の事を思い、色々と準備をしてくれていて……その……」

 どうやら賢者に問題ありのようだな。

「はっきりと、本当の事を言ってもいいよ、その賢者とやらはここに居ないし」
「なんだか賢者様が楽しそうにしていたもので、もう落ち込んでいないし大丈夫です、とは言えなかったんです。ダンジョンに入れるモンスターを造ったり、仕掛けをどうするかとか、本当に楽しくしていたので」
「それで気を使って最後まで言い出すことができず石になった訳か」
「はい、その通りです。でも石化は眠るだけなので、苦しむこともありませんし」
「そういう問題じゃないような。てか家族とかはいたんじゃないの」
「私は賢者様に拾われて育ててもらったので、家族などはいません」

 そういう恩義のある関係か。更にこの世界ではドワーフは身分が低いし人間には逆らえないよな。
 ホンとこの子は空気の読める優しい子だ。こんないい子を放置して帰るとか、どこの勇者か知らないが許せんな。機会があったら俺が一発入れてやるぜ。
 後ノリノリで遊んでた賢者もまだ生きてたらフルボッコの刑だ。
 何がのちの世のためだよ、遊び心ありすぎ通り越して完全に鬼畜だ。流石は異世界と言うべきか。





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