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第73歩 ランナー

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 保険業Kさんの奥さんが二十歳の時、遠方に向かって
夜の国道を車で走っていた。
Kさんは助手席で気楽に風景を眺めたりしていた。

 ふと気づくと、いつの間にか
車の前をトレーナーにジーンズの少年がマラソン走りしている。

『えっ!』

Kさんが車のメーターを覗き見ると有に60キロはスピードが出ていた。

前方を見ると車のすぐ前に少年がいて背中を向け一心不乱に走っている。

ヘッドライトの光中に懸命に走って持ち上がる足がハッキリ見えている。

 運転している友人は平然としていて少年が見えていないようだ。
『運転中に余計なことは言わないほうがいいだろう』
気遣って黙って座っていた。

少年はしばらく前を走っていたが姿が段々薄くなって見えなくなった。

 Kさんは
「今になって少年を思い出してみると
一度もこちらに振り返らなくて顔を見ることもなく
消えてしまったので、それが良かったと思います」と話してくれた。

 私も、その国道は何度も走って知っているが
周囲は原野ばかりの暗くて淋しい所だったのを思い出し

「その少年どこに向かって走ってたんでしょうね、
家に帰りたかったのな・・・」言うと

 二人共、何だかしんみりした気持ちになった。
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