♀→♂への異世界転生~年上キラーの勝ち組人生、姉様はみんな僕の虜~

高嶺 蒼

文字の大きさ
356 / 545
第四部 王都の新たな日々

第308話 入学式の朝~生真面目生徒会長の受難~③

しおりを挟む
 パスカルはその背中を呆然と見送って、疲れ果てたような吐息を漏らした。
 もうこのまま、家に帰って休みたい、そんなことを思いつつ。

 だが、来賓の案内はまだ終わらないし、この後の入学式でも生徒会長としての挨拶がある。
 どうあってもまだ帰るわけにはいかない、と再び肩を落とし、だがすぐにまた背筋をぴんと伸ばした。
 生徒会長として、他の生徒達に情けない姿をさらすわけにはいかない、という自負からだ。
 そうやって、しっかりと生徒会長の仮面をかぶり直しつつ、


 (シュリナスカ・ルバーノ君か……)


 パスカルは立て続けに情報を得ることになった少年について思いを馳せる。


 (確か、今年の特待生の1人だったな。確か、まだ10歳に届かないくらいの年齢だと聞いてはいるけど。でも、そんなに幼くして王立学院に入学なんて聞いたことがない。よほど優秀な子なんだろうけど、それにしても)

 「男も惚れさせる程すごく可愛くて、大人な女も愛人にするほど魅力的な少年、か。一体どんな子なんだろうな」


 小さくつぶやき、そのままその少年のことをぼんやり考えていると、


 「え、お母さん。このまま行っちゃうの? 受付とか、した方がいいんじゃないかな?」

 「別に構わんだろう? 場所は、ヴィオラやアガサの匂いのする方へいけば問題ないだろうし」

 「そ、そういう問題じゃなくて。ほら、受付っぽいところもちゃんとあるよ? 受付、しとこうよ」

 「いやだ。面倒くさい」

 「面倒くさいって。でも、勝手なことをしてシュリの迷惑になったら困るよ」

 「シュリはそんなちっちゃいことで目くじらを立てるような男じゃないさ。ほら、いくぞ」

 「ちょ、引っ張らないでよ、お母さん~」


 そんな会話が耳に飛び込んできた。
 慌ててそちらを見れば、丸っこい耳の背の高い獣人の女性と、その彼女をぐいぐいと引っ張るとんがった猫耳の背の低い獣人の女性の姿が見えた。

 そうして見る分には2人の間にそれほど年の差を感じられず、まるで姉妹のようにも見えたが、手を引っ張られている方の女性がもう1人をお母さんと呼んでいる。
 ならば、そういうことなのだろう。

 今日は初っぱなから、全然おばあちゃんに見えないおばあちゃんを見ていることもあり、すっかり達観しているパスカルは、姉妹のような親子にさほど驚くこともなく、その姿を目で追いかけた。
 すると、パスカルのその視線に気付いたのか、背の高い、恐らく娘さんの方の獣人の女の子が、ぱっとパスカルの方を見た。
 そして、救いを得たように表情を緩め、


 「ほら、お母さん。あそこでこっちを見てる人に聞いてみようよ」

 「え~……面倒くさい」


 今度は彼女の方が、背が小さい方の母親を引っ張ってパスカルの方へやってきた。


 「すみませ~ん、ちょっとお聞きしたいんですけど」

 「もしかして、シュリナスカ・ルバーノ君、ですか?」


 その親子の姿に、先に案内した2人と同じ匂いを若干感じたパスカルは、そう尋ねてみる。
 すると、図星だったようで、背の高い娘さんの方が目をまあるくした。


 「えっと、どうして分かったんですか?」

 「いえ、先ほど、シュリナスカ・ルバーノ君の入学式に来たというご婦人をお2人、ご案内したところでしたので」

 「ヴィオラとアガサだな。ほらな、ジャズ。私の言った通りだったろう? あいつ等は絶対来てると思ってたんだ。だからあいつ達の匂いのするところへ行けば、案内なんて無くても行き着けたのに」

 「お母さんってば、行けるからって勝手に行っちゃだめなんだよ。ちゃんと受付とか許可をもらわなきゃ」


 ですよね、とこちらを見た娘さんに、パスカルは苦笑を浮かべつつ頷いて見せる。


 「そうですね。身分証明と生徒との関係についての聞き取りだけはさせて頂いています。不審な人物が、勝手に入り込まないように」

 「ほらね、お母さん。えっと、身分証明は冒険者証とかでいいんですか?」

 「ええ、結構です」

 「わかりました。ほら、お母さんも出して」


 言いながら、娘さんの方は胸元ではなく、小物を入れてあるらしい小さな肩掛け鞄に手を入れたので、パスカルはほっとする。
 だが、ほっとしたのも束の間。


 「冒険者証か。仕方ないな。確か、この辺りに」


 言いながら、背の小さい母親の方は、背が小さいのに見事なまでにボリューミィな胸元にぐいっと手を突っ込んだ。
 油断していたパスカルは、思わず思いっきりのぞき込んでしまい、目をむいた。
 人目を気にしない大胆な手の動きに、うっかり先っちょまで見えそうになって、パスカルは真っ赤になって慌てて目をそらす。

 そして、そらした視線の先に、さっき向こうへ行ったはずの想い人の姿を見つけて絶望的な表情になる。
 生徒会書記の彼女は、愛らしくも生真面目そうな顔を冷たく凍らせてパスカルの醜態を見ていた。


 (ミュ、ミューラ君、ち、ちがうんだ。ちがうんだよぉぉ)


 心の中で叫ぶが、そんな心の声が彼女に届くはずもなく、彼女はぷいっとパスカルから顔を背け、再びどこかへ行ってしまった。
 その背中を泣きたい気持ちで見送るパスカルの耳に、


 「ん? お、あったぞ。これでいいのか?」


 胸元を探っていた母親の方の言葉が届く。
 心なしか丸まった背中で彼女達の方へ顔を戻したパスカルは、しおしおと2人の冒険者証を確認した。 


 「えーと、ジャズ・マーメット様とナーザ・マーメット様、ですね? ジャズ様がお嬢様、ナーザ様がお母様ということでまちがいないでしょうか?」

 「お、お嬢様。なんだか呼ばれなれてなくて照れますけど、はい、そうです。あ、あと、できれば、もう少し砕けた感じでお願いできませんか? なれてないからこそばゆくて。せめて、様、ってつけるのだけでもやめてもらえると」

 「了解しました。え~、それで、お2人の冒険者ランクは、ジャズさんがDランク、ナーザさんの方は……S、ですね。Sランクの冒険者様であれば、身元の証明は十分です。ジャズさんも、ナーザさんの娘さんですから問題ありません」


 本日3人目の高ランク冒険者に、もう驚く気力も使い果たしたパスカルが淡々と告げる。


 「ん、そうか。なら、もう行ってもいいな?」

 「その前にもう1つ。シュリナスカ・ルバーノ君との関係性は?」


 言うが早いか、さっさと歩きだそうとするナーザを呼び止めて問いかける。
 彼女は面倒くさそうに振り返り、


 「関係性ぃ~? 本当に必要なのか? それ」


 疑わしそうにパスカルに問い返した。
 だが、パスカルは動じることなくうなずき返し、


 「はい。みなさん、お答えいただいてますよ」


 よどみなく答える。


 「ヴィオラも、アガサもか?」

 「もちろんです。ヴィオラ・シュナイダー様はシュリナスカ君のおばあ様、アガサ・グリモル様はそのおばあ様のご友人で、シュリナスカ君の愛……いえ、何でもありません」


 つい流れでうっかり愛人、と言いそうになり、パスカルは慌てて言葉を濁した。
 だが、ナーザはその言葉の先を正確に予測してしまったようで、にやりと笑い、


 「なんだ? アガサのヤツは自分がシュリの愛人とでも言ったのか?」


 そんな指摘をしてきた。


 「いえ、そ、そこまでは。ただ、シュリナスカ君の愛人の地位をねらっている、というような趣旨のことはおっしゃってましたけど」

 「なるほどな」

 「ア、アガサさんもそうだったんだぁ」


 パスカルの言葉に、母親は再びにやりと笑い、娘は初耳だと言うように驚いた顔を見せる。


 「そういう理由でも平気なのか。それなら……」


 ナーザはそう言い、自分より背の高い娘の肩を抱き寄せた。


 「私の娘はシュリの嫁候補だな。私は、流石に嫁候補とは言いにくいが。まあ、2度目だしな。愛人候補とでも言っておくか」

 「よっ、嫁! 愛人!? 親子揃って!!」

 「因みに、一応私もシュリのばーさんのヴィオラとは友達だ」

 「は、はあ……」


 目を白黒させるパスカルをからかうように、にっと笑ったナーザは、


 「これでいいな? もういくぞ」


 そう言うが早いか、娘の手を引き、さっさと歩き出す。


 「あ、あの。案内は……」

 「必要ない。ヴィオラとアガサの匂いを追えばいいだけだ」


 そんな彼女達の背に慌てて声をかけたパスカルに、ナーザは事も無げにそう返し、ひらひらと手を振った。
 娘の手を引きながら歩くその背中はあっという間に見えなくなって、それを見送ったパスカルは1人思う。


 (……つ、疲れた。もう、帰っちゃだめだろうか)


 と。だが、生徒会長という地位が彼をがっちり縛っており、勝手に帰る訳にはもちろんいかない。
 ぬぐぅ、と何とも言えないうめき声を漏らし、パスカルは魂までも吐き出してしまいそうな程の大きなため息をついたのだった。
しおりを挟む
感想 221

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜

昼寝部
ファンタジー
 2XXX年、X月。  俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。  そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。  その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。  俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。  これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...