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第三→四部 旅路、そして新たな生活
間話 『猫の遊び場亭』改め『キャット・テイル』にて③
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「ナーザさん、ジャズ! アレは確かにやばい!!」
宿の最上階。家族と従業員の住居があるフロアで。
ナーザとジャズの部屋の扉を、ノックの返事も待たずにあけたサギリは叫ぶようにそう言った。
リビングでくつろいでいたナーザとジャズは、突然の闖入者に驚いた様子も無く彼女を見返し、
「ん? どうしたんだ、サギリ。やばい奴、とは穏やかじゃないな。ならず者か? ならず者だな! うちの宿が美女揃いだという噂を聞きつけたならず者がとうとうやってきたって事か」
地道な宣伝がやっと実を結んだなぁ、とティーカップを傾けながらナーザがほくそ笑む。
ハクレンを追い出してから宿のリニューアルをはかり、臨時従業員のジャズを含め女3人で運営する宿だからと、美女のおもてなしの宿として打ち出したのがつい先日。
元々赤字経営気味だったため、宣伝費をかけることが出来ず、口コミのみを当てにして頑張っていたのだが、その口コミがようやくならず者の耳にも届くようになったのかと、ナーザは感慨ひとしおだった。
まあ、ならず者に退去して来られても困るのだが、口コミが全く身を結ばないよりは幾分マシだろう。
最悪、ならず者は強制排除をすればいいだけのことだしな、と物騒な事を考えつつ、対処の為に立ち上がろうとしたナーザより早く、
「ならず者? じゃあ私が行くよ?」
己の愛剣に手を伸ばしながらジャズが返し、即座に立ち上がる。
そんな愛娘を見上げ、
「ふぅん。いっちょ前に冒険者らしい顔をするようになってきたじゃないか」
ちょっとからかうようにそう言って、ナーザはニヤニヤ笑った。
そんな母親を見返し、ジャズは子供っぽく唇を尖らせる。
「まだ養成学校へは通ってるけど、冒険者登録もしてるし、ちょっとは冒険だってしてるんだから。まあ、現役時代のお母さん達に比べたらまだまだだけどさ」
「現役時代の私達と比べたら、Aランクの冒険者だってまだまださ。ま、せいぜい頑張りな、ひよっこ冒険者」
ナーザはにんまり笑ってソファーに背を預け、再びティーカップを傾ける。
どうやら、ならず者のお相手は、駆け出し冒険者の娘に任せる方向性のようだ。
(経験ってのは大事だからな。もし危なくなっても、ここからならすぐ駆けつけられるし。ま、問題ないだろ)
内心の思いは、十分に過保護なものだったが。
そんな母親の期待に応えるようにジャズは力強く頷くと、
「わかった。任せてよ。じゃあ、サギリ、行こうか。ならず者はどこ? 受付のところかな?」
その顔を、サギリの方へと向けた。
母娘のやりとりを、ぽかんとした顔で見ていたサギリは、己へ向けられた視線にはっとして、
「や、あの。ち、違くてですね。やばいって言ってもならず者とかじゃなくてで……」
彼女達の誤解を解くために声を上げる。
「ん? ならず者じゃないのか?」
「え? ならず者じゃないの??」
「違いますよっ! ……いや、ある意味アレもならず者なのか? 恋のならず者、的な??」
「恋の……」
「ならず者??」
サギリの言葉に、訳が分からないと顔を見合わせるナーザとジャズ。
「いや、でも、あんなに可愛らしいのにならず者って表現は微妙か。でも、魂を揺さぶるようなトキメキを問答無用でぶっ込んでくるあの感じは、ならず者と言っても過言では……」
「あんなに、可愛らしい? 可愛らしいならず者なんて存在するのか?? ああいうのは大体においてむさくるしいもんだと相場が決まってるものだろ?」
要領を得ないサギリの言葉に、ナーザは訳がわからんと首を傾げる。
だが、その横でジャズがハッとしたように顔を上げた。
「魂を揺さぶるような、トキメキ……それってもしかして」
ジャズは目をキラキラさせ、がっとサギリの肩を掴む。
「シュリのこと!? もしかして、今、下にシュリが来てるの!?」
「なぬぅ!? シュリが来てるのか!!」
ジャズの言葉を受けて、ナーザもカッと目を見開いた。
2人の想像以上に過剰な反応に、サギリはむしろ冷静さを取り戻しつつ、
「え、あ、はい。今、食堂で待って貰ってて……って、あれ?」
そう言って彼女が頷いた瞬間、2人は音速を超えた。
……というのは言い過ぎだが、サギリの言葉が全て終わる前に、2人の姿は忽然と部屋の中から消えていた。
「シュリ、今行くからねっ!!」
「こらっ、ジャズ! 年功序列を守れ! 私が先に行くんだぁぁっ」
「お母さんってば、大人気ない! 相手がお母さんでも、これだけは譲れないよっ!!」
「それはこっちのセリフだ。相手が可愛い娘でも、これだけは譲れんっ!!」
そんな2人の言い合う言葉と共に、だだだだだだだっ、ともの凄い勢いで階段を駆け下りる音が聞こえ、
「ええっ!? 2人とも、はやっ!!」
サギリは慌てて2人を追いかける。
だが、宿の主とその娘のたてた物音に、外出していなかった各階の泊まり客が一体何事かと顔を出し。
サギリは『大丈夫、何でもないです。ごめんなさい』と頭を下げながら、はた迷惑な母娘を追いかける羽目になったのだった。
宿の最上階。家族と従業員の住居があるフロアで。
ナーザとジャズの部屋の扉を、ノックの返事も待たずにあけたサギリは叫ぶようにそう言った。
リビングでくつろいでいたナーザとジャズは、突然の闖入者に驚いた様子も無く彼女を見返し、
「ん? どうしたんだ、サギリ。やばい奴、とは穏やかじゃないな。ならず者か? ならず者だな! うちの宿が美女揃いだという噂を聞きつけたならず者がとうとうやってきたって事か」
地道な宣伝がやっと実を結んだなぁ、とティーカップを傾けながらナーザがほくそ笑む。
ハクレンを追い出してから宿のリニューアルをはかり、臨時従業員のジャズを含め女3人で運営する宿だからと、美女のおもてなしの宿として打ち出したのがつい先日。
元々赤字経営気味だったため、宣伝費をかけることが出来ず、口コミのみを当てにして頑張っていたのだが、その口コミがようやくならず者の耳にも届くようになったのかと、ナーザは感慨ひとしおだった。
まあ、ならず者に退去して来られても困るのだが、口コミが全く身を結ばないよりは幾分マシだろう。
最悪、ならず者は強制排除をすればいいだけのことだしな、と物騒な事を考えつつ、対処の為に立ち上がろうとしたナーザより早く、
「ならず者? じゃあ私が行くよ?」
己の愛剣に手を伸ばしながらジャズが返し、即座に立ち上がる。
そんな愛娘を見上げ、
「ふぅん。いっちょ前に冒険者らしい顔をするようになってきたじゃないか」
ちょっとからかうようにそう言って、ナーザはニヤニヤ笑った。
そんな母親を見返し、ジャズは子供っぽく唇を尖らせる。
「まだ養成学校へは通ってるけど、冒険者登録もしてるし、ちょっとは冒険だってしてるんだから。まあ、現役時代のお母さん達に比べたらまだまだだけどさ」
「現役時代の私達と比べたら、Aランクの冒険者だってまだまださ。ま、せいぜい頑張りな、ひよっこ冒険者」
ナーザはにんまり笑ってソファーに背を預け、再びティーカップを傾ける。
どうやら、ならず者のお相手は、駆け出し冒険者の娘に任せる方向性のようだ。
(経験ってのは大事だからな。もし危なくなっても、ここからならすぐ駆けつけられるし。ま、問題ないだろ)
内心の思いは、十分に過保護なものだったが。
そんな母親の期待に応えるようにジャズは力強く頷くと、
「わかった。任せてよ。じゃあ、サギリ、行こうか。ならず者はどこ? 受付のところかな?」
その顔を、サギリの方へと向けた。
母娘のやりとりを、ぽかんとした顔で見ていたサギリは、己へ向けられた視線にはっとして、
「や、あの。ち、違くてですね。やばいって言ってもならず者とかじゃなくてで……」
彼女達の誤解を解くために声を上げる。
「ん? ならず者じゃないのか?」
「え? ならず者じゃないの??」
「違いますよっ! ……いや、ある意味アレもならず者なのか? 恋のならず者、的な??」
「恋の……」
「ならず者??」
サギリの言葉に、訳が分からないと顔を見合わせるナーザとジャズ。
「いや、でも、あんなに可愛らしいのにならず者って表現は微妙か。でも、魂を揺さぶるようなトキメキを問答無用でぶっ込んでくるあの感じは、ならず者と言っても過言では……」
「あんなに、可愛らしい? 可愛らしいならず者なんて存在するのか?? ああいうのは大体においてむさくるしいもんだと相場が決まってるものだろ?」
要領を得ないサギリの言葉に、ナーザは訳がわからんと首を傾げる。
だが、その横でジャズがハッとしたように顔を上げた。
「魂を揺さぶるような、トキメキ……それってもしかして」
ジャズは目をキラキラさせ、がっとサギリの肩を掴む。
「シュリのこと!? もしかして、今、下にシュリが来てるの!?」
「なぬぅ!? シュリが来てるのか!!」
ジャズの言葉を受けて、ナーザもカッと目を見開いた。
2人の想像以上に過剰な反応に、サギリはむしろ冷静さを取り戻しつつ、
「え、あ、はい。今、食堂で待って貰ってて……って、あれ?」
そう言って彼女が頷いた瞬間、2人は音速を超えた。
……というのは言い過ぎだが、サギリの言葉が全て終わる前に、2人の姿は忽然と部屋の中から消えていた。
「シュリ、今行くからねっ!!」
「こらっ、ジャズ! 年功序列を守れ! 私が先に行くんだぁぁっ」
「お母さんってば、大人気ない! 相手がお母さんでも、これだけは譲れないよっ!!」
「それはこっちのセリフだ。相手が可愛い娘でも、これだけは譲れんっ!!」
そんな2人の言い合う言葉と共に、だだだだだだだっ、ともの凄い勢いで階段を駆け下りる音が聞こえ、
「ええっ!? 2人とも、はやっ!!」
サギリは慌てて2人を追いかける。
だが、宿の主とその娘のたてた物音に、外出していなかった各階の泊まり客が一体何事かと顔を出し。
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