上 下
19 / 19
3.Ω嫌いのαと、Ωになることを受け入れたβ編

3-5:Ω嫌いのαと、Ωになることを受け入れたβ編5

しおりを挟む
 




 夜通しすると宣言した通り、俺たちは朝になるまで何度も交わっていた。
 全身に鬱血痕とフェロモンを纏わされ、けれど肉体的な負荷は前より軽い。

(本当に俺、Ωになったんだな。でも、もう怖くない)

 俺は抱きしめられたまま、安らかに夢の世界を漂う籠理さんの顔を眺めている。
 目の下に薄い隈があるから、俺がいない間は眠れていなかったのかもしれない。

 ……だからこのまま寝かしてあげたかったけど、今日の俺たちには用事があった。

「籠理さん、起きてよ。β会に謝りに行くんでしょ、一緒に」

 俺は籠理さんを軽く揺さぶり、優しく声をかけて覚醒を促す。
 すると彼は瞼を開き、ぼんやりとした表情で俺を見つめ返してきた。

「ふふ、狭間くんがいる。もう起きるの、怖くありませんね」

 そういうと籠理さんは体を起こし、寝癖がついた髪で嬉しそうに微笑んだ。
 確かに二人で寝てたのに、目覚めたら一人なのは想像より寂しいのかもしれない。

「それは、ごめん。怒ってるわけじゃないんだろうけどさ」
「えぇ、幸せを噛み締めているだけです」

 無遠慮だった過去の負い目から、俺は少し視線を逸らして謝罪する。
 けれど籠理さんは断罪などせず、ただ身を寄せてくるだけだった。

「私を選んでくれたこと、絶対後悔させませんから」

 左手の薬指に口づけられて、俺の耳がじわじわと熱くなるのを感じる。
 籠理さんはその反応に満足したのか、上機嫌で身支度を整えに行った。



 大学の講義が終わる頃に、俺たちは迷惑を掛けたβ会の面々に謝罪してまわった。
 みんな快く許したり、冷やかしたりしてきたが、遊ぶ頻度は少なくなるだろう。

(発情期がある以上、β会に行くのはマナー違反だ。例え受け入れられたとしても)

 あそこは同一体質による気楽さが売りだから、それを絶対に壊したくなかった。
 けれど全ての友情が切れるわけではなく、仲良くしてくれる人も存在する。

「β会には来られなくても、友達だからね。俺達」
「ありがとう鈴木。それにあの時、籠理さんを呼んでくれたのも」

 一番巻き込んでしまった鈴木は、大学に入った時にできた最初の友達だった。
 だから俺に甘い反面、籠理さんには未だ複雑な感情を抱いている。

「この人、俺に頭下げてたからね。なにかあったら連絡してくれって」
「籠理さん、そんなことしてたんだ。知らなかった」

 俺が見ていない間に、籠理さんはβ会の面々に頭を下げてまわっていたらしい。
 肝心の彼は暴露されると思わなかったらしく、気まずそうに視線を逸らしていた。

「狭間っちのこと、本当に大事にしたかったんだと思う。βの時から」
(案外、外から見てる人の方が分かるのかな。こういう関係値って)

 俺たちの関係性は話していたが、彼こそ籠理さんの情を疑っていなかったらしい。
 だから手放しで信頼はできなくても、様子を見守るだけに留めていたようだ。

 そして籠理さんは話題を変えたいのか、珍しく自分から鈴木に話しかけていく。

「そ、そうだ! これから食事に行くんですが、貴方も一緒にいかがですか?」

 これは既に二人で決めていたことだが、鈴木は突然の誘いに目を瞬かせている。
 けれど俺と籠理さんは借りがあったから、以前からそれを返したいと思ってた。

「え、なんで俺」
「相談所のお礼です。三人で、スイーツ食べに行きましょうよ!」

 あそこで鈴木が連絡していなければ、俺はバッドエンドまっしぐらだった。
 だからこれは感謝の印でもあり、籠理さんからの歩み寄りでもある。

「これSNSに上がってた奴じゃん! でもいいの? 俺が混じっても」
「俺も誘おうと思ってたしね、みんなで行こうよ」

 スマホに表示されたカラフルな画像に目を輝かせた友人を、俺も後押しする。
 すると遠慮は消え失せたようで、満面の笑みで部屋に引っ込んでいった。

「じゃあ行く行く! 着替えてくるから、ちょっと待ってて!」
「急がなくていいよ、俺達待ってるから」

 扉が閉まって友人が引っ込むと、屋外とはいえ籠理さんと二人きりになる。
 だから俺は話題を半回転させ、さっきの話を掘り返した。

「でも意外だったな、籠理さんから他の人を誘おうって言い出すなんて」
「貴方の恋人になったんですから、私も人嫌いを治そうと思いまして」

 今日の籠理さんは格好いい服ではなく、柔らかなセーターで身を包んでいた。
 番になってから精神が安定したらしく、牽制するような雰囲気も存在しない。

 ……けれど俺は、その変化をあまり歓迎できていなかった。

「ふぅん、そう。いいんじゃない」
「あれ、お気に召しませんでした!?」

 俺が素っ気なく返事をすると、籠理さんはショックを受けた顔で慌てている。
 でも別に不機嫌なわけじゃなく、ただ何となく面白くないだけだ。

「俺の為に変わろうとしてくれるのは嬉しい。けど人前には出て欲しくない」
「え、え、なんでですか!? 私と恋人だって、知られたくない!?」

 前向きじゃない俺の言葉を、籠理さんはかなり重大に捉えてしまっている。
 しかし俺のせいで振りまわされる彼が可愛くて、思わず笑みが零れてしまった。

「逆だよ、みんなが籠理さんの魅力に気づくじゃん。取られたくない」
「……もしかして、嫉妬してくれてます? 狭間くん」

 籠理さんは俺の顔を覗き込むように、少し屈んだ姿勢で問いかけてくる。
 俺はその質問には答えず、近づいてきた唇に触れるだけのキスをした。

「満面の笑みじゃん。でも仕方ないでしょ、今まで俺だけのだったんだから」
「後にも先にも、貴方だけですよ。私が好きな人は」

 友人が出てくるまでの短い間だけど、身を寄せ合って言葉を交わし合う。
 それどころか背後で手を絡められ、恋人繋ぎにされてしまった。

「私だけのΩ。βの頃から、ずっとお慕いしていました」




 END.

 ---

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
 よろしければ感想、いいね、お気に入り等よろしくお願いいたします!作者が喜びます!
 また別作品に完結済BL作品もあるので、よろしければそちらもどうぞ!
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…? タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。 歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

もし、運命の番になれたのなら。

天井つむぎ
BL
春。守谷 奏斗(‪α‬)に振られ、精神的なショックで声を失った遊佐 水樹(Ω)は一年振りに高校三年生になった。 まだ奏斗に想いを寄せている水樹の前に現れたのは、守谷 彼方という転校生だ。優しい性格と笑顔を絶やさないところ以外は奏斗とそっくりの彼方から「友達になってくれるかな?」とお願いされる水樹。 水樹は奏斗にはされたことのない優しさを彼方からたくさんもらい、初めてで温かい友情関係に戸惑いが隠せない。 そんなある日、水樹の十九の誕生日がやってきて──。

幼馴染は俺がくっついてるから誰とも付き合えないらしい

中屋沙鳥
BL
井之原朱鷺は幼馴染の北村航平のことを好きだという伊東汐里から「いつも井之原がくっついてたら北村だって誰とも付き合えないじゃん。親友なら考えてあげなよ」と言われて考え込んでしまう。俺は航平の邪魔をしているのか?実は片思いをしているけど航平のためを考えた方が良いのかもしれない。それをきっかけに2人の関係が変化していく…/高校生が順調(?)に愛を深めます

処理中です...