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二章

「ダンジョン合宿と謎の石像」その⑧

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「……これからどうしようか」
「私を蘇らせることができるのは真の強者のみ。故にあなた様こそが、私が仕えるべき次の主。どうか名前を与え、あなた様の剣としてお使いください」

 ですよねぇ、そんな流れになりますよね。
 まあ居候が一人増えてもあまり変わらないからいいけどな。バトルに関してはスカーレットより役に立ちそうだ。なんと言っても魔王討伐した伝説のパーティーの一人だからね。
 でも本当に俺でいいのかな。最後まで試練をクリアしたのは確かに俺だけど、発見したのは偶然だし、色々と賢者が用意した手順を無視してるだろうから。

「仕えるって言っても、いま会ったばかりで、俺がどんな人間かも知らないよね。そんなのでいいの、君の自由にしていいよ。旅に出るとか住みたい場所を探してそこで生活するとか」
「自由にしていいと言われても、私にはよく分かりません」

 これまでずっと賢者に命令されて生きてきたから、奴隷たちのように自分の考えがないんだろう。

「じゃあこうしよう。ちゃんと状況を把握するまでは俺と一緒に居て、そのうちどう生きたいか自分の考えができた時は、誰に遠慮することなく自由にする。それでいいかな」
「……はい」
「あとさぁ、復活させといてなんだけど、戦う目的はないんだけど。いまこの大陸に強い魔王はいないらしいので」
「そうですか、平和なのですね」
「ま、まあね……あとね、俺は勇者じゃなくて商人なので」
「えっ⁉ 商人……ですか?」
「そう、商人」
「ご主人様は訳ありのお忍び勇者様なのにゃ」

 ちょっとクリスさん、余計なことを言わないように、色々と嘘が大きく複雑になるからね。

「バカ猫、ご主人が勇者であることは秘密だ、いい加減に覚えろ」
「はにゃっ⁉ そうだったにゃ。ごめんなさいなのにゃ」
「ただこれだけは言っておく。ご主人は魔王を倒せるほどに強く、歴代のどの勇者よりも偉大だ」

 スカーレットさんまで熱く語っちゃったよ。もう冗談で言った嘘の勇者設定から逃れられない。
 自業自得だが、超めんどくせぇーーっ‼

「事情は分かりました。既にあなた様はどこかの大陸で魔王を討伐し、勇者としての役目を終えた方なのですね」
「ははっ、まあ、そういう事にしておいてもらえるかな」

 ちょっとなにそれ、俺のキャラ設定がどんどん大きくなって怖いんですけど。

「今の俺は魔王討伐とかじゃなく、ごく普通に生活して商売するのが目的だから。まあ、レベル上げやお金を稼ぐために頻繁に冒険はするけど。とにかくそんな感じかな。君はそれでいいの?」
「はい。それで構いません」
「そっか、分かった。じゃあ名前を考えるよ」
「はい。お願いします」

 名前を付けるのってけっこう難しいよな。サクラみたいに見た目から考えよう。
 この子は少し薄い紫色の長い髪が特徴的だけど、こういう色ってバイオレットっていったよな。でもそれだとスカーレットとレットかぶりになるし駄目だな。
 そだ、アイリスだ。アイリスの花と髪の色がよく似ている。普通に名前として良さげなんだが、気に入るか言ってみよう。

「アイリス、って名前がいいと思うんだけど」
「素敵な名前だと思います」
「じゃあ今から君はアイリスだ」
「はい。これからよろしくお願いします。あるじ様のお役に立てるように最善を尽くします」
「おう、よろしくな、アイリス」

 こうしてまた一人、人間じゃない仲間が増えてしまった。
 まあ可愛い女の子だから問題はない。とはいえ中身は魔王を討伐した本物の戦士だけどね。できるだけ怒らせないように観察しよう。まだ性格がまったく分からないし。ただ従順で空気が読める子だとは理解している。

「私はご主人様の一番初めの奴隷、クリスチーナなのにゃ。ご主人様はとっても優しくて強いお方なのにゃ」

 クリスは笑顔でフレンドリーな態度を取った。

「スカーレットだ」

 仲間が増えるのをよく思ってないのか、スカーレットはぶっきらぼうに言った。
 スカーレットは犬系だから、グループ内で上下関係をはっきりさせるために、そういう態度を取ったのかもしれない。

「アイリスという名をいただきました。よろしくお願いします」

 相変わらず声は小さく無表情に近いが、普通に喋るし内向的でもシャイでもなさそうだ。

「俺のことを外で呼ぶ時は、秋斗って名前を使わないでくれ。街に居る時は普通にしてるけど、冒険に出た時は目立たないように、顔や正体を隠してるから」
「はい、承知いたしました。では、あるじ様と呼ばせていただきます」
「分からないことはなんでもクリスチーナに聞けばいいのにゃ」
「はい、そうします」
「それは止めた方がいい。何故ならこいつは本物のバカだからだ」
「またスカーレットちゃんが酷いことを言ってるのにゃ。スカーレットちゃんはいじめっ子なのにゃ。アイリスちゃんも気を付けるにゃ」
「はい」
「苛めじゃなく躾だ、バカ猫‼」
「にゃん⁉」
「とまあ、こんな感じのノリなんだけど、大丈夫そうかな、アイリス」
「はい。楽しいのは好きです。賢者様と勇者様も明るい性格の方でした。それにあるじ様は、なんだか勇者様と雰囲気がよく似ています」
「そうなんだ、勇者と似ているなんて光栄だな」
「ご主人様も勇者なのにゃ」
「おっ、おう、まあな……」

 クリスさん、もうその話しは広げないでね。ホンと空気読めないクリーチャーで困るよ。思ったことすぐ口にするからなぁ。

「アイリス、その鎧とか盾って重いだろ。脱いでもいいよ、俺たちの鞄の中に入れてあげるから」
「いえ、大丈夫です。私の装備は魔法が使われていますので、脱着と収納は念じるだけで瞬間的にできます」
「そ、そう……ちょっとやってみて」
「はい。それでは」

 アイリスがそう言った瞬間、ピカッと全身の装備が光り、剣も盾も鎧も全てが消えた。

「おぉ、スゲー便利だな」
「この封印石のペンダントの中に装備は入っています。魔法の道具袋の応用品だと、賢者様が言っておられました」
「それ、剣だけとか、分けて出せるの?」
「はい、出せます。それに魔法の道具袋のようにも使えます。例えば手に持っている物を念じるだけでペンダントの中へと出し入れできます」
「ってことは、その中に装備以外も色々と入っているわけだな」
「はい。冒険に必要な物は持っています」
「それって高いんだよね」
「はい。賢者様が作った特別な物なので、高価だと思います」

 封印石を魔法の道具袋のように魔改造したのか。しかしこの封印石を持っていれば、上級の魔人族のように自分だけの魔法空間を使えるってことだし、俺もいつか瞬間移動でフルプレートアーマーを装備したいぜ。特撮ヒーローの変身みたいで憧れる。

 因みに鎧を脱いで分かったけど、アイリスは大人のドワーフだ。だってけっこう胸が大きいし。
 クリスはほぼ爆乳に近い巨乳だから比べられないけど、丁度いい巨乳のスカーレットと比べると、アイリスはギリでロリ巨乳といえる。
 てかフリフリのロリータファッションの服が似合い過ぎている。まさにドワーフ族の女の子専用の服でしょ。本当に可愛い。
 この異世界にも昔からロリータファッションがあったとはな。というか、ロリータファッション自体が昔の中世とかを真似たファッションだったかも。

「アイリスはどのぐらい石になってたか、自分で分かる?」
「それは分かりません」
「だよな。ごめん、変なこと聞いた。じゃあ何歳ぐらいなの?」
「申し訳ありません。年齢も正確には」
「そっか。人間以外は寿命が長いから、年齢とか時間の概念あまりないもんな」

 クリスもアンジェリカも見た目は若くても凄い年上だからな。まあ長く生きててもバカで子供のままだけど。

「ご主人、過去に魔王を倒したのなら、街で情報屋に訊けば時期が分かるのでは」
「そうだな。街に帰ったら調べてみよう。で、討伐した魔王の名前は?」
「一番有名な魔王は、アンドレアルガスだったと思います。自ら魔王を名乗っている者たちは、サーロス、ベレト、グシオン、ストラウスです」
「ちょっ、何人いるんだよ、スゲーな。流石に賢者が最強の剣というだけはある」

 いっぱい討伐しまくってるじゃん。もう伝説の勇者パーティーだよ。てか勇者、どんだけやる気満々なんだよ。真面目かっ‼

「勇者様も凄いけど、一緒に戦ってたアイリスちゃんも凄いのにゃ。尊敬するにゃ」
「それは……確かに凄い」

 新人に厳しいスカーレットも認めさせる歴戦の勇士だな。次に冒険に出た時が楽しみだ。いったいどれだけ強いんだろ。
 超人の俺ほどじゃないだろうが、ドワーフだから同じように怪力は標準装備されてるから、パワー系の戦い方かもな。
 この時、俺たちに褒められたアイリスは、ほんの少しだけ照れくさそうにはにかんだ。
 しかし凄い勇者がいたものだ。少しバカにしてたけど、本当に勇者を真面目にやってる奴らがいたんだな。

「なぁアイリス、いまレベルは?」
「戦士レベル91です」
「きゅ、91って、凄いじゃんアイリス」

 おいおい、どうなってんのそれ。そんな高レベルの勇者パーティーなら魔王戦とかでも5ターンで楽々終わるんじゃないの。
 てか裏ボスの魔王がフルボッコで可哀想になる、もうやめたげてレベルでしょ。

「アイリスちゃん凄いにゃ。カッコいいにゃ」
「戦士のレベルをそこまで上げるとは、見事としか言えない。私はその努力を認めるぞ」
「あの……ありがとうございます。皆様のお役に立てるように、一生懸命頑張ります」

 アイリスはまた少し照れた感じに小さな声で言った。
 どうやら俺は、本当に最強の剣を手に入れてしまったようだ。もう冒険でバトルになっても、俺は戦う必要がないかもしれない。こりゃ左団扇で暮らせそうだ。

「そだ、勇者の名前は? 魔王討伐したんだし有名なんじゃないの」
「それはどうかと。目立つのが好きじゃない方だったので、魔王を倒したり誰かを助けても、名乗ったりはしませんでした」
「ご主人様と同じなのにゃ」
「勇者様の名前は、タケヒコ様です」
「へぇ~、タケヒコ……」

 俺と同じ日本人か……んっ?
 タケヒコって、武彦か? ちょっと待てよ、それ父親の名前なんだけど……。
 まさかな。よくある名前だもんな。

「フルネームって分かるかな」
「確か……スーズッキー、だったかと」

 はいキタ鈴木‼
 いや待て待て、鈴木なんて日本でナンバーツーのビッグネーム、かぶることも大いにある。

「どんな感じの人だった?」
「細身の長身で、厳格そうな顔なんですけど、性格は明るくて、仲間と騒ぐのが好きなお調子者、という感じです」

 う~ん、鈴木家の父さんっぽいなぁ。そのままというかなんというか。もう嫌な予感しかしない。

「顔に特徴とかは。例えばホクロとか」
「ありましたホクロ。小さいですが左目の下と右の口元に」
「へぇ~、そうなんだ」

 はい確定ぃぃぃぃぃっ‼
 それもう絶対にオヤジぃぃぃぃぃっ‼
 てかあのクソオヤジ、嘘つきやがったな。ガチ中のガチで勇者やってんじゃねぇかよ。なにが勇者やらずに恋愛にどっぷりつかって駆け落ちしただよ。
 しかしあの父さんが魔王討伐したとか信じられんぜ。いったい召喚時に女神から、どんな凄い主人公補正を与えられてたんだよ。俺なんてゼロだからな。チュートリアルもなく放置されて、何もかも自力だっての。
 それにしても、どのタイミングで母さんと知り合って恋人になってたんだろ。ただアイリスには本当の事は、俺がその勇者タケヒコの息子だとは言えない。
 だってアイリスは一緒に行きたかったのに封印されて、同じドワーフの母さんは連れて帰ってるんだもん。これは傷つくだろ。
 口が裂けても言えない。てかクソオヤジ、なにしてくれてんだよ。
 なんだか急に物凄く疲れたかも。当然か、強いモンスターと戦いまくったもんな。

「ここで立ち話もなんだし、今回の冒険合宿はこれで終わりにして、我が家に帰るとするか」
「御意」
「はいにゃー」
「はい」

 だが今どこの森に居るのか分からないので、とりあえず南か南東へ向かい歩いた。
 数時間ほどで運よく、冒険者の護衛付きの荷馬車の隊列と出会い、行き先がゴールディーウォールだったので乗せてもらった。
 この後は何事もなく、すんなりと街まで帰ってこれた。本当に色々あったが、こうしてまた予期せぬ大冒険を無事に終えた。


 後日談だが、情報屋のサクラと話した時に勇者タケヒコや魔王の事を訊いたが、どうやら別の大陸の話のようで、詳しく調べないと分からないとのことだった。
 ただ一番有名とアイリスが言っていた、アンドレアルガスはサクラも聞いたことがあり、討伐されたのは百年以上も前らしい。
 召喚勇者はこっちに何年いても、帰る時には魔法の力で元の時間軸に戻れる。だから二つの世界の時間の流れ方が同じなのか違うのか、正確には分からない。
 でも父さんが帰ってからは二十数年ぐらいだ。なら二つの世界は時間の進み方にズレがあると考えられる。父さんが居た頃より百年ぐらい経ってる世界みたいだし、色々と時間軸や流れ方に複雑な法則や違いがありそうだ。
 召喚される人によって時間にズレがある可能性も考えられる。百年以上前から冒険者とか職業、レベル設定とかあるわけだしな。現代の奴が過去の時間に勇者召喚されているかもしれない。
 父さんのデータしかないけど、時間のズレが二つの世界は五倍ぐらいありそうだ。俺が向こうに帰った時に父さんより年上になってる可能性がある。それは流石に考えただけで気持ち悪い。まあ今は深く追究するのは止めよう。
 俺は腰掛の勇者召喚じゃなく完全な移住者だから、あまり時間の流れは関係ないはずだ。

 更に話を変えて、サクラに面白い伝承や噂話がないか聞いた。
 その時の会話はこんな感じだ。

「親が子供に聞かせる童話なんですけど、魔王討伐した賢者がいて、大陸の様々な場所に秘密の地図を隠すんです。勇者は仲間たちとその地図を幾つもの国やダンジョンなどに行って集めます。すると指定された森の場所が分かり、そこにある鍵を手に入れます。鍵を持つ者は知恵と力の試練を受けることができ、その試練を全てやり遂げた者は、魔王と戦える最強の剣を手にする。という内容です」
「へ、へぇ~、そんな話があるんだ」

 なるほどな。まずは地図を集めるというテンプレがあったわけか。

「賢者の話を参考に作られた物語ですけど、吟遊詩人が歌にもしているんですよ」
「そうか、本当に有名な話なんだな」
「で、ここからが有料情報ですけど、聞きますか旦那。実はいま話したことに、少しは関係あるかもしれないんですよ」
「ん~っと、まあ一応は聞いておくかな」
「さっき手に入れたばかりの最新情報なんですけど、北の森の狩場から西北西に丸一日ぐらい移動した深い森の中に、突然巨大な岩山が現れたらしいです」
「岩山……それで」
「中心部に行く通路があって、そこには遺跡系の上級ダンジョンがあるんですよ。更に石碑があって『我が最強の剣、ここに眠る』と刻まれてあります」
「へぇ~、さっきの童話と似てるな」
「そうなんですよ。ワクワクしますよね。いま次々に冒険者たちが向かっているようです」
「そ、そうか、そんな事になってるんだ……」

 この会話から分かる通り、また俺が色々とやらかしてしまった影響が早くもでている。
 まあ祭りみたいに盛り上がってるから悪いことじゃないよな。とりあえず見て見ぬ振りをしよう。
 しかしこの街の情報網は凄いよ。あっという間に知られてるし。ただ俺が絡んでいるのは、情報が正確ではないんだよな。
 そう、俺の事が抜けているからだ。異世界スローライフをするためには絶対にバレないようにしないと。
 後はあの試練のダンジョンだが、アイリスの話では誰かがクリアすると魔法の力が発動し、新しい仕掛けやモンスター、それにレアな剣や宝が現れるように、あらかじめ賢者が造っていたらしい。
 なのでいまダンジョンに行っている者たちは、普通に武器やアイテム、経験値が入る冒険ができるわけだ。ただ賢者のダンジョンだし、簡単には攻略できないだろう。
 まさか後々の事まで考えているとは、流石に伝説の賢者だ。レアな剣やお宝がゲットできるなら、もう一度行くのもありだな。
 気が向いた時にでも行ってみよっと。





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