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第三部 学校へ行こう
第二百二十一話 そのお弁当、危険につき①
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愛しい愛しい相手と思いがけない再会をはたした日の夜、ルーシェスは夢を見た。
それはまだ自分が小さかった頃の夢。
シュリと出会った頃よりも、更に幼い頃の夢だ。
ちっちゃなルーシェスは、仲むつまじい両親を見上げて問いかける。
「お母たんとお父たんは、どうしてそんなに仲良しになれたの?」
と。
その問いに答えを返したのは母親の方。
母は、そんなの簡単だわ、と優しく微笑み、
「男の人を夢中にさせたいなら、胃袋を掴むのが一番の近道よ」
そう言って、父親の顔を幸せそうに見上げた横顔が印象的だった。
そうか、好きな人と仲良くするには、胃袋を掴めばいいのか……胃袋を掴むという意味もまだよくわからないまま、幼いルゥの脳裏にその言葉は刻み込まれた。
ゆっくりと夢の淵から浮上して、ルゥは思う。
そうか、胃袋を掴むのか……と。
幼い頃と違い、その言葉の意味も今は正しく理解できている。
胃袋を掴む……すなわち、手作りのおいしい料理を食べさせて、己の手料理の虜にしてしまえばいいわけだ。
ルゥは、よし、と頷き起きあがる。
そして手早く身支度を整えると部屋を出て、キッチンにいるであろう母親の元に向かった。
シュリを虜にする、手作り弁当の作り方を教えて貰うために。
そして、あっという間に一週間がたった。
今日、ルゥは一週間の特訓の成果を持って、シュリに勝負を挑む。
朝から格闘し、出来上がった弁当にしっかりと蓋をして、可愛らしい布でしっかり包んでから大事に鞄にしまう。
その様子を、何とも言えない表情で見守っている父親は、なぜかやつれた頬でその表情も精彩を欠いた。
彼は、どう言ったものかと迷う様子を見せた後、
「ル、ルゥ?お、お父さん、ちょっと思うことがあるんだが、お父さんの話を聞いてくれるかい?」
決死の覚悟でそう声をかけた。
そんな父親の言葉に、シュリのためのお弁当が入った鞄を幸せそうに見つめていたルゥは、不思議そうな顔で父親の顔を見上げる。
「いいけど、なに?お父さん」
「あ~、その弁当なんだが、それ、本当に今日、好きな子に食べて貰うのかい?」
「うん。そのつもり。一週間がんばって練習したから、ずいぶん腕も上がったし。あんまりのろのろしてると、他の女に先を越されちゃうし」
「そ、そうか……」
「それがどうかした?」
「いや、そのな?お父さん、ルゥがこの一週間すごくがんばっていたのは知っているつもりだ。ルゥのしっぱいさ……手料理もいっぱいごちそうになったしね。確かに、一週間前から比べるとずいぶんまし……いや、上手になってきたけど、他の人に食べて貰うのはもう少し練習を重ねてからにしたらどうだろうな?」
言葉を選び選び、お父さんはルゥの説得を試みる。
いまだゴロゴロするお腹が苦痛を訴える現状で、その原因とも言える代物を幼い子供に食べさせるのはどうだろうと思ったからだ。
それに、そんな劇物を好きな相手に食べさせて、万が一ルゥが振られてしまっても可哀想だという気持ちもあった。
だが、ルゥにそんな繊細な親心が通じることはなく、
「お父さん……」
「なっ、なんだい?」
「そんなに心配しなくても、お弁当、お父さんの分も作ってあるから大丈夫だよ」
そう言って、ルゥは父親用に作っておいた弁当を手渡す。
父親は、実に複雑な表情でその弁当箱を受け取った。
「あ、ああ。わざわざすまないね……」
「じゃあ、僕、もう行かないと。お父さん、お母さん、いってきます」
父親に弁当を手渡すと、ルゥは弁当をシュリに渡すのが待ち遠しいとばかりにそそくさと登校してしまった。
父親がそれ以上の言葉を挟む隙など無く。
うきうきと学校へ向かう娘の後ろ姿を、父親は複雑な表情で見送り、
「だ、大丈夫なのか……今日の弁当は……?」
傍らで同じように娘を見送る妻にそう問いかけた。
この一週間、ルゥに料理を仕込んでいた母親の表情もまた、どこか浮かないもので、彼女は夫の問いに、
「ええ……たぶん……」
自信なさそうに答える。
「ま、まさか、人死にがでるような事は、さすがに、な、ないよなぁ?」
「いやぁねぇ。さすがにそれは大丈夫よ」
「だよなぁ。なんといっても料理上手の君がつきっきりで一週間しっかり仕込んだんだものな」
「……一応、人が食べられる素材しか使ってないもの。きっと、大丈夫なはずよ!」
ちょっと心配しすぎたかな、と笑い声をあげようとした父親は、続く母親の言葉でフリーズした。
二人はしばし無言で見つめ合い、そして思う。いや、心の底から願った。
どうか、今日娘のお弁当を食べる子の胃が人並み外れて頑丈でありますように、と。
それはまだ自分が小さかった頃の夢。
シュリと出会った頃よりも、更に幼い頃の夢だ。
ちっちゃなルーシェスは、仲むつまじい両親を見上げて問いかける。
「お母たんとお父たんは、どうしてそんなに仲良しになれたの?」
と。
その問いに答えを返したのは母親の方。
母は、そんなの簡単だわ、と優しく微笑み、
「男の人を夢中にさせたいなら、胃袋を掴むのが一番の近道よ」
そう言って、父親の顔を幸せそうに見上げた横顔が印象的だった。
そうか、好きな人と仲良くするには、胃袋を掴めばいいのか……胃袋を掴むという意味もまだよくわからないまま、幼いルゥの脳裏にその言葉は刻み込まれた。
ゆっくりと夢の淵から浮上して、ルゥは思う。
そうか、胃袋を掴むのか……と。
幼い頃と違い、その言葉の意味も今は正しく理解できている。
胃袋を掴む……すなわち、手作りのおいしい料理を食べさせて、己の手料理の虜にしてしまえばいいわけだ。
ルゥは、よし、と頷き起きあがる。
そして手早く身支度を整えると部屋を出て、キッチンにいるであろう母親の元に向かった。
シュリを虜にする、手作り弁当の作り方を教えて貰うために。
そして、あっという間に一週間がたった。
今日、ルゥは一週間の特訓の成果を持って、シュリに勝負を挑む。
朝から格闘し、出来上がった弁当にしっかりと蓋をして、可愛らしい布でしっかり包んでから大事に鞄にしまう。
その様子を、何とも言えない表情で見守っている父親は、なぜかやつれた頬でその表情も精彩を欠いた。
彼は、どう言ったものかと迷う様子を見せた後、
「ル、ルゥ?お、お父さん、ちょっと思うことがあるんだが、お父さんの話を聞いてくれるかい?」
決死の覚悟でそう声をかけた。
そんな父親の言葉に、シュリのためのお弁当が入った鞄を幸せそうに見つめていたルゥは、不思議そうな顔で父親の顔を見上げる。
「いいけど、なに?お父さん」
「あ~、その弁当なんだが、それ、本当に今日、好きな子に食べて貰うのかい?」
「うん。そのつもり。一週間がんばって練習したから、ずいぶん腕も上がったし。あんまりのろのろしてると、他の女に先を越されちゃうし」
「そ、そうか……」
「それがどうかした?」
「いや、そのな?お父さん、ルゥがこの一週間すごくがんばっていたのは知っているつもりだ。ルゥのしっぱいさ……手料理もいっぱいごちそうになったしね。確かに、一週間前から比べるとずいぶんまし……いや、上手になってきたけど、他の人に食べて貰うのはもう少し練習を重ねてからにしたらどうだろうな?」
言葉を選び選び、お父さんはルゥの説得を試みる。
いまだゴロゴロするお腹が苦痛を訴える現状で、その原因とも言える代物を幼い子供に食べさせるのはどうだろうと思ったからだ。
それに、そんな劇物を好きな相手に食べさせて、万が一ルゥが振られてしまっても可哀想だという気持ちもあった。
だが、ルゥにそんな繊細な親心が通じることはなく、
「お父さん……」
「なっ、なんだい?」
「そんなに心配しなくても、お弁当、お父さんの分も作ってあるから大丈夫だよ」
そう言って、ルゥは父親用に作っておいた弁当を手渡す。
父親は、実に複雑な表情でその弁当箱を受け取った。
「あ、ああ。わざわざすまないね……」
「じゃあ、僕、もう行かないと。お父さん、お母さん、いってきます」
父親に弁当を手渡すと、ルゥは弁当をシュリに渡すのが待ち遠しいとばかりにそそくさと登校してしまった。
父親がそれ以上の言葉を挟む隙など無く。
うきうきと学校へ向かう娘の後ろ姿を、父親は複雑な表情で見送り、
「だ、大丈夫なのか……今日の弁当は……?」
傍らで同じように娘を見送る妻にそう問いかけた。
この一週間、ルゥに料理を仕込んでいた母親の表情もまた、どこか浮かないもので、彼女は夫の問いに、
「ええ……たぶん……」
自信なさそうに答える。
「ま、まさか、人死にがでるような事は、さすがに、な、ないよなぁ?」
「いやぁねぇ。さすがにそれは大丈夫よ」
「だよなぁ。なんといっても料理上手の君がつきっきりで一週間しっかり仕込んだんだものな」
「……一応、人が食べられる素材しか使ってないもの。きっと、大丈夫なはずよ!」
ちょっと心配しすぎたかな、と笑い声をあげようとした父親は、続く母親の言葉でフリーズした。
二人はしばし無言で見つめ合い、そして思う。いや、心の底から願った。
どうか、今日娘のお弁当を食べる子の胃が人並み外れて頑丈でありますように、と。
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